16話・冒険者協会
翌日、俺と琴音は新たな武器を早速試していた。
場所はプライベートダンジョンの第二階層。
敵モンスターはオオトカゲだ。
第二階層にはオオトカゲの群れが生息してるようで、ただ歩いているだけで頻繁に遭遇する。
厄介な攻撃も特になく純粋な力技で迫ってくるので、武器の試し斬りにはもってこいの相手だ。
「グオオオオオッ!」
「っ!」
今の相手は二匹のオオトカゲ。
カーバンクルジュエルソードを鞘から抜く。
二匹のオオトカゲはそれぞれ前後を陣取り、ほぼ同じタイミングで飛び掛かって攻撃してきた。
モンスターの割に高い知能を有しているようだ。
しかし、相手が悪かった。
俺は高いステータスにモノを言わせ、まず前方のオオトカゲの攻撃をジュエルソードでワザと受ける。
オオトカゲはジュエルソードに噛み付いた。
直後にジュエルソードごと後ろへ振り回す。
背後には当然、もう一匹のオオトカゲ。
「グギャッ!?」
「ギャガッ!?」
二匹のオオトカゲが激突する。
これで纏めて斬り伏せられる状況になった。
俺はジュエルソードに魔力を流す。
刀身が淡い光を灯し始めた。
それをあえて、中断させる。
そして下から掬い上げるように剣を振るう。
本来なら届く筈の無い一撃。
だが、斬撃は光の刃となって刀身から放たれる。
それは三日月のような形の光。
真っ直ぐ飛び、オオトカゲ二匹を両断した。
「……」
「……」
断末魔すらあげずにダウンするオオトカゲ。
二匹は魔石を残して消滅した。
今の技は彗星剣の『途中キャンセル』。
彗星剣が発動する前に、あえて技をキャンセルする。
すると彗星剣は当然不発に終わるが、途中まで流れた魔力が僅かに残留しているのだ。
それを斬撃として飛ばす。
威力は純粋な彗星剣に劣るが、必殺技扱いでは無いのでリキャストタイムは無く、連発出来るのが強みだ。
魔石を回収し、ジュエルソードを鞘に収める。
ちらりと別方向を見ると、琴音が戦っていた。
「プラズマレーザー」
「グギャオオオオオオオッ!?」
オオトカゲを五匹纏めて相手している。
だが戦闘はほんの一瞬で終わった。
プラズマレーザー。
電流をレーザーのように掃射する魔法。
それをモロに受けたオオトカゲ達は、なす術なく力尽き、一匹残らず魔石を残して昇天した。
「終わったか、琴音?」
「はい、ただいま」
琴音は息一つ乱さずに答えた。
凛としている表情にも揺らぎは無い。
そこにはいつも通りの彼女が居る。
「よし……そろそろ帰るか」
時計を見る。
ダンジョンに潜って既に二時間が経過していた。
今日の目的は新しい武器を試すこと。
その目的は果たせたと言える。
「琴音も同じ事を考えていました」
「なら問題無いな……て、琴音?」
「何でしょうか?」
彼女は自分の倒したモンスターの魔石を、さも当然のように俺の袋に入れようとしていた。
それでは誰の魔石なのか、区別が付かなくなる。
「俺のと魔石がごっちゃになるぞ」
「構いません」
「いや、お前の分の稼ぎがな……」
「居候の身で多くは求めません。琴音を側に置いてくれるだけで、いいのです」
その後も何度か問答を重ねるが聞く耳を持たない。
彼女は意外にも頑固だ。
自分がすべきと思った事はとことん我を倒す。
そういうところは、俺と似ている。
「分かった分かった、確かにもう一緒に住んでるし、共有財産みたいなもんだからな」
と言って俺は納得した。
実は前々から彼女の稼いだ分の魔石は、一緒にせず取って置いてあるのだが、それを素直に受け取ってくれる日はまだまだ遠いような気がする。
夜、リビング。
俺はソファに座りテレビを見ていた。
琴音は入浴中である。
「さて、何か面白い番組は……ん?」
チャンネルを操作する指を止める。
とあるニュース番組だ。
ダンジョン関連の特集が組まれている。
その番組では冒険者協会について調べられていた。
暇なので見てみる。
画面に大きく映し出されるのは先日の記者会見。
それに対し数人の学者達が意見を交わす。
交わすと言っても、自分の言いたいことを言ってるだけで具体的な事は何も分からない。
ニュースキャスターも強引に話しを進めて行く。
ようやく、冒険者協会の話題になった。
『冒険者協会は先程、講習会を開くと宣言しましたが、どれだけの人数が集まると思いますか?』
「講習会だって?」
直ぐにスマートフォンを開き検索する。
一番最初にヒットしたのは冒険者協会の公式hp。
そこには講習会のお知らせと書かれていた。
内容は単純で、冒険者になる為の知識、心構え等を教えるセミナーのようなものと思われる。
ダンジョンに潜っている間に発表されたようだ。
折角なのでhp内を見てまわる。
作ったばかりなのか、所々拙い部分があるが、伝えたい事は概ね理解出来るので問題ない。
そこで重要な事柄を一つ見つけた。
現在日本で確認されている六つのダンジョン。
そのダンジョンに入るには、冒険者協会に登録しなければいけないようだ。
他のダンジョンか……
前々から行ってみたいとは考えていた。
俺と琴音も協会に登録しようかな。
いっそのこと講習会に行くのもいいかもしれない。
講習会のあとには登録会もやるようだし。
登録会も、軽い面接で終わりとある。
犯罪歴などがあると面接で弾かれるだろうが。
あ、まてよ。
琴音は確かまだ十六歳。
未成年は登録出来るのだろうか?
調べたところ、特に記述はない。
とりあえず行ってみるか。
「総司さま。お先にお風呂、頂きました」
タイミング良く、琴音が入浴を終えた。
「琴音、これを見てくれ」
「冒険者協会……講習会……?」
「ああ、講習会に出ようと思う」
「それが総司さまのご意思なら」
という事で、講習会に行く事が決まった。
◆
冒険者協会千葉県支部。
この日、職員達は多忙を極めていた。
職員と言っても、その殆どは自衛隊関係者であり、実質自衛隊の新たな部隊と呼んでも差し支えない。
今は何処の世界も人材確保に苦労している。
「目黒さん、講習会の段取り、チェック頼みます」
「すまん、そこに置いといてくれ」
「了解しました」
この男、名を目黒冬至という。
目黒は千葉県支部の責任者として就任していた。
毎日のように起こる問題。
結成したばかりの組織なのだから、当たり前と言えば当たり前だが……何しろダンジョン関連の組織だ。
問題発生の頻度が尋常ではない。
目黒は今も、とある問題の対応に追われていた。
「全く、こんな時もマスコミは偏向報道か……」
ため息を吐く目黒。
ダンジョンの一般開放が決まった翌日から、マスコミは新聞やニュースで話題にした。
もちろん、悪いイメージを意図的に付与して。
以下、新聞や週刊誌の記事を幾つか抜粋する。
『ダンジョン開放! その裏には徴兵復活!?』
『金の亡者、一般市民に危険を負わせる』
『安全度外視の強行決議! 疑惑の協議!』
「はあ……」
「まあ頑張りましょう、目黒さん」
「岩下、すまないな。ため息ばかりで」
「目黒さんは責任者ですから、仕方ないですよ」
はは、と笑う岩下。
彼は協会の広報担当だ。
現在、目黒と二人でマスコミ対策に当たっている。
「純粋に、事実だけを報道してほしいものだな」
「それは無理なハナシですよ」
「日本のメディアは崩壊してるな」
「それこそ昔から、です」
確かにダンジョンは一般開放される。
しかしそれは、誰でもという訳じゃない。
面接という名の振い落としで危険な者は落とすし、大体冒険者は新たな仕事で、強制するものじゃない。
そこら辺を分かって曲解して報道しているのだから、なおタチが悪い。
「ダンジョンの一般開放は正しい、このままでは外国勢力と埋められない差が出来てしまう」
「その為にも、もう少し頑張りましょう」
「……ああ、そうだな」
苦労人、目黒。
元々世話焼き気質な彼は、どんな理不尽な仕事でも、いい加減に出来ず最後までやり遂げる。
彼の受難は始まったばかりだ。