14話・政府の動き
ヘルフォレスト討伐から一週間。
俺と琴音のステータスはこうなった。
[ササキソウジ]
Lv15
HP 150/150
MP 120/120
体力 25
筋力 30
耐久 25
敏捷 30
魔力 15
技能 【片手剣術】【投擲】【】【】
SP 13
[テイエンコトネ]
Lv9
HP 90/90
MP 200/200
体力 17
筋力 17
耐久 17
敏捷 17
魔力 20
技能 【治癒魔法】【雷魔法】【体術】
SP 8
まずは俺のステータスについて。
注目すべきはスキルスロットの数。
なんとレベル15になったと同時に増えたのだ。
これはスキル選択に影響する大きな発見である。
俺も何か一つ覚えようと思っているくらいだ。
ただ根っからの気質か、中々決めれない。
熟練度の関係上、早く決めた方が良いのだが。
しっくりくるスキルが習得可能一覧に無い。
スキルストーンの購入を真面目に考えている。
あとはMPと魔力だ。
必殺技を覚えた事で数値が上がるようになった。
必殺技は使う度に体力とMPを消費する。
確か彗星剣は、MPを10消費する技だ。
今の俺なら十二回撃てる。
だが、必殺技の連発は出来ない。
リキャストタイムというのが存在するからだ。
いわゆる必殺技の溜め時間だ。
時間はおおよそ五分程度。
その時のコンディションで多少前後する。
極端に消耗してる時は、そもそも発動しない。
色々制約はあるが、それ込みでも必殺技は強力だ。
逆境をひっくり返すだけの可能性を秘めている。
頼り切りにするのは少々危険だが。
あれから新しい必殺技は解放されていない。
次に解放されるとしたら、恐らく投擲スキルだ。
今から楽しみではある。
全てのスキルに備わっているかは、不明だが。
次に琴音のステータス。
彼女にはやはり魔法の才能がある。
それ以外の項目もバランス良く伸びていた。
そして何よりも注目すべきは新しいスキル。
琴音の新スキルは『体術』だ。
何故このスキルなのか。
もちろん理由はあるので、しっかり説明する。
魔法使いは接近戦に弱い。
これは魔法が主に遠距離攻撃用だからだ。
近づかれたら一貫の終わりと言える。
だから、その弱点を克服してもらった。
仮に接近されても、琴音は体術である程度戦える。
それに魔法使いは接近戦に弱い、という固定概念を利用した戦術も取れる。
選択肢は多い事に越したことはない。
彼女は喜んでスキルを習得してくれた。
最近では体術の訓練を日課としている。
熟練度が溜まれば、より練度も研ぎ澄まされる、ここら辺は普通の努力とそんなに変わらない。
魔法関係以外の項目が極端に低かったら、体術を習得するのは見送ろうかと考えていたが、比較的バランス良く伸びてくれているので覚えてもらった。
思いの外魔法と体術の二段構えはハマっているようで、一人で戦わせる心配は無くなった言える。
これが俺と琴音の、一週間の成果だ。
第二階層も半分ちょっとは攻略を終えている。
第二階層は殆ど平原のフィールドだ。
通常のダンジョンに比べ、攻略が容易い。
ただ単純に、フロアが広い。
完全攻略まであと二週間くらいだ。
「総司さま、おはようございます」
「ああ、おはよう」
挨拶を返す。
今日のダンジョン攻略は休みだ。
最近、休まずにずっと潜っていたからな。
冒険者の資本は自分の体だ。
体を壊したら、何もかもが終わりだからな。
「朝食は出来ております」
「ありがとう、頂くよ」
琴音が家に来て二週間以上経つ。
食事は全て彼女が作るようになっていた。
とても美味なので、文句なんて全く無い。
いつも作らせて悪いと言いたいくらいだ。
「いただきます」
「いただきます」
二人でテーブルの前に座り、手を合わせる。
食事前のいただきますも言い終え、早速箸を持つ。
今朝のメニューは焼き魚、目玉焼き、ウインナー、サラダ、味噌汁、デザートに果実を少々。
以前の生活では考えられないラインナップだ。
と言うか普通に豪勢すぎる。
朝食に限らず、琴音の作る料理全てに言える事だ。
適当に手を抜いていいと言っているのだが……
「いえ、総司さまのお口に運ばれる物に手を抜くなど、考えられません」
……と、大真面目な顔で言われてしまった。
なので毎日キチンと感謝の礼を言うようにしてる。
まるで新婚の夫婦のようだ。
「んぐっ…………今日も美味いな」
「ふふ、ありがとう、ございます」
味噌汁を飲みながら考える。
久し振りの休み、今日は何をしようかな。
先日ドウジマ店主から金を受け取ったので軍資金は大量にあるが、さりとて使い道も決めてない。
「琴音、すまないがテレビをつけてくれ」
「お安い御用です」
「ありがとう」
琴音がリモコンのスイッチを押す。
リビングのテレビが映像を映し出した。
この時間帯は朝のニュース番組である。
しかし、この日は少々様子が違った。
画面上部に『緊急記者会見』と記されている。
琴音がチャンネルを変えても、全て同じ。
緊急記者そのものはまだ開かれていない。
画面上では多くの記者が待ち構えていた。
「どういう事だ?」
「お国から、急を要する言伝かと思われます」
「このタイミングで緊急会見って事は……」
「あ、始まるようですよ」
口に焼き魚を運ぶ手を止め、画面を見る。
現れたのは日本の首相。
その顔色から、連日の激務は容易に想像出来る。
ダンジョン発生から政府は常にフル稼働だ。
問題は山積みで、なのに次から次へ新たな問題が。
何人かの大臣と職員は疲労で倒れたようだ。
とと、そろそろ会見が始まるな。
『この度、我々日本政府は重大な決断を下しました。皆さんもご存知の通り、世界は今謎の地下空洞、通称ダンジョンについての話題で持ちきりです』
首相の前置きは続く。
ダンジョンに対する諸外国の反応、得られる資源、ダンジョン関連の法律等、挙げたらキリが無い。
会見はそれだけで一時間経つ。
俺も琴音も朝食を食べ終えていた。
そして––––ようやく本題に入る。
日本を、いや世界を大きく変える、一言を。
首相は疲れた顔色で、けれどもはっきり。
『我々は厳正な協議の結果、ダンジョンの一般開放を取り決めました。これに伴い、その仕事をサポートする国営組織・冒険者協会の設立も決定しております』
静かな言葉、変わらぬ音程に口調。
だが、その言葉はどんなモノより衝撃的だった。
『総理! それはどんな意図があっての––––!』
『国民の安全は––––!』
『それは本当に厳正な協議の結果で––––!』
記者達が一斉に沸く。
順番を破り、我先にと質問を行う。
遂には壇上に乗り出す者も現れた。
慌てて警備が止めるが、流れは止められない。
結局会見は中止になった。
画面が通常のものに切り替わる。
スタジオの空気は騒然としていた。
しかし、皆同じ気持ちを抱いているように思えた。
これから先、日本の歴史が変わる。
それまでの価値観も含めて。
そんな時代の節目に、自分は立ち会った、と––––
「……遂にこの日が来たか」
食後のお茶を口元へ運ぶ。
熱いお茶が喉を通り、乾きを潤す。
妙な空気となってしまったな。
予想していたとは言え、衝撃は大きい。
これから様々な問題も浮かんでくるだろう。
それでも政府は、得られる利益を優先した。
「総司さま。ダンジョンが一般開放されると発表されましたが、私達のような者の処遇はどうなるのでしょう?」
「うーん、どうなんだろうな? バレたら不法進入とかで逮捕とかはされないだろうけど」
ダンジョンは国有地でも私有地でも無い。
判断を決め兼ねている感じだ。
町一つを飲み込んだダンジョンとかは、元々そこの土地の所有者がいる訳で。
「まあ、巧くやればバレないだろ」
無断で冒険者をやってる連中の数は多くない。
国もこの慌ただしい中で一々問題にしないだろう。
寧ろ有益な情報源として、交渉を持ち掛けてくるかもしれない。
それにプライベートダンジョンを攻略するだけなら、どうあってもバレる事は無い。
まあ、他のダンジョンに行きたい気もあるが。