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12話・進化の予兆

 

「おおおおおおおっ!」


 斬っては走り、また斬っては走って……

 同じような事を何度も繰り返す。

 そして違和感に気づいた。

 一向に森の出口へ辿り着けない。


 森に入っていたのは僅か数十分程度。

 邪魔されているとは言え、走っているのだ。

 幾ら何でもそろそろ着いていないとおかしい。


 ならば、考えられる事は一つだけ。


「このモンスター、先回りしてるな……」

「そのようですね」


 この森全体がモンスターと仮定する。

 枝は勿論、木々や根も自在に操れるのなら……

 俺達は力尽きるまで脱出する事は叶わない。

 寧ろ、それが目的の罠なのだろう。


 獲物を自らのテリトリーに誘い込む。

 一度入れてしまえば、あとは簡単。

 体力が尽きるまで適当に相手をしていれば済む。

 木々や根を移動させれば、出口は無いも同然。


 この森––––ヘルフォレストと名付けよう。

 ヘルフォレストはちっとも本気を出していない。

 枝の猛攻もお遊びにすぎないだろう。

 やろうと思えば、もっと簡単に殺せる。

 それこそ根や葉も使えばいいからな。


 つまり、ヘルフォレストは楽しんでいるのだ。

 獲物が逃れようと足掻くサマを。

 全く、随分と悪趣味なモンスターだな。

 性格の悪い奴が居るのは世界共通か。


 だが、その遊び心を利用させてもらおう。

 奴は完全に俺達の事を舐めている。

 つまり慢心しているのだ。


「琴音、このモンスターを倒すぞ」

「しかし総司さま、一体どうやって?」


 琴音の言う通りだ。

 相手は巨大な森林。

 倒そうにも、何処をどう攻撃すればいいのやら。

 だけど、この手のモンスターには大概弱点がある。

 心臓と言うべき核がある筈だ。


 弱点があるのは全てのモンスターに共通している。

 これは今まで戦ってきて分かった情報だ。

 どちらにせよこのままじゃジリ貧に変わりない。


 なら、イチかバチか戦うべきだ。

 無論死ぬつもりは毛頭無いが。


「琴音、作戦を話すから聞いてくれ」

「何なりとご命令ください……!」

「いや、別にお前だけにやらす訳じゃないぞ?」


 琴音が勢いよく頷く。

 やる気があるのは良いが、無理はしなくていい。

 とにかく作戦を伝える。

 内容はこうだ。


 まず、琴音と二人で逃げるフリをする。

 この時慌てる感じで逃げて、わざと森の奥へ行く。

 ヘルフォレストは俺達を舐めているのだ。

 きっと真意に気づかない。


 森の奥へ進み、そこで核を探す。

 ヘルフォレストの弱点だ。

 そしてそこを攻撃する。


 如何に素早く動けるかが重要だ。

 核を攻撃するのは俺。

 ヘルフォレストの注意を引くのは琴音だ。

 魔法で注意を惹きつけてもらう予定である。


「……だから、琴音は少し危険かもしれない」


 作戦の概要を伝え終わる。

 その間にもヘルフォレストの攻撃は続く。

 枝の他に植物の蔓が襲い掛かる。

 強度は低いが、動きが読みにくい。


 俺は腰のポーチから小業物ナイフを取り出す。

 左手でナイフを逆手持ちし、蔓を切り裂く。

 片方ずつ武器を持つのは初めてだが……


「上手くいくもんだなっ!」


 踊るように枝と蔓を斬る。

 そういえば……どんなに斬ってもレベルが上がらないな。

 モンスターの一部、という事か。

 やっぱり何処かに弱点の核があるのだろう。


「総司さま、お構いなく」


 琴音は冷静に魔法を撃ちながら言う。

 やたらめったら適当に撃ってるのでは無い。

 枝や蔓が集中している所を狙って撃っている。

 やはり、彼女のセンスはずば抜けているな。


「琴音は琴音の役割を、全うします。貴方さまの為に……それが琴音の、至上の喜びなんです」


 動き回っているので顔は見えない。

 ただ、その声音は聖母のように優しかった。

 どうして、俺にそこまでするのだろう。

 この局面を生き残れたら……聞いてみるか。


「助かる。頼んだぞ!」


 それが作戦開始の合図だった。



 ◆



 気力も体力も魔力も、有限だ。

 だからこそ、スピーディーな対応が求められる。

 故に俺自ら核の討伐を名乗り出たが……


「––––数が多すぎる!」


 足を搦め捕ろうとする大量の蔓。

 それをジャンプして回避し、背中に一閃。

 背後に迫っていた枝の槍を振り払う。

 着地と同時に転がり、葉の手裏剣を避ける。


 止まったら直ぐに捕らえられる。

 常に動き続けないと勝負にすらならない。

 しかし、俺の目的は核の捜索。

 もう随分と奥に来たと思う。

 なのにそれらしきモノは見当たらない。


 弱点なのだから、隠すのは当たり前か。

 問題はそれを探す方法。

 どうにかして見つけないと……!


「くそっ!」


 苛立ちに混じりに剣を振るう。

 鋼鉄の斬撃は、容易く蔓を引き裂く。

 その瞬間。

 僅かに片手剣が青白く光った。


「……なんだ、今の……? とっ!」


 一瞬意識が離れるが、直ぐに取り戻す。

 しかしその後も度々片手剣は光った。

 しかも光が徐々に強まっていく。

 なんだ、この片手剣にそんな異能は無いぞ?


 ウインドウが表示されるのはランクCのアイテムから、つまりこの剣はそれ以下の武器って事だ。

 やたらと頑丈だから愛用してるけど、本来ならそこまで価値の無い、幾らでもある剣である。


 ならば片手剣術スキルの発展か?

 いや、だけどそんな情報は……


「っ、しまった……!?」


 いつの間にか蔓が背後に迫っていた。

 本数はかなり多く、川に流れる水のよう。

 俺はその蔓の流れに飲み込まれた。


「ぐあっ……!」


 蔓の波に押し流される。

 く、脱出しなければ!

 しかしもがけばもがく程、深く飲み込まれる。

 剣を振ろうにも、その剣が振れない。

 このままでは森の何処かに流される。


 それだけは避けなければ……!


「ぐ、このっ!」


 僅かに動く左手で脱出を試みる。

 ナイフで少しずつ切断するが、間に合ってない。

 このままでは本当に危険だ。


 ––––そんな時、一筋の雷が流れた。


 蔓に直撃し、勢いが弱まる。

 この雷は……琴音か!


「プラズマレーザー……!」


 いつ覚えたのか、新しい魔法を使っていた。

 雷をレーザーのように射出している。

 彼女はそれを至る所に放射していた。

 単発のプラズマショットに比べ、プラズマレーザーは効果時間が長く掃射するのに向いている。


 だが、それも魔力あってのこと。

 琴音は既に満身創痍だった。

 ボロボロになりながらも、魔法を撃ち続けている。


 琴音……


 俺は現状の打破を全力で考える。

 考えろ、全ての要素を見落とすな。

 モンスターには必ず弱点がある。

 なら、その弱点をさらけ出す瞬間は?


「––––そうか、その手があったか」


 ある作戦を閃く。

 だが、それは俺自身の命を大きく危険に晒す。

 とは言え手段を選んでいる状況では無い。

 このままでは、俺は確実に死ぬ。

 黙って死ぬか足掻いて死ぬか。

 違いなんてその程度だ、問題じゃない。


 問題なのは蔓の波からどう脱出するか。

 今の手札ではどうやっても逃れられない。

 片手剣も、小業物ナイフも通用しないのだ。


 何か、新しいモノが欲しい。

 新しい、モノが……!


 そう、強く願った時。

 片手剣が蒼く眩い光を放った。

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