薄緑の蛍
おっと!人間さんへの挨拶が遅れたな?俺は四ツ矢蛍ってぇんだ。よろしくなぁ。まあ、中には人外さんもいるかもしれねぇけどさ。ピースだぜ!
「うまぁく、火乃香から逃げ切ったぜ!おクさん!グラムの旦那!」
現在の俺は、獄界から魔界へと移動し終えたところなのさぁ。そんでもって、現在地は、魔界の魔王城の秘密の一室。机の対面に座るクトゥクルーこと、おクさんが苦笑いをこぼしつつ、綺麗な動作で机に紅茶カップをおいた。床ではふかふかのカーペットの上に布を広げ、宝石を眺めては磨くメルトグラムこと、グラムの旦那がいる。
「そうだね!正直助かったよ。この調子で頑張ってもらうから、よろしくね?」
おクさんが俺に笑顔をむけているが、なんとなく圧を感じる。まあそりゃ、そうだよなぁ。獄界での問題を解決したら、すぐにでもこの部屋に戻ってくる予定だったところを。無理を言って、火乃香にあってから帰ったんだしなぁ。闘技場?まあ、現状が落ち着いてからなら大丈夫なんだけどな!
「現在の獄界の主は蛍だからな。まだ公にはされていないが、補佐となる人物を見つけしだい公にする予定だぞ?」
「そうだよ!だからそれまで和菓子屋はまっててね?」
グラムの旦那が赤い宝石を磨きながら、少し焦った声色で。おクさんはほんのりと諭すように言う。
「補佐も和菓子屋も気にしなくても大丈夫だぜぇ?こっちである程度候補をしぼったしさぁ。それに和菓子屋の引き継ぎは終わったとこさっ!」
「そうか?無理はするなよ」
「グラムくんは心配性だね、そんなとこも好きだよ?でもね!心配しなくても、蛍くんならアドリブでどうにかできる。そうでしょ?」
「おうっ!その通りだぜ?グラムの旦那」
おクさんがにこっと笑いながら言い。俺が同意をする。自慢になっちまうが、俺の特技はアドリブさっ!
「……確かにその通りだな。クトゥー、今夜は長話になるだろう。コーヒーをいれて来てくれないか?」
「それじゃあ、補佐候補の子を書いてまっててね!グラムくんにはいつも通りミルクをいれてくるね!」
俺に紙とペンを渡し、おクさんが部屋を飛び出していく。グラムの旦那の側に、いつでも居たいおクさんらしい行動だ。
「さて、この黒いワンコと。白いライオンが俺の中で一二を争う候補なんだが。グラムの旦那はどっちがいいと思う。ま、それと。できれば戦ってみてぇんだけど、ダメかい?」
グラムの旦那は今まで磨いていた赤い宝石をおき、代わりに二個薄緑の宝石手にとり磨き始めた。なんというか、さっきよりも丁寧な動作がなぁ。ううーん、ちと凄みを感じる。
そんで。互いにぶつかり会う宝石だが、片方の宝石は最初からヒビが入っているようだ。ぶつかるたびヒビ割れた宝石から、カケラが手の中から溢れていく。それを悲しそうに微笑みながら見るグラムの旦那。
すっかり最後までヒビの入っている宝石を、宝石の砂に変えて見せたグラムの旦那は。残った緑の宝石を大事そうに撫で、赤い宝石と緑の宝石を別々に布に包みこんだ。
「戦いはまだ先でもいいんじゃないか?」
「わーお……そうしとくぜ」