2話・攻略開始
「はは……いきなりかよ……」
体長はおよそ3メートル。
浅黒い肌をした、四足歩行の大トカゲ。
壁をぶち抜いたのは間違いなくこのモンスター。
俺は早々に、ダンジョンの洗礼を受けたようだ。
オオトカゲは俺を睨む。
そして……
「……シャーッ!」
「どわっ!?」
口から炎を放射した。
俺が回避出来たのは完全な偶然。
逃げようと思ったら、転んだ。
間抜けだが、不幸中の幸いである。
炎はダンジョンの壁を焼く。
黒焦げになった壁を見て、震え上がる。
火を噴くオオトカゲ。
ああ、やっぱりここはダンジョンなのか。
ようやく実感が湧いてくる。
頭では分かっていたつもりだった。
だけどやはり、心の何処かで油断していたのだろう。
今も足がガクガクと震えている。
くそ……どうする?
どうにか逃げなければ。
このまま何も出来ずに死んでしまう。
それだけは嫌だ!
本能的な反射神経で、転がっていた石を拾う。
そして拾った石をオオトカゲの目に向かって投げる。
石は弧を描きながら、見事命中。
オオトカゲは苦しそうに顔を下げる。
逃げるなら今しかない……!
脱兎の如く来た道を戻る。
いや、待てよ?
このまま逃げてオオトカゲが追い掛けてきたら……ダンジョンの入り口を超えて、外に出てしまうのでは?
それは非常にまずい。
俺の自宅は住宅街では無いし人通りも少ないが、オオトカゲが人の多い所を目指して進む可能性もある。
そうなっては流石に寝覚めが悪い。
間接的だが、モンスターを放ったのは俺になる。
仕方ない……あえてダンジョンを進もう。
その先でオオトカゲから逃れる。
そうと決まれば、くるりと身体を方向転換。
さあ逃げよう––––あれ?
オオトカゲ、死んでないか?
「……」
オオトカゲはぐったりしていた。
まさか今の石ころの一撃で?
いやいや、流石にあり得ない。
クリティカルヒットでもあるまいし。
改めてオオトカゲの体をよく見る。
こいつ、傷だらけじゃないか。
分かったぞ、そういう事か!
一人で勝手に納得する。
このオオトカゲは何らかの敵対者に傷を負わされ、満身創痍の果てに逃げ回っていた––––その先で、俺と偶然居合わせた、だから弱っていたのだ。
ダンジョン内でも弱肉強食なのかな。
少なくとも、この強そうなオオトカゲを倒せる強いモンスターが他にも生息しているのは確かだ。
気を付けて進もう。
ん?
オオトカゲの体が……塵になって消えた。
残ったのは紫色の宝石と、一本の剣。
モンスターは死ぬと塵になる。
そういえば、そんな情報もあったな。
となるとこれがドロップアイテムか!
紫色の宝石を拾う。
鷲掴み出来る程度には大きい。
何かは分からないが、鞄に仕舞う。
もう一つは一振りの剣。
装飾の少ない、無骨な剣だ。
けどこれは純粋に嬉しい。
ダンジョンドロップ産の武器は希少だとか。
さて、モンスターを俺が倒した扱いになってるなら。
あれも付与されている筈。
俺は心の中で念じる––––ステータス、オープン。
すると、目前に文字と数字が浮かび上がった。
[ササキソウジ]
Lv1
HP 50/50
MP 50/50
体力 5
筋力 5
耐久 5
敏捷 5
魔力 5
技能 【片手剣術】【】【】
SP 0
おお……これが噂のステータスか!
興奮気味に見る。
ステータスとは、自分の能力を可視化したものだ。
ダンジョン内でモンスターを一匹でも倒すと、どんな人にも現れると囁かれていたモノだ。
各項目の意味はこうだ。
Lv……その人の強さを示す数字。
HP……生命力。ゼロになると命を落とす。
MP……魔法を使うのに消費する。
体力……スタミナ。
筋力……総合的な攻撃力。
耐久……総合的な防御力。
敏捷……総合的な素早さ。
魔力……魔法の強さ。
技能……所謂スキル。色んな種類がある。
SP……スキルの取得に必要。
ざっと見てこんな感じ。
まだまだ分かってない事も沢山ある。
俺個人の希望的観測もあるからな、これ。
……あ、なんかステータスの数字が変わった。
[ササキソウジ]
Lv5
HP 100/100
MP 100/100
体力 10
筋力 10
耐久 10
敏捷 10
魔力 10
技能 【片手剣術】【】【】
SP 4
レベルアップした。
恐らくオオトカゲを倒した分である。
本当にゲームみたいだな。
そして何だか力が湧いてくる。
試しに壁を殴ってみた。
「ふんっ!」
拳が僅かにめり込む。
痛みも然程ない。
おお、これがレベルによる強化……
レベル5でこんなに強くなれる。
なら、もっと上げる事が出来れば。
成る程、これは不法進入者が後を絶たない訳だ。
ダンジョンに潜れば単純に強くなれる。
危険を犯す見返りは、十分にあると言えよう。
俺もその魅力に囚われそうだ。
ドロップした剣を右手に装備する。
幸運にも、俺のスキルは片手剣術だ。
スキルの影響か、剣の使い方が何となく分かる。
とは言えオオトカゲはまだ倒せそうにない。
もっと弱いモンスターを倒して、経験を積もう。
そういえばSPが4ポイント貯まってるな。
消費すれば、新たなスキルを獲得出来る。
だけどまだ先送りにしよう。
振り直しが出来ないシステムだと、後々厄介だ。
まずは片手剣術で何処まで戦えるのか。
それを確かめてから、スキルを獲得しよう。
俺は奥へ進む為、歩みを早めた。
数十分後、早速モンスターと遭遇した。
170センチ程の動く骸骨だ。
右手に剣、左手に盾を装備している。
但しどちらも錆びてボロボロだ。
骸骨自身の骨も脆そうである。
やるか……
意識を集中させる。
イメージは武器破壊。
まずはボロボロの剣を叩き壊す。
一足で、駆ける。
強化された体はしっかりとついてきた。
骸骨は盾を突き出すが、無視する。
左手に回り込んで斬り込む。
対象は勿論、骸骨が持つ剣。
剣と剣がぶつかる。
予想通り、骸骨の剣はあっさり砕けた。
骸骨は慌てて盾を回す。
俺は素早く剣を振り回し、連続で斬る。
全てガードされるが、問題無い。
骸骨は武器を失っている。
あとはじっくり攻めればいい。
一撃浴びせる度、骸骨は後退する。
気づけば壁際まで追い詰めていた。
もう少しで、押し込める!
俺は剣の速度を急激に引き上げた。
そして遂に、骸骨の盾を弾き飛ばす。
そのまま頭蓋骨を真っ二つに叩っ斬る。
骸骨はバラバラになって崩れた。
俺の、勝利だ。
「はあっ、はあっ……!」
疲労感が波のように押し寄せる。
戦闘中は気づいてなかったが、消耗していたようだ。
これが初めての戦いなのだから、当たり前か。
骸骨は塵になって消えていた。
ドロップアイテムは、紫色の小石一つだけ。
用途は分からないが勿論拾っておく。
「……ふー」
未だに手足が若干震えていた。
先の戦闘では、レベルが上がらなかった。
既にレベル5だからだろう。
もしかして、俺はかなり運が良いのでは?
偶然強めのモンスターを倒せたおかげで、殆どレベル5が初期状態と言わんばかりに戦いが始まった。
これが本当にレベル1からのスタートだったら……
強く、イメージする。
自らの敗北、即ち死を。
これはゲームでは無い。
使えるモノは何でも使うべきだ。
運が良いのも、一つの武器。
命が掛かっているのだ、有効活用させてもらおう。
そう思いながら先へ進む。
すると、またしても骸骨がやって来た。
足音で大体の位置が分かったので、こちらを認識される前に全速力で突っ込んで斬り伏せる。
盾を構えさせる隙も与えない。
一刀の元に倒すと、骸骨は消えた。
今度はさっきより大きめの小石を落とす。
そんな調子で進み、モンスターを倒していく。
骸骨の他には木のバケモノ・ウッドデビルと何体か遭遇したが体が脆く、簡単に剣で倒せた。
ウッドデビルからは木製の杖がドロップする。
あとは同じような紫色の小石が数個。
十体以上倒した辺りで、やめにした。
無理は禁物、怪我をしたら大変だ。