10話・スキルストーン
店主の居るカウンターまで赴く。
机には数個の魔石が並んでいた。
「中々質の良い魔石が揃ってたぜ、コレとか」
店主が指差す魔石。
それはいつかのオオトカゲの魔石だった。
やはり強めのモンスターだったのだろう。
「合計して百万ってところかな」
「百万……?」
「ん、どうした?」
「いや、そんな値段になるのかと」
百万円。
流石にそんな纏まった金を手にした事は無い。
政府が率先して集めているとは聞いたが……
ここまでとは、正直思っていなかった。
「初めて換金する奴は、大体そういう反応だ」
「そうなのか?」
「ああ、俺も驚いたもんだぜ。この石ころに、世界を変えちまう程のエネルギーが眠ってるなんてよ」
「世界を、変える」
店主は笑いながら言う。
余りにもスケールの大きい話だ。
だが店主が冗談を言っているようには思えない。
それに根拠もある。
魔石にエネルギーが眠っている事実は俺も知ってたし、世界中の国が求めていた事も知っていた。
その富がこの手に収まっている。
という事実が、にわかには信じられない。
「既に中国辺りは、動力源を完全に魔石へと変える政策を打ち立ててるようだぜ? 他の国も、そこまで行動的じゃねえが、将来的には電気も石油も必要無くなる……この意味が分からねえ程、ガキじゃねえよな?」
「……戦争か」
「ああ、確実に起こるな」
このまま魔石が普及したらどうなるか?
答えは簡単、世界のエネルギー事情が反転する。
そしてその先は国家単位の戦争だ。
中国は大量のダンジョンを抱えている。
多くの魔石を新たな資源として獲得出来るだろう。
逆にこれまで石油を掘り当て、輸出していた国は石油が全く売れなくなり、経済的損失は計り知れない。
どの国もダンジョン攻略に躍起になる。
戦争の原因は、資源の奪い合い。
結局、やってる事は同じなのだ。
人類は進歩する事を忘れてしまった。
「だから兄ちゃんも、覚悟はしておいた方がいいぜ。今この段階でレベル上げに勤しんでる奴の殆どは、いつか起こる戦争に備えての事だからな」
「強くなるのに越した事は無いってか」
「まあな、かく言う俺もその一人だ」
ニヤリと笑う店主。
自分の強さに相当自信があるようだ。
実際強いのだろう。
冒険者相手に商売をしようと考えるのなら。
そこで、一つゲームを提案した。
「店主、俺と賭けをしないか?」
「賭けだと?」
「ああ、俺とあんた、どっちのレベルが高いか。俺の方が高かったら値引きしてくれ、逆にあんたの方が高かったら、魔石の買取額を低くしてもらっていい」
ちょっとしたお遊びだ。
人のステータスを見る機会なんて早々無い。
「面白え、乗ってやるよ」
「賭けは成立だ。同時にステータスを見せるぞ?」
「は、俺のレベルを見てビビるなよ?」
店主はノリの良い人間だった。
豪快な笑みを浮かべながら俺を見る。
俺も笑いながら、ステータスを見せた。
「……な、こりゃあ!?」
互いのステータスを確認する。
結果は––––
[ドウジマタケオ]
Lv8
HP 120/120
MP 100/100
体力 18
筋力 13
耐久 18
敏捷 13
魔力 10
技能 【大剣術】【気配察知】【アイテム鑑定】
SP 4
店主……ドウジマさんのレベルは8
俺のレベルは11だった。
3の差で俺の勝ちである。
「俺の勝ちだな」
「まさか、こんなところにレベル10超えが居るなんてな……はは、参ったな。俺の負けだ」
店主はやれやれといった風に肩を下ろす。
あまり気分を落とした訳じゃ無さそうだ。
まあ、全財産を賭けてる訳でも無いしな。
折角なので質問してみる。
「レベル10越えは希少なのか?」
「中々居ねーな、初日からずっと潜ってないとダメだ」
「あんたはいつから潜ってたんだ?」
「ダンジョン発生から一日経った辺りからだ、金の匂いがしたからな」
商売人の顔をする店主。
商魂逞しくてなによりだ。
「で、兄ちゃんは何が欲しいんだ?」
「魔法のスキルストーンが欲しい」
「そいつは少し、難しいな……」
そう言って店主はカウンターの下から金庫を出す。
「魔法のスキルストーンは、スキルストーンの中でもドロップ率が低い希少品なんだ。おまけにその魔法が便利だと更に値段が上がる」
「便利ってのは、どんな基準なんだ?」
「仕方ねーな、イチから説明してやるよ」
「助かる」
店主は呆れながらもレクチャーしてくれた。
これは何か買って帰らないとな。
「スキルストーンってのは通常、封印されてるスキルをそのまま習得出来る。大剣術なら大剣術、弓術なら弓術って感じでな。だが、魔法系だけは違う」
店主は金庫を開ける。
そして一つの魔石を取り出した。
黄金に輝く魔石である。
一目で普通の魔石とは違うと分かった。
「魔法系のスキルストーンだけは、習得出来る魔法は一種類のみなんだ。水魔法や風魔法じゃなく、アクアショットだったりウインドブレード……とにかく単一の魔法しか習得出来ない」
中々に厄介な条件だ。
それでも魔法のスキルストーンは魅力的である。
本来なら魔法が使えない者も、使えるのだから。
値段が高騰するのも頷ける。
「それが、魔法のスキルストーンなのか?」
「ああ。封印されてるのはファイアランスだ」
「因みに価格は?」
「一千万だ」
「……次の機会に見送らせてもらおう」
余りの価格に呆然とする。
買えなくは無いが、生活が危なくなるな。
「そうしとけ、他の品物なら値引きするぜ?」
それから店内を物色する。
そこで中々の一品を見つけた。
投げナイフだ。
実際に手に取って確認してみる。
するとやはり、ウインドウが表示された。
小業物ナイフ
ランクC
並みのナイフよりかは優れたナイフ。
耐久性に優れているので投げナイフにぴったり。
値段は一本二万円。
それが五つ並んでいる。
比較的手が出せる価格帯だ。
「店主、これを五つ欲しい」
「へえ。目の付け所が良いな、兄ちゃん。それはランクの割に使い勝手がいいぜ」
「五つ合わせて十万か?」
財布……と言うより、封筒から札束を出す。
ダンジョン産の物は高額と聞いていた。
なので予め大金を用意していた。
すると店主が電卓を用意し、何度か叩く。
「値引きして九万だな」
「買わせてもらおう」
「ほい、毎度あり! オマケに手入れようの布を付けとくぜ」
小業物ナイフを五本を受け取った。
これで攻撃力の強化に繋がる。
いつまでも小石じゃ限界があるからな。
それから店主と電話番号を交換する。
金の受取日を知る為だ。
あとは個人的に、彼とは仲良くしたい。
希少なレベル8の冒険者。
加えてアイテムを色々と取り揃えている。
欲しい物があったら、彼を頼るのも手だ。
そう思っていたらスマートフォンに着信が入る。
相手は勿論琴音だ。
どうやら買物が終わったらしい。
「もしもし、琴音か?」
『はい。琴音です』
お互い買物が終わったので合流すると約束した。
今日は良い買い物が出来たなあ。