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43話・特訓〜負けるな大学生〜

 

「それじゃあ、次はダンジョンに潜るか」

「え、もうですか?」

「ああ。改善点はもう見つけた」


 峰打が言う。


「流石笹木さんです」

「一々持ち上げなくていい、それよりお前ら、本当に覚悟は出来てるのか? ダンジョンへ向かう、な」


 峰打を含む七人の顔色が強張る。

 彼らは一度、ダンジョンで痛い目を見た。

 それでも自分の意思で冒険者を続けたいと願った……その意思を、もう一度確認しておきたい。


 出来る限りフォローするが、ダンジョン内では何が起きるか分からない。

 怪我人は勿論、死者が出てもおかしくないのだ。


「はい、出来ています。自分達でもう一度ダンジョンに踏み入った、あの時から」

「……そうか。それならいいんだ」


 だったらもう、何も言うまい。

 俺は七人を伴ってダンジョンを目指した。



 ◆



「今日はこれから、一人でモンスターと戦ってもらう」

「一人で、ですか?」

「そうだ」


 千葉ダンジョン一階層。

 そこに俺達は集まっていた。

 装備は全員整えている。


「チームワークは必要だが、その前にまず、個人技を鍛えておきたい。常に多人数で戦えるとは限らないからな」

「わ、分かりました」

「少し不安ですけど……やってみせます」


 そう言う彼らの顔色は若干暗い。

 今までずっとチームで戦っていたなら当然か。


「琴音、またお前に頼る事になりそうだが、いいか?」

「構いません。寧ろ、もっと頼ってください、総司さま」


 琴音にはまた治癒魔法で待機してもらう。

 回復役は現状、彼女しかいない。

 治癒魔法の有る無しで安心感がまるで違う。


 その一方、一人だけを頼りにするのは危険だ。

 治癒魔法だってMPを消費する。

 無限に使える訳じゃない。


「危なくなったら俺が割って入る、だから安心して、伸び伸び全力で戦ってくれ」

「じゃあ私がやるわ!」


 ビシっと片手を上げたのは加藤。

 自信満々といった感じだ。

 彼女のスキル構成は前衛向き。


 盾で攻撃を防ぎ、剣で反撃する。

 上手く扱えればとても安定する戦闘スタイルだ。

 が、本人の性格故か、イマイチ盾の使い方が悪く、防御を疎かにしてる節があると俺は考えている。

 さっきの模擬戦でもそうだった。


「モンスターは……あそこか」


 敵感知スキルの応用でモンスターを探す。

 このスキルはスキルの有効範囲内に入ったモンスターの位置を知らせる、つまり自分から歩いて探せば、そのままモンスターを見つける探知スキルになる。


 ナイフを投げ、軽く脅かす。

 モンスターは岩陰からヌっと現れた。


「グリュリュリュ……!」

「ワームか、レベル5なら丁度良いか?」


 蛇のように長く太い体を持った虫系モンスターだ。

 体長は約二メートルほど。

 頭と思われる部位は、なんと全てが口。

 目や鼻はなく大顎しかない。


「……き、気持ちワル……で、でも……!」


 加藤は生理的嫌悪を感じてるようだ。

 それでも剣と盾を前に構え、向かって行く。

 正直、俺もあの手のモンスターは好きじゃない。


「琴音はああいうの、平気か?」

「……総司さまの、ご命令なら、何でも、致します」

「無理しなくていいからな、よしよし」

「うう……そ、総司さま……」


 彼女は平静を装っているが、若干手足が震えており、言葉にも力が入っていなかった。

 やはり嫌悪感を感じているようなので、頭を撫でて落ち着かせる……て、これじゃあペットと飼い主だ。

 女の子の頭に不用意に触るのは、ダメか。


「すまん、嫌だったか?」

「あ……いえ、そんな事は無く……はい」


 彼女は名残惜しそうに俺の手を眺める。

 どうやら嫌では無かったようだ。

 今度はもう少し長く撫でてみよう。


「さ、笹木さん!? 私の戦い見てるんですか!?」

「グリュリュリュ!」

「ぐ、こ、このっ!」


 は、しまった、完全に忘れていた。

 慌てて加藤とワームの戦いを見る。

 若干だが、加藤の方が押されていた。


「や、はあっ!」

「加藤! 剣を無闇に振り回すな!」

「で、でもっ!」

「まずは盾で防げ、敵の攻撃を見切るんだ!」

「や、やってみます……!」


 加藤は剣を振り回すのをやめ、防御に専念する。

 敵の攻撃を見切るとは言ったが、簡単じゃない。

 ……普通の人間ならな。


 だが、レベルを上げた人間は、普通じゃない。

 動体視力も強化されているのだ。

 ちゃんと見れば、しっかりと見切れる。


 幸いワームは特殊な攻撃をしてこない。

 攻撃パターンは突進か噛み付きくらいだ。

 レベル5のステータスと盾があれば、まず負けない。


「……あっ、見えた!」

「グリュリュ!」

「っそこ!」


 ほお……加藤の奴、覚えが早いな。

 ワームの隙を見抜き、無駄の無い動きで反撃した。

 胴体を切り裂かれ、紫色の血を流すワーム。

 一度切り崩せばあとは簡単。

 加藤はあっさりとワームに勝利した。


「や、やった……! こんな簡単に!」

「少しは盾の扱い方を覚えたか?」

「は、はい! ありがとうございます!」

「よし、次だ」


 そうやって順々にモンスターと戦っていく。

 最初は本人に自由にやらせ、途中俺が口を挟む。

 それだけで戦い方が多少なりとも変わっていく。


 彼らは元々、レベル5までは自分で上げている。

 やる気も覚悟もあるのだ。

 コツさえ掴めば、あとは勝手に強くなる。


 俺はそう考えていた。

 ただ一人を除いて。


「せい、はっ!」

「グリュリュリュ!」


 今ワームと戦っているのは峰打だ。

 槍を携え、果敢に攻めている。

 槍の特徴は、何と言ってもリーチの長さ。


 離れた距離から一方的に攻撃出来る。

 それに槍は素人が扱っても、それなりに戦える武器。

 戦国時代、例え農民でも数人で槍を持てば、敵兵を穿つ兵士の出来上がりと言われるくらいだ。


 剣と魔法のファンタジー作品では、どちらかと言うと槍よりも剣の方がポピュラーな武器であるが、現実的な思考に寄ると剣よりも槍の方があらゆる面で優れているのは、有名な話だろう。


 まあ、この世界ではスキルがあるから、一概に武器だけの性能差で決めるのは危険だが……


「トドメだ!」

「グリュリュ!?」


 峰打が持つ槍の先端が、ワームの核を捉える。

 ワームは崩れ、塵と化す。


「笹木さん、どうでしたか、俺の動き」

「悪くない。ちゃんと戦えてる、だが」

「だが?」

「お前の真価は、別にある」

「それは––––」


 どういう意味か? とでも言いたかったんだろう。

 しかし、彼の言葉は遮られた。

 突如現れたモンスターによって。


「ガウウウウウッ!」

「ガウウウッ」

「ガウッ! ガウッ!」


 降って湧いたように現れる。

 犬の顔をした人型モンスター、コボルト。

 それも一匹だけじゃない。


 十匹以上の大所帯だ。


「な、何で突然、何処から現れたのよ!?」

「しっ知るかよ!」

「お前ら、狼狽えるな!」


 突然目前に現れたモンスターの群れ。

 それを見て高山達がパニックになりかける。

 そうなる前に一喝して鎮めた。


「言ったろ、ダンジョンでは何が起きるか分からない。例えそれが、明らかに不自然でもな……丁度良い、これも訓練だ、やるぞ」

「は、はい!」


 伊藤が自ら進んで前に出る。

 いいぞ、自分の役割を理解してるな。

 彼にはスキル【魔力障壁】がある。


 これはMPを消費し、バリアのような物を作る。

 敵の攻撃を受けるのに向いてるスキルだ。


「伊藤、加藤、高山は前衛で敵を引き付けろ。田村、丸山は後ろで魔法を使って援護、日陰は分身を使って前衛と後衛、両方のサポートだ!」

「あ、あの、俺は何をすれば」


 峰打を除く六人に指示を出す。

 彼らは迷う事なく持ち場に付いてくれた。

 そして峰打に、彼にしか出来ない役割を与える。


「峰打、お前は指揮官として六人に指示を出せ」

「お、俺が指示を!?」

「ああ。お前がリーダーなんだろ?」

「は、はい、でも、笹木さんが居るのに……」

「俺は居ないものと考えろ、自分達の力で、コボルト達を倒すんだ。俺の推測だと、出来る筈だ」


 真の冒険者を志す峰打達大学生。

 そんな彼らに、試練を与える者が居るようだ。

 理由は分からないが、好都合。


 逆にそれを利用させてもらおうじゃないか。

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