47話・冒険者狩り
いつか、こんな日が来るとは思っていた。
しかしそれは、もっと先の未来だと考えていた……否、そう思い込む事で現実逃避をしてきたと言える。
少し考えれば、誰でも思い当たる事だ。
モンスターを倒せば、レベルは上がる。
理屈は分からないがそういうものだ。
そして、モンスターにもレベルは存在する。
これは鑑定系のスキルを使えば分かる事だ。
だから、レベルアップはこういう風にも考えられる。
倒したモンスターから、レベルを奪っていると。
モンスターを倒した際の経験値は異なるから、全てを奪っているのではなく、一部だけなのだろう。
そこまで考えが至れば、あとは簡単。
モンスターはレベルを持っている。
だったら……レベルを持っている、人間は?
レベル持ちの人間を殺したら、レベルは上がるのか?
◆
「冒険者狩り?」
「ああ、最近全てのダンジョンで横行している」
「おいおい、日本はいつから世紀末になったんだ?」
峰打達大学生を鍛えていたある日。
俺は目黒さんに呼ばれ、冒険者協会に来ていた。
いつもの千葉支部ではない。
東京にある、冒険者協会の本部だ。
本部のビルはそれはもう巨大だった。
協会ように国が丸ごと買い取ったとか。
金の使い方のスケールが段違いだな。
とにかく、俺は協会本部の一室で、目黒さんから呼び出しを受けた理由を聞いていた。
最近、どのダンジョンでも冒険者狩りが横行しており、ダンジョン内の治安が極悪になっているらしい。
被害にあった冒険者は数知れず。
初心者だろうが熟練者だろうが関係なく、集団で襲われ命は勿論、身に付けている装備まで奪われている。
組織的な犯行なのは、まず間違いない。
「協会はどう対策するつもりなんだ?」
「監視を常にダンジョン内へ派遣している、それから出入り口での冒険者カードの確認を徹底させるつもりだ」
「まあ、妥当なところだな」
……いつか気づく奴が現れると思っていた。
人を殺しても、レベルは上がる。
モンスターを殺すよりも、圧倒的に早く。
「こんな事は許されない。冒険者の数が減る事は、今や国の利益を奪う事に等しい、国家反逆罪だ」
「この時代にそんな言葉を聞くなんてな……」
「協会も本気だ、そこで君を呼んだのだろう」
この後、本部のお偉いさんと会うらしい。
協会本部の職員は自衛隊関係者だけでなく、政府関係者……官僚達も何人か居るようだ。
国家冒険者に任命されたとは言え、俺は基本一般人。
生きてる内にこんな事に巻き込まれるなんてな。
流石に緊張してくる。
「なに、私も同行する。そこまで緊張しなくていい」
「そうは言ってもな……」
「別に君を取って食おうってワケじゃないんだ」
そんな感じで目黒さんと共に本部の中枢会議室へ。
既に冒険者狩りについての議論が交わされている。
俺達は途中参加って形だ。
いつぞやの埼玉邪竜事変を思い出す。
あの時も、こんな風に参加したっけ。
「失礼します。千葉支部責任者の目黒です」
「国家冒険者の笹木だ」
「やあ、よく来てくれたね、二人とも」
やたらと豪華な扉を開ける。
すると、一人の男が俺達を待ち構えていた。
年齢は五十代に差し掛かるかどうか。
恐らく、地毛は違う色なのだろう。
無理に染めてるであろう真っ黒な髪が印象的だ。
その所為か、雰囲気は三十代くらいに思える。
「お久しぶりです、向上さん」
「目黒さん。こちらこそお久しぶりです」
……向上?
今、目黒さんはこの男を「向上」と言ったのか?
少しばかり動揺する。
同姓の人物なんて山程居るだろう。
だから焦るような事ではない。
先日出会ったヤツと関係があるのかどうかなんて、調べてみないと分からない事なのだから。
「紹介しよう、総司君。彼は向上輝彦、我々冒険者協会に多額の寄付……まあ、スポンサーのような事をしてくれている人だ」
「スポンサー……」
先日会った向上は、確かこう言っていた。
自分は向上財団の跡取りだと。
点と点が、線で繋がる。
出来れば無関係でいてほしかった。
「君も知ってるだろう? 向上財団の名前くらいは」
「まあ、一応……」
「はは。君のような若者にも知れ渡っているとは、光栄の極みですな」
向上輝彦は気さくに笑う。
その笑みが仮面なのは直ぐに分かった。
影が、重なる。
息子であろう向上輝人の、影と。
勝手に要注意人物だとマークする。
「君達、いつまでそこで話している? 早く席に着きたまえ。会議はまだ続いている」
「白川さん、これは失礼しました」
向上輝彦は頭を下げ、自分の席に戻った。
俺と目黒さんも用意された座席へ向かう。
「目黒さん、あの人は誰だ?」
「白川重兵衛、防衛省の官僚だ」
こっそり耳打ちして聞く。
成る程、防衛省の人間か。
官僚とは思えない程がっしりした体躯だ。
「では、会議を再開させて頂きます」
白川さんの隣に居る、秘書っぽい人が言った。
会議室はそこまで広くない。
長方形の机(これもやたらと絢爛)があり、拳一つか二つ分のスペースごとに人が座っている。
手元には何枚かの資料が置いてあった。
俺と目黒さんが座っているのは、壁際の椅子。
同じような人が何人も居る。
恐らく各協会の代表者達だろう。
なら中央に座しているのは、皆政府関係者か。
「警備を強化する方針でいいんじゃないのか?」
「その警備員すらも、既に何名か殺害されています」
「監視カメラを付けるとか……」
「ダンジョン内は特殊な環境故か、電子機器の類は基本的に使用不可です。資料に書いてあったかと」
おっさん達の会議が三十分程続く。
俺は半ば呆れていた。
同じような内容が延々と続いている。
具体案もなく、こうであってほしい、そうなってほしいという願望のような方針モノばかり。
現場で人が死んでいるんだぞ?
危機感というものがまるで感じられない。
近所の犬猫が事故にあって死亡した、くらいの感覚だと錯覚させられそうになる。
「一つ、いいでしょうか?」
泥のように混濁した会議室。
向上輝彦は、そこに自ら突っ込んだ。
「どうぞ」
「では、僭越ながら。私の考えとしましては、ここは治安維持を理由に討伐……失礼、捕縛部隊を送り、一網打尽にしてはどうでしょう?」
会議室が騒つく。
今まで誰も口にしなかった提案。
しかし、誰もが思っていたこと。
「部隊を送る……ですか」
「はい、その際は私も惜しみなく、援助しましょう。それに私の息子は凄腕の冒険者でもあります。協力する事を約束させてみせましょう」
「しかし……冒険者狩りとの、直接的な戦闘は……」
皆が思いながらも、発言するのに躊躇していた理由。
それは責任だ。
もし自分の発言で部隊が編成され、ダンジョンに送り込まれ冒険者狩りとの戦闘が起こり……万が一、部隊が反撃に合い誰か一人でも死者が出ようものなら。
世間からのバッシングは免れないだろう。
発言者として責任を取らされるのは、間違いない。
「犯罪者との戦闘なら、前例もあります。ねえ、目黒さん、笹木さん?」
突然話題がこちらに振られる。
いや、最初から狙ってたのか。
思い起こされる、村上捜索の任務。
「お言葉ですが、あれはあくまで捜索任務でした」
「似たようなものでしょう? 是非、その時の知恵を貸してもらえたらと」
目黒さんはあくまで捜索任務だと言う。
だが会議室の空気は既に決まっていた。
「……分かりました。ですが、流石に我々だけで組織的と思われる冒険者狩りを相手にするのは、難しいかと」
「その点は問題ない。私が必要な人員を呼ぼう」
白川さんが言う。
謎の組織的犯罪者、冒険者狩り。
その対象は俺達千葉支部に任された。
「期待してますよ、笹木さん」
「……」
向上輝彦……
まるでこの男にレールを敷かれたみたいだ。
彼の発言でこうなったのだから、間違いでもない。
それが偶然なのか、意図的なのか。
どちらにせよ、列車は既に走り出した。
レールが誰のものであれ、終点まで走るしかない。




