18話・言葉
総合評価ポイントが1000を超えてました。
初めての事なのでとても嬉しいです!
今後ともこの作品をよろしくお願いします。
「今日は集まってくれて、ありがとう。私は冒険者協会千葉県支部、つまりはここの責任者の目黒冬至だ」
目黒自衛官の挨拶から始まる。
その立ち姿は堂々としたものだ。
荒くれ者が多いと予想される冒険者。
そんな者達に遅れは取らないと言わんばかりだ。
「早速だが、これを見てもらいたい」
プロジェクターが下される。
講義室が暗くなり、映像が映し出された。
内容は冒険者の主な仕事内容。
分かりやすさ重視で完結に纏められている。
要は公認のトレジャーハンターのようなものだ。
ダンジョンで入手した物を国に売って換金する。
仕組みだけなら非常に簡単だ。
だが、世の中はそんなに甘くない。
アイテムを入手するにはモンスターを倒す必要があり、それは生き物を自らの手で殺めるという事。
精神的に辛くなる時もあるだろう。
そういった事情も、目黒自衛官は隠さずに話す。
実際にモンスターを殺す動画も流していた。
何人かはそれだけで気分が悪くなる。
正直言って、お話しにならない。
どうやら儲かるという噂だけが広まってるようだ。
その噂も怪しいものだ。
儲かるのは強いモンスターを倒せる者だけ。
そこに到達するのにも、時間と才能がいる。
しかもこれからはダンジョンが一般開放されるので、レベルを上げたくてもモンスターの取り合いが起き、思うように強くなれない事態も発生するだろう。
そして何より、冒険者は命を賭ける。
自分の命を対価にダンジョンに潜るのだ。
言ってて何だが、釣り合わないな。
稼げる金額と命の価値が。
「––––以上が、冒険者についての主な説明です」
目黒自衛官の説明が終わる。
その後は挙手制の質問コーナーへ移行。
意外にも質問する人は大勢居た。
雑誌の記者が取材で来てるのかもしれない。
必死でメモを書く人物も何人か見かけたし。
「はい、質問です」
「ではそこの君から」
「冒険者って儲かりますか?」
「……」
会場全体が静まり返る。
質問したのは大学生っぽい若者だ。
近くには友人と思しき学生達も居る。
そんな友人達も、彼の発言に焦っていた。
いきなりの直接的な質問。
しかも抽象的で的を得ない。
少なくとも、先程までの説明をしっかり聞いていれば、そんな事を質問しようとは考えない筈。
ダメだなこりゃ。
普通のアルバイトだと勘違いしてる。
目黒自衛官も流石に面食らっていた。
けれど、そこは大人の威厳か。
ぐっと堪えて、真面目に答えた。
「……さっきも話した通り、冒険者の収入源はダンジョン内で手に入る資源の換金だ。勿論個人によって取れる量が変わってくるから、儲かるかどうかは、君個人の頑張りしだいだろうね」
「あ、はい」
大学生は興味無さげに返事をした。
何がしたかったんだろう。
質問コーナーは続く。
幸いにも、その後は良識ある人達ばかりだった。
俺も一度だけ挙手する。
「未成年の登録は出来るのか?」
「保護者の承諾があれば、ルール上は問題無い」
未成年も協会に登録出来るようだ。
それ程ダンジョンの利益を求めているのだろう。
琴音の登録はどうしようか。
彼女の両親に直接会いに行くか?
いや、門前払いを受けそうだし、うーん。
「質問は以上かな? では最後に、私から一つ」
まだ何かあるのか、目黒自衛官は続ける。
「これは任意だが、もし、冒険者として我々に協力してくれる者が居るなら、このまま残ってほしい」
目黒自衛官は話す。
内容を纏めるとこうだ。
日本に出現したダンジョンは六つ。
その全てを管理するのは、現状の自衛隊では難しく、有事の際の協力者を募りたい。
有事とは凶悪なモンスターの討伐、犯罪者がダンジョンに逃げ込んだ場合の捜索及び捕縛など。
暴力団が組織的にダンジョンなどでレベルを上げた場合、手が付けられなくなってしまう可能性が出てくる。
そんな時に手を借りたい、というものだ。
要するに犯罪者を敵に回すって事だ。
協力すれば協会が色々便宜を図ってくれるらしい。
だが、メリットデメリットの話なら、正直、デメリットの方が大きすぎる。
故に大半の人は席を立った。
残ったのは僅か十数名。
ま、当然っちゃ当然だな。
冒険者を目指す人達の目的は金だ。
態々犯罪者に狙われるリスクを負う必要は無い。
俺も最初は帰るつもりだった。
ただ、目黒自衛官の提示したメリット。
協会が便宜を図ってくれる、というやつだ。
それを利用して、琴音を登録させる。
「琴音、俺は残るけど、お前はどうする?」
「勿論お供いたします」
「そうか、助かる」
そくして目黒自衛官が再び口を開く。
「諸君、残ってくれてありがとう。君達にはこの後、他の冒険者とは少し違う登録書を発行してもらい、多方面に融通が効く冒険者カードを渡そう」
冒険者カードとは冒険者の身分を証明するものだ。
運転免許証と思ってくれていい。
協会に登録すると、必ず渡される物だ。
「その前に、一ついいか?」
「構わないよ……何だ、君か。さっきぶりだね」
目黒自衛官は少し驚きながら言う。
この人、オフの時は陽気そうだな。
そういう雰囲気が滲み出てる。
「それはこっちのセリフだよ」
「いや、君はてっきり帰るかと思ってね」
「俺も最初はそのつもりだったんだがな」
ちらっと隣に座る琴音を見てから言った。
「早速便宜を図ってもらいたい。彼女は未成年だが、訳あって両親とは会えない、だから許可を取らなくても冒険者カードを貰いたい」
「総司さま……!?」
「随分といきなりだな……」
ぎょっとする目黒自衛官。
まあ、普通の反応だ。
琴音と俺はどういう関係だってことになる。
周りの冒険者希望の方々も同様だ。
少人数だが、講義室が騒つく。
やれやれ、面倒な雰囲気だ。
「総司さま、そんな、私の為に態々……」
「今更お前が消えるのは、戦力的に痛い。お前の為でもあるし、俺の為でもある、これはそういう問題だ」
琴音は頑固な面がある。
だから理詰めで素早く説き伏せた。
「総司さまは、どれだけ琴音の事を救ってくれるのです? これでは返す恩が延々と積もってしまいます」
「なら一生俺に付き合ってでも、恩を返してくれ」
何気無しに返した言葉。
俺としてはいつもの調子だ。
なのに、彼女は頰を染めて動揺する。
ちょっとまて。
どんな風に受け止めたんだ?
「一生……! はい……はい! 琴音はこの先、何があっても総司さまのお側を離れません……!」
祈るように両手を組む琴音。
瞳はきらきらと輝いていた。
お互いの意識がズレてるような気がするぞ。
「目黒さん、俺はおかしな事を言ったのか?」
「……いや、おかしいというか、その、公共の面前という事を忘れてほしくないと言うか……」
目黒自衛官は気まずそうに目を逸らす。
周りの人達はヒソヒソと何か話している。
い、居心地が悪い……!
琴音はさっきから放心状態になってるし、目黒自衛官は取り合ってくれないし、他の人達は噂話でもしてるみたいで……ああもう、何だってんだ!
「目黒さん! 話しを進めてくれ! 俺の要求は認められるのか、それとも認められないのか!?」
「あっ、ああ、すまん。そうだな……」
彼は慌てながら俺と向き合う。
暫しの逡巡の後に答えた。
「君が本当に協力してくれるなら、年齢確認を見送る事など簡単だ」
「なら交渉成立だ。要するに悪人、犯罪者、クズを捕まえて差し出せばいいんだろ? 場合によっちゃ、その場で殺傷もするってわけだ」
既にレベルも15を超えた。
その辺の奴にはまず負けない。
彼らの要求は、俺にとって朝飯前だ。
アイテムドロップを粘る方が辛い。
「ま、まあそうなるが、抵抗はないのか?」
「無いね。寧ろその辺のボランティアより、よっぽど社会に貢献する事じゃないか、俺は誇らしいよ」
「……はは。やはり君は、逸材のようだ」
悪役のように笑う目黒自衛官。
とにかく俺の要求は認められた。
ならもう、ここに居座る理由も無い。
さっさと登録しに行こう。
「琴音、いつまでそうしてる。そろそろ行くぞ」
「––––は! 失礼しました、総司さま」
そんなこんなで、波乱の講習会は終わった。