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50話・鼠の王

 

「庭園三門……だと?」


 声の主は、自ら名乗った。

 庭園三門。

 庭園という苗字には聞き覚えがありすぎる。


「馬鹿な……庭園三門だと!?」

「目黒さん、知っているのか?」

「あ、ああ。大企業、庭園グループのトップだ」


 目黒さんは慌てながらも答える。

 日本の経済に深く関わっている巨大な組織らしい。

 そのトップの男と、同じ苗字。


 これは偶然なのか?

 琴音は親から勘当を言い渡されたと聞く。

 仮に、庭園三門が琴音の父親だとして……


 何故今更彼女を求める必要がある?

 自ら捨てた癖に。

 いや、今は庭園三門の正体なんてどうでもいい。


 奴がどうあれ、琴音を攫ったのは事実だ。

 絶対に、何があっても取り戻す。


「目黒さん。俺、行かなくちゃ」

「分かっている。庭園くんを取り戻すのだろう?」

「ああ、そのつもりだ」

「私も出来る限り、協力しよう。とにかく今は本部と連絡して、体制を立て直そう」


 本当は直ぐにでも飛び出したい。

 だが、俺達は傷を負いすぎた。

 ステータスを開き、HPバーを見る。


 目に見えて分かる程減っていた。

 流石にこの状態で戦いに行くのは、無謀がすぎる。

 琴音を確実に助ける為にも、休息は必要だ。


 それにあの空中戦艦に辿り着く方法がない。

 ソラも傷を負っているし、あの規模の兵器だ。

 対空システムは当然のように積んであるだろう。


「通信は……駄目だ、機械が壊れている」

「仕方ない、歩いて行こう。お前ら、歩けるか?」

「な、何とか……」

「ありがとう、助けてくれて」

「礼はいい、直ぐに移動を始めるぞ」


 お互いに支え合いながら、クレーターの中を進む。

 雑草一本も生えていない。

 大地は軒並み、焼け野原にされていた。


 しかもその規模が桁外れに広い。

 一体どれ程の破壊力だったのか。

 歩いても歩いても、クレーターは続く。


 本当に北海道の三分の一がこの有様なのだろうか。

 だとしたら復興は絶望的だ。


「俺達、よく生き残れたな……」


 生き残った一人の冒険者が、ぽつりと呟く。


「レベルのおかげだな、お前幾つだ?」

「22だ。だけどHPはギリギリだよ」


 となると、レベル20前後がボーダーラインか。

 あの砲撃に耐えられるかどうかの。

 もし、鼠があの砲撃を日本全国に撃ち始めたら。

 果たして何人が生き残れるのだろう。

 そう簡単に連射は出来ない……と、思いたい。


「––––さん! 目黒さん!」

「この声は……駒野か!?」


 クレーターの向こう側。

 そこに複数の人影が現れた。

 背後には一台の車が停まっている。


 声の主は駒野さんだった。

 目黒さんの部下である。

 彼の支援魔法はかなり強力だ。


 彼とその仲間と思われる人達は、急いで車に乗って俺達が居る所までやって来る。


「目黒さんに笹木さん、ご無事でしたか……!」

「ああ……」


 歯切れ悪く、目黒さんが頷く。

 俺も素直に無事だとは言えない。

 失ったものが、余りにも多すぎた。



 ◆



 約一時間後。



 俺達は駒野さんが運転する車に乗せられ、冒険者協会北海道支部に足を運んでいた。

 協会内はこれでもかと混乱している。


 テロリストによる日本転覆宣言。

 それも妄言ではなく、実際に行動に移されている。

 どうやら国会議事堂は占拠されてしまったようだ。


 テレビやラジオは、その話題で持ちきり。

 報道陣が国会議事堂の周りで撮影を続けている。

 今のところ、鼠からの新たなアクションは無い。


「何もかもが、用意周到すぎる。幾ら何でも物事が奴らの思うように進みすぎだ」


 目黒さんは協会幹部達の会議で発言する。

 隣には俺も座っていた。


「それについて、一つ明らかになったことが」

「何だ?」

「やはり裏切り者が居ました。それも本部に」

「……くそっ!」


 ダンッ! 目黒さんは強く、机を叩いた。

 言葉にならない苛立ち、悔しさ。

 裏切り者が居る事は、予想していた。

 しかしずっと、対処出来ずにいたのだ。

 俺達は最後まで正体を突き止められなかった。


「誰なんだ? その裏切り者って奴は?」

「複数居ますが……大物ですと、向上さんです」

「向上……は、何だ。そういう事かよ……」


 はは、と自嘲気味に笑う。

 あいつか……あいつの手引きか。

 要するに、これは仕組まれた罠。


「俺達を北海道に集めたのも、あの砲撃で敵になる冒険者や協会員をまとめて処理する為だろうな。冒険者狩りの正体も、鼠で間違いなさそうだ」

「総司くんの言う通りだろうな……白川議員とは、連絡が取れたか?」

「それが、丁度国会議事堂に居たようで……総理や他の重鎮も、会議で居たようです」


 鼠はこれを狙っていたのか。

 日本の政治家が一堂に集まる場所。

 そこを占拠し、政治家達を人質にする。


 何ともまあ、回りくどいやり方だ。

 とは言え、これで一つハッキリした。

 あの空中戦艦の主砲は連射出来ない。


 出来るならさっさと撃ちまくって、逆らえばこうなると日本中に思い知らせばいいのだから。

 そうはせず、態々地上に降りて破壊活動を行う


 付け入る隙があるとするなら、そこか。

 頭の中で琴音を取り返す算段を付ける。

 今はまだ動けない。

 HPが完全に回復するのは……明日辺りか。

 それまでに準備を進めよう。


「我々は、これからどう動きましょうか?」


 一人の幹部が言う。

 冒険者協会のトップも拉致されている。

 幹部も何名か先程の砲撃で死んでいた。


 命令系統は乱れ切っている。


「市民を守る、これしかあり得ない」


 そんな中で、目黒さんは断言した。

 流石自衛官としか言えない。

 そして、その気持ちは他の幹部も同じようだ。


「まずは自宅待機を発令しよう」

「た、大変です!」

「次から次へと、一体何だ!」


 一人の協会員が携帯電話を持ちながら言う。


「たった今、新たな情報が入りました!」

「聞こう」

「鼠と思われる組織の人間が、日本全国で一斉に破壊活動を始めました!」

「一斉に、だと……?」


 鼠による破壊活動。

 それが本格的に始まったようだ。

 それも日本全国同時に。


 まるで軍隊のように統率が取れている。

 いつでも動けるよう、準備していたかのようだ。

 実際ここまで鼠の思惑通りに事が進んでいる。


 俺達は後手もいいところだ。


 ふと、数ヶ月前のことを思い出す。

 あれはダンジョンが発生してまだ間もない頃。

 琴音と二人でリサイクルショップに行った。


 そこはダンジョン産の品物を取り扱う店。

 店主の名前は……ドウジマ。

 ドウジマさん、彼は言っていた。


 自分も所詮、組織の鼠だと。

 何者かに操られていると、匂わせていた。

 それは……そういう事なのか?


 彼のように、鼠に属する人間は多数居て……いつでもテロを決行出来るようにしていた。

 なんて用意周到な奴らだ。


「既に軍畑さんが部隊を連れて鎮圧に向かってます」

「あいつ一人では負担が大きすぎる、我々も行くぞ」

「はい、だけど目黒さんは休んでいてください。それから笹木さんも、貴方は我々の希望ですから。今は回復に専念してください」


 釘を刺されてしまう。

 これでは戦おうにも現場へ向かえない。

 隣の目黒さんと顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。


 お互い戦うつもり満々みたいだったようだ。

 そんな様子を見て、周りの人達が呆れる。


 まあ、直接的な戦闘以外にも、やる事はある。

 彼の言う通り、今はとにかく傷を癒すのが先決だ。

 聞けば協会の中にも治癒魔法の使い手はいるらしい。


 ただ、治癒魔法で癒せるのは、あくまで傷そのもの。

 失った血は戻らないし、体力も回復しない。

 そればっかりは時が経つのを待つしかないのだ。


 海外の方ではHP、MP、精神力も全快する夢のような薬品がドロップしたとかしてないとか……噂だし、無い物ねだりをしたって仕方ないか。


 この日の会議は結局、ここでお開きに。

 俺は北海道支部の宿舎に案内された。

 想像以上に疲れていたのか、直ぐに眠ってしまう。


 そして夜になって、ふいに目覚めた。

 リモコンを操作して備え付けのテレビを付ける。


『鼠を名乗るテロ集団は、今なお破壊活動を続け……きゃ! ちょっと、これ以上は無理––––』


 プツンと映像が途切れ、スタジオが凍りつく。

 鼠の破壊活動は昼夜問わず行われている。

 先程まで流れていた映像では、鼠の戦闘員達が魔法を使い建物を玩具のように壊していた。


「ふざけやがって……」


 奥歯を噛む。

 どうして、今なんだ……これからって時なのに。

 やっと、やっと幸せを掴めそうだった。


 琴音と二人で、上手くやってけそうだったのに。

 仲間と呼べる人も数人出来た。

 俺自身も積極的に、協会の為に働いてきた。


 なのに、どうして––––!


「っ!」


 言葉に出来ない怒りが、全身を包み込む。

 それはマグマのように熱く煮えたぎっていた。

 いいさ、そっちがそのつもりなら、やってやる。


 鼠だがマウスだが知らねーが、俺の幸せを奪うなら……誰であろうとぶっ潰す。

 例えそれが、琴音の父親でも。

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