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17話・いざ講習会へ

 

 講習会までの数日間、俺と琴音は主にドロップアイテムを目的にダンジョンへ潜っていた。

 講習会の近くでバザーが開かれるらしく、俺達もそこで出店しようと考えている。

 売買ではなく、情報収集の為だ。


 他にどんな冒険者が居るのか。

 考えてみれば、俺はドウジマ店主しか知らない。

 なのでこれも良い機会だ。

 今までモグリでやってた冒険者達も、さっさと登録する為に大勢やって来ると予想される。


 そして––––土曜日の昼前。

 俺と琴音は、講習会の会場を訪れていた。

 バザー出店の登録は済ませてある。


 会場は千葉県のダンジョン近く。

 ダンジョン発生に伴い、破棄さぜるを得なかった大学のキャンパスを再利用して会場は作られていた。

 冒険者協会千葉県支部でもあるらしい。


 迷彩服を着た人間をあちこちで見かける。

 全員、自衛隊の隊員のようだ。

 しかも銃器で武装している。

 中にはダンジョン産と思われる剣や槍を持っている人も居て、ぱっと見はコスプレ披露会のようだ。


「人が多いな」

「はい、皆講習会の参加者でしょうか?」


 会場はとにかく人が多い。

 その殆どが若者だ。

 大体が二十代前半から二十代後半。

 三十代以上の人も居るにはいる。


 冒険者と言っても、仕事内容は未知数だ。

 今の職業を捨てる勇気のある人は中々居ない。

 必然的に、仕事の無い若者が多くなるのは道理だ。

 フリーターや大学生も多い。


 その中で、異質な存在感を放つ者も居る。

 外見上は他と同じ。

 けれども、発するオーラが明らかに違う。


 間違いない、レベル保有者だ。


「琴音、分かるか?」

「はい。覇気が常人とは異なります」

「だよな……ま、さっさと行こうぜ」


 職員の指示に従い、講習会が行われる講義室へ。

 既に何人もの人達が席に着いていた。

 適当に座るか……そう考えていた時。

 足元に突然、足を出される。

 このまま歩けば転ぶ事は確実。


 だがしかし、レベルで強化された俺の脚力は、逆に出された足を吹っ飛ばして前に進む。

 当然、足の持ち主もすっ転ぶ。

 講義室に転倒する音が響いた。


「ぐあああっ!?」


 足を出してきたのは金髪の青年だった。

 ゴロゴロと床に転がり、足を抑えている。

 何なんだ、こいつ?

 明らかにワザと俺を転ばせようとした。

 そんな事して何になる。


「お怪我はありませんか、総司さま!」

「いや、大丈夫」

「直ぐにこの不埒者を処分します……!」

「待て待て、落ち着けって」


 闘牛のように憤る琴音。

 両肩を掴んで落ち着かせる。

 でないと本当に飛び出しそうだ。

 彼女のレベルは現在10。

 最悪、素手で相手を殺してしまう。


「テメー、何しやがるんだクソが!」

「あんたが勝手に足を出してきたんだろ?」


 痛みが癒えた青年が、案の定、逆上した。

 俺はあくまで冷静に受け答えをする。

 向こうが悪いのは誰の目から見ても明らか。

 なら、無意味に怒る必要は無い。

 事実を淡々と述べればいいのだ。


「ふざけんな! お前が俺を蹴り飛ばしたんだろ」

「蹴り飛ばしてない。あんたが意図的に出した足を、避けきれずに突っ込んだんだ、そしてあんたが吹っ飛んだ、悪いのは誰だ?」

「テメーだっ!」

「……話しにならないな」


 先に手を出したのは向こう。

 なのに失敗したら、こちらの所為にする。

 俺の一番苦手なタイプだ。

 この時代を生きる文明人とは思えない。


「総司さま、もう処分しましょう。この男、人ではありません。獣です」


 琴音は琴音で周りが見えていない。

 あーもう、誰か助けてくれ。


「皆さん、誰か悪いか分かるよな?」


 周りの人に聞いてみる。

 講義室は広く、見通しが良い。

 絶対に今の行為が見えた筈だ。

 しかし––––誰も何も、反応しない。


 事無かれ主義の日本人だ。

 誰もトラブルに首を突っ込もうとしない。

 全員、目を逸らして消えてしまう。

 参ったな、どうしようか。


「へっ、こいつで決着付けようじゃねえか」


 青年は拳を見せびらかしてくる。

 自分の強さに相当自信があるようだ。

 レベル幾つなんだろう。

 誰も助けてくれないなら、仕方ない。

 さっさと沈めて黙らそう。


 騒ぎを大きくするのは得策ではない。

 だが、この場合は違う。

 最小限の騒ぎで収めようと、俺は相手に譲歩した。

 それを奴は、自ら捨てたのだ。

 ならばもう力尽くで分からせるしかない。


「琴音、下がってろ。俺がやる」

「総司さま……はい」


 俺が直接潰すと言うと、琴音も溜飲が下がったのか、三歩後ろに下がって見守る。

 さて、どう料理しようか。

 先程の時点で、身体能力の差は明らかに。

 正直負ける要素がない。


 ざわざわと、野次馬達が集結する。

 スマートフォン片手に撮影会が始まっていた。

 勝手に撮るのは犯罪だったような気がする。

 まあいい、誰の目にも追えない速度で終わらせる。


 俺は拳を握り、一足で––––


「そこまでだ!」


 ピシャリと、空気が打ち付けられる。

 騒つく講義室を一声で鎮めた。

 その声の主は壇上からやって来る。

 迷彩服を着ているので、恐らくは自衛官。

 年齢は三十代後半から四十代前半くらい。


 目つきは鋭く、姿勢も良い。

 模範的な自衛官のようだ。


「おっさん、邪魔すんじゃねえよ」


 青年は吐き捨てるように言う。

 自衛官は特に何の反応も示さず、彼の元へ。

 そして一瞬の間に組み伏せた。


「があっ!? ぐ、テメッ!」

「悪いが、危険人物は拘束させてもらう」

「くそ、離せ!」

「スリープ」


 魔法……?

 自衛官は青年を抑えたまま、魔法を唱えた。

 すると青年は目蓋を閉じて眠りに落ちる。

 眠った青年を自衛官は軽々持ち上げ、入り口の方まで戻って職員の人に引き渡した。


「諸君、ここでは暴力行為は禁止されている。破った場合、レベル保有者の自衛官が直ちに拘束し、然るべき処罰を受けてもらう」


 それは既にレベルを持っている者への警告だった。

 余り調子に乗るなよ、というところか。

 自衛官達はそれなりにレベルを上げてるようだ。

 俺はそんな彼に問う。


「俺はいいのか?」

「君は被害者じゃないか、しかも最後まで手を出そうとしなかった」

「何だ、見てたのかよ」


 どうやら俺もパフォーマンスに利用されたらしい。

 実際に誰かが捕まらないと、分からないからな。


「さあ、何のことかな」

「よく言うぜ」

「私は目黒冬至、ここの責任者だ」

「何で名乗る?」

「君とは長い付き合いになりそうだからね」

「……訳分かんねえ、行くぞ琴音」


 琴音を連れて席に座る。

 目黒自衛官は読み取れない表情で俺を見ていた。

 レベル保有者の自衛官、か。

 モンスターよりも遥かに厄介だ。

 ま、戦うような状況なんて、訪れないだろうが。


 ……フラグじゃないぞ?


「申し訳ありません、総司さま……」

「琴音?」


 適当な席に着いた後、琴音が俺に謝ってきた。


「総司さまは当初、穏便に解決しようとなさっていましたのに、琴音は頭に血が上り、気づけませんでした……」

「その事か……確かに、いきなり相手を攻撃するのは、出来れば今後もやめてくれると助かる」

「はい……」

「でもな、それは相手を見極めろって事だ。さっきみたいに話し合いで決着が付かないようなら、寧ろ素早く攻撃した方が、結果的に身を守る事に繋がる」


 例えば、自分の眉間に拳銃を突き付けられたとして、そんな相手に話し合いが通じると考えられるか?

 相手は最初から命を奪おうとしている。

 こっちが先に銃で撃つしかない。

 正義も悪も無い、あるのは生きるか死ぬかだ。


「俺を守ろうとしてくれたのは、嬉しいよ。だからこそ、無意味に周りを攻撃するのはダメだ」

「総司さま……はい、ありがとうございます」


 琴音も分かってくれたようだ。

 そろそろ講習会も始まる頃合いだろう。

 視線をしっかり前に向ける。

 壇上には先程の目黒自衛官が立っていた。

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