8話・魔法のチカラ
「モンスターを倒すと、レベルが上がる。レベルが上がればSPを獲得出来て、スキルを覚えられる」
「では、次の目標は」
「レベル上げだな、行くぞ!」
「はい、何処までもお供します」
そんなテンションでダンジョン攻略を進めて行く。
若干彼女の雰囲気に乗せられていた。
やはり俺も男のようだ。
あのように慕われると、こう、くるものがある。
そんな感じでモンスターを次々と倒す。
道中現れたモンスターは全て倒したな。
強めのモンスターは俺が弱らせて、トドメは琴音。
琴音でも倒せそうなら彼女に任せる。
彼女は治癒魔法を初期スキルで覚えていた。
なら他の魔法系スキルも取得出来る可能性がある。
なので早い段階で攻撃魔法を覚えてもらいたい。
それだけで、戦術の幅が広がる。
投擲だけじゃ無理があるからな。
「琴音! 一匹任せられるか?」
「問題無いです……!」
歩く骸骨が四匹現れる。
三匹は俺が相手をし、残る一匹を琴音が。
これだけでもかなり楽になる。
今までなら四匹同時は少しキツかった。
「っは!」
骸骨の頭を片手剣で斬る。
その勢いで回転しつつ、横に飛ぶ。
ポーチから小石を取り出し、向かって来る骸骨の内の一匹に目掛けて投げつける。
足を止める一匹の骸骨。
その隙にもう一匹の骸骨の首を断ち切る。
盾で防御したが、盾ごと破壊した。
レベル10になってから調子が良い。
骸骨程度の持つ武器や防具なら簡単に壊せる。
「はあっ!」
琴音の方も、倒せはしないが善戦してた。
無理に攻めようとせず、敵の出方を伺う。
杖を巧みに扱い堅実に戦っていた。
多少の傷なら自ら癒せる。
足止めとしてなら、十分に戦えていた。
とは言え無駄に傷を負う必要もない。
さっさと彼女を手助けしよう。
「消えろ!」
片手剣を上段に構える。
そのまま振り下ろし、更に再び上段へ。
Vの字のように骸骨の胴体を斬りつける。
バラバラになる骸骨。
最後に頭を踏み潰し、塵と化した。
直ぐさま琴音の元へ向かう。
だが、杞憂に終わったようだ。
「……おわり、です」
杖の先端が骸骨の頭を叩き割る。
自然、骸骨は崩れ落ちた。
きちんと相手の弱点を突いている。
今日が初めてなのに、上手く戦えているな。
元々素質があったのだろうか。
「俺が手を出すまでも無かったな」
「総司さまの、ご指導のおかげです」
「俺は弱点を教えただけだよ」
琴音は隙あらば俺を立てようとする。
いい加減、慣れるべきか。
しかしまだ会って二日も経ってない。
なのに、もうずっと一緒にいるような気分だ。
ダンジョンの空気が、そう感じさせているのかも。
「ずっと連戦だったし、少し休憩しよう」
「はい、それから今の戦いで、レベルがまた一つ上がりました」
そう言いながら琴音はステータスを表示させた。
[テイエンコトネ]
Lv4
HP 50/50
MP 80/80
体力 9
筋力 9
耐久 9
敏捷 9
魔力 12
技能 【治癒魔法】【】【】
SP 3
順調にレベルアップしていってるな。
そろそろ新しいスキルを取ってもいい。
最初は戦いの空気に慣れさせる為、あえて魔法系のスキルを取らせずに近接戦闘をやらせていた。
もうその必要も無くなってきている。
魔力の数値を上げる為にも魔法で戦った方がいい。
俺はその旨を彼女に伝える。
「では、どんなモノを覚えた方がいいでしょう?」
「そうだな、攻撃魔法は確定として……」
琴音が覚えられる攻撃魔法を教えたもらう。
炎魔法、風魔法、雷魔法、沼魔法、毒魔法。
これが今取得出来る攻撃魔法スキルだと言う。
沼や毒は搦め手として有用そうだが、今欲しいのは純粋に攻撃力が高い攻撃魔法なので却下する。
となると炎、風、雷の三つか。
正直三つの中ならどれでもいい。
なので琴音本人に決めてもらおう。
「琴音、お前は炎、風、雷、どれがいい?」
「……では、雷魔法を選びます」
こうして琴音は新たに雷魔法を覚えた。
「即決だったけど、理由でもあったのか?」
「これと言った理由はありません。強いて言うなら、素早くて力強いイメージが、自然の雷にありまして」
素早くて力強い。
自然の雷は確かにそんなイメージだ。
雷の速度に反応するなんて不可能だし、雷が落ちた建物は最悪火災が発生して全焼する。
そう考えると、雷には火の側面もあるのかもな。
「そうか。あと俺もレベル11になったぞ、ほら」
[ササキソウジ]
Lv11
HP 125/125
MP 50/50
体力 17
筋力 21
耐久 17
敏捷 21
魔力 11
技能 【片手剣術】【投擲】【】
SP 9
「流石です、総司さま」
「相変わらず魔力は上がらないけどな」
取得スキル一覧も更新されない。
魔法用に最後のスロットを開けているのだが、この先も取得する可能性が無ければ他のスキルを早めにセットしておいた方が効率的だ。
だけど魔法への憧れも捨て切れない訳で……
「よし、次は琴音の雷魔法を試そう」
「はい」
まあ、攻略に不備は生じてないからいいか。
魔法を取得出来るアイテムがあるかもしれないし。
気を取り直して次に進む。
ダンジョン内の景色はあまり変わらない。
偶に壁の水晶の色が変わるくらいだ。
「……別れ道、ですね」
「二つとも既に確認済みだ、右に行こう」
「差し出がましいようですが、何故右の道を?」
当然の疑問なので、直ぐに答える。
「左はモンスターのレベルが突然上がる、体感で7から9くらいのモンスターだな。大して右側の道はモンスターの強さの上がり方は緩やかなんだ」
実を言うと、左側の道は最近攻略したばかりだ。
モンスターが強くて中々進まなかった。
道の果てに更なる地下へ続く階段を見つけたが、今の俺では実力が足りないだろうと思い見送っている。
「ご説明、ありがとうございます」
「一々気にしなくていい、さあ行こう」
右側の道へ進んで行く。
数分後、目当てのモンスターと遭遇した。
「グルルル……!」
「あのモンスターは……?」
「魔眼ライノスって呼んでる。突進攻撃が特徴で、人一人なら軽く突き飛ばせる危険な奴だ」
外見はサイに近い。
但し赤黒い肌をしていて、体表の至る所に目を連想させる不気味な模様がこれでもかと付いている。
そして本当の目も血走っていて恐ろしい。
しかも、あの両目には能力が備わっている。
「見た対象の動きを三秒間止めるんだ」
「三秒間、ですか」
「ああ。そしてそれだけあれば、あのモンスターのツノの餌食になれるってワケだ」
「グモオオオオオオッ!」
そうこうしてる内にライノスが突撃してくる。
既に奴の射程圏内だ。
「琴音、離れろ!」
「はい!」
琴音が飛び退く。
だが俺はその場に留まった。
「総司さま!? 何故……!」
「俺が奴を引きつける、トドメはお前がやれ」
ポーチから小石を出し、ライノスへ投げる。
だが、ライノスの皮膚には傷一つ与えられない。
小石ならこの程度のダメージだ。
「グモオオオオオオ!」
「……ふん、やはりな」
瞬間、身動きが取れなくなる。
ライノスの魔眼だ。
「グモオオオオオオッ!」
怒りに任せなライノスが突っ込む。
同時に奴は勝利を確信していた。
このままだと、俺はツノに貫かれて死ぬ。
だが––––
「……総司さまに触れる事は、琴音が許しません」
「グモッ!?」
「––––プラズマショット!」
閃光が迸る。
杖の先端に現れる、雷の球体。
それが一直線に射出された。
狙いは勿論、魔眼ライノス。
「グモオオオオオオオオオオオオッ!?」
被弾した直後、ライノスは苦悶の叫びを上げる。
小石程度なら傷一つ付けられない硬い皮膚。
しかし、電流には弱かったようだ。
放電は暫く続き、ライノスを丸焼きにする。
数秒後、ライノスはアイテムを残し消えた。
「想像以上だな、魔法の威力は」
「総司さま!」
琴音が駆け寄って来る。
その顔に、少し驚く。
ダンジョンに入ってからも変わらなかった表情。
それが今は、不安と焦燥に包まれていた。
「ど、どうした?」
「危険です総司さま、何故あのような事を」
「あれが一番楽な倒し方だったからだ」
「……次から、あのような事はやめてください」
「あ、ああ、分かった」
凄い剣幕だ、思わず頷いてしまう。
「……なあ、どうしてそこまで心配するんだ? 昨日今日会ったばかりの仲だよな、俺達」
だから、聞いてしまう。
何故そこまでするのかと。
琴音は、小さく微笑みながら答えた。
「総司さまはそうでも、琴音は違います。昨日今日会っただけの関係とは、思っていません。貴方さまは、私を救ってくれた殿方なのですから」
そんな事を言われたら、もうお手上げだ。
助けた事を気にするなとも言えない。
とにかく「そうか」と言って先に進む。
なんとも格好つかない男だ。