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~観察~

~観察~


 事故を防ぐことは間違いではないはずだ。


 今回のタイムリープはあの黒髪の少女の「助けて」からはじまっている。ということは、僕はまだ彼女の何かを助け切れていないのだ。


 わからない。今回はとりあえず彼女たちの今日の行動を知ろうと決めた。このタイムリープは調査のために使う。


 黒髪の彼女を何から助けることが大切だ。


 まず、事故を防ぐためにカエル急便に爆弾を仕掛けたという電話とネットの書き込みは必要だ。だとしたら僕はやはり学校には行けない。


「夏樹?今日学校休むの?行くの?」


 母親からだ。もう、そんな時間か。まとまらない。でも、学校に行っている時間はない。


「今日学校休むよ」


「わかった。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」


 そう言って母親は出て行った。そして良太にラインを入れる。


「今日学校休むからよろしく」


 良太からは「わかったよ」と花火のスタンプが来る。想定通りだ。自転車でB商店街に行って誰にも、監視カメラにも映らずに戻ってくる。


 前は3回目で成功した。間違えなければ大丈夫だ。多分、時間を短縮することだってできるはずだ。


 まず、先にPCでカエル急便に電話する時に使う音声の作成と録音をする。これは何をインストールすればいいのか、そのソフトの使い方も慣れた。はじめはここに時間が取られていたのだ。


 そして、今回は坂下さんにも祝園さんにも会わない。断りの連絡を入れる。これは今までしていない行動だ。


 でも、二人の行動範囲にB商店街はない。今まで話しを聞いたことがない。


 目立たない服に着替えて自転車に乗る。ロードバイクには乗らない。乗っている人も多いが目に着く可能性がある。だからママチャリがいい。


 自転車を走らせる。何も変わらない。時間が大切だ。ほんの一瞬ホテルに人がいない時間がある。その時にそっと行う。時計を見ながら自転車を走らせる。数少ない信号の変化も前と同じ。そう、無理はしない。


 予想外の事故にもあわない。変わったことをしない。それが大切だ。公衆電話にたどり着き、電話をかける。


 今まで通り問題ない。次にホテルに入ってネットの書き込みをする。これも問題ない。後は自転車に乗って家に戻るだけ。そして、○○駅に向かって交差点で彼女たちを待つ。

 

 家について電車に乗る。携帯を見るとラインが着ている。今までこの時間にラインが来ることはなかった。開くと祝園さんからのラインだった。


「外塚くん。今日学校に行ってないの?なんかすっごい似た人が自転車で走っていたからさ」


 心臓が止まるかと思った。どうしていつもこの人は僕の予想と違うことをするのだろう。そして、この人に嘘は通じない。まるで心の中がわかるみたいな人だ。


「今日は学校休んでいます。ちょっと出かけていました。その時かもしれませんね」


 そう返事をしながらどこで見られたのかを考えた。祝園さんの住まいは○○駅から一駅だ。○○駅に行くのなら電車に乗るだろう。


 B商店街は最寄駅がない。幹線道路からいきなり現れる商店街だ。たしか昔大きな工場があって、その工場で働く人のためにできた商店街というのを聞いたことがある。


 そして、その工場が撤退してからB商店街は廃れて行ったと聞く。そして、工場後に来た企業が次はベトナム人をそこに誘致してきたのだ。b商店街はそんな場所だ。だが、祝園さんがどこで僕を見たのかわからない。


 今回のタイムリープは捨てるタイムリープだ。開き直ろう。そう、思っていたら祝園さんからラインが返ってきた。


「なら、夕方会えるよね。坂りんに言っておくね」


 すぐに返事を返す。


「今日はちょっと用事があるので明日にしてください」


 今の僕にとって明日はいつくるかわからない日だ。だが、それで「了解」と返ってきたから安心した。


 祝園さんの行動はいつも読めない。今回は僕が坂下さんと祝園さんに朝の段階でラインを送ったから祝園さんの行動が変わったのだと思った。


 それ以外思いつくことがない。だとしたら、朝にラインを送るのを辞めよう。


 制服に着替えて○○駅に向かう。なんだかんだ言ってもB商店街はちょっと遠い。でも、仕方がない。他にいい候補地がないのだ。それに、時間的にも余裕がある。電車に乗り車窓から流れる景色を見る。徐々に民家が増えてきて、建物が増えてくる。駅近くは商業ビルや良くわからないビルが多い。


 ○○駅の中央広場にある時計を見ると14時45分だ。結構結構早く着いた。


「お、外塚じゃないか。どうしたんだ?今日中止なんだろう」


 振り返るとそこにオールバックにサングラスにひげ。そしてがっちりした体形、そう坂下さんが居た。そして、横には黒髪でミステリアスな女性がいる。


 確か飛鳥さんだったはず。そう言えば、僕が送ったラインに既読がついたのもこれくらいの時間だったはず。


 いや、15時くらいだ。今までこの時間に○○駅に来ていなかった。ニアミスをしていたということなのか。


「いや、今日はちょっと用事がありまして」


「ふ~ん、まあ、いいや。この子さちょっと預かってくれない?さっき話していた天才少年ジャグラーの外塚くんだ。そして、結構色んな企画を考えてくれる。きっと飛鳥のプロデュースも考えてくれるはずだ」


 そう言っていきなり去って行った。一体何だったのだろう。とりあえず、飛鳥さんも途方に暮れている。


 おそらく行った先は祝園さんがいるあのメイド喫茶のはず。メイド喫茶に進もうとしたらいきなり飛鳥さんに腕をつかまれた。


「なんですか?」


「どこ、行くの?知り、たい」


 そういえば、この人こうぼそっとした話し方をする人だった。そして、なぜかちゃんと文章にならない。


「坂下さんと後祝園さんがいる所です」


 多少強引でもいい。今回のタイムループはどうせ捨てるのだ。僕はおそらく祝園さんがいると思われるメイド喫茶に向かった。


 雑居ビルの一角にそのメイド喫茶はある。派手な看板があるわけでもない。入り口メイドが立っているわけでもない。ひっそりとビルの横に看板がかかっているだけだ。


 6人も乗れないようなエレベーターに乗り4階を押す。目の前に少し重厚そうな木の扉が出てくる。押し開けるとドアベルがからんと鳴った。


「おかえりなさいませ。ご主人様、お嬢様」


 未だに慣れない。後ろにいる飛鳥さんは挙動不審だ。きょろきょろしながら僕の制服の袖口をつかんでいる。この人年上だよね。なるほど。坂下さんが扱いに困るのがわかる。


「あれ~。外塚くんじゃないか。なんだ、結局会いに来てくれたんだ。ってか、この場所って連れてきたことあったっけ?」


 入ってすぐの場所に祝園さんと坂下さんがいる。前と同じ場所。そして、その席には無愛想なみきちゃんがいる。怪訝な顔を祝園さんがしている。


「いえ、ないですよ。このループではね」


 という言葉を口に出しそうになった。タイムリープをしているとこういう思いをしてしまうことが多い。そして、何かで誤魔化すことを覚えた。


「いや、坂下さんを尾行したんですよ。結構大変でしたよ」


 横で飛鳥さんがきょとんとしている。その様子を祝園さんは見逃さない。祝園さんはそういう人だ。人の心をものすごく覗くのだ。


「ふ~ん、まあボクはどうでもいいけれどね。それで、その子は誰なの?」


「それは坂下さんに聞いてください。僕は用事があるから」


 けれど、僕の腕をつかんだのは飛鳥さんだった。


「どうにか、して」


 うるんだ目で僕を見てくる。こんな風に女性に見られたことがなかった。足が一瞬動かなかった。


「まあ、こっち座れよ。外塚」


 低い声が響く。坂下さんの機嫌が悪いのがわかる。時計を見る。まだ15時10分。ここから交差点まで10分で着くから大丈夫だ。


「わかりました」


 僕はそう言って椅子に座る。目の前で怪訝な表情をしている祝園さんと怒っているのがわかる坂下さんだ。坂下さんは納得ができないことがあると期限が悪くなる。そして、今の僕の行動に納得が行っていないのだ。


「なあ、どうしてここがわかった?」


 低い声。怒鳴ることはないが威圧感がある。坂下さんを怒らせるわけにはいかない。


「尾行しました」


「それはない。俺はその手には敏感なんだ。そして祝園さんの記憶力は馬鹿にできない。この人が連れてきていないと言うのは絶対だ。外塚。お前何か隠しているだろう」


 詰んだ。そう思った。仕方がない。僕は眼を閉じて願う。


「戻るんだ!」


 世界が暗くなっていく。感覚が鈍くなり落ちていく浮遊感。タイムリープ発動だ。



 PPPPPP


 目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。朝7時。僕は同じ間違いをしないようにして、進める。


 次はきちんと16時前に○○駅についた。


「今日は用事が出来たのでいけません」


 祝園さんと坂下さんにラインを送る。この時間二人はすでにメイド喫茶にいる。そこには飛鳥さんもいるはずだ。後はメイド喫茶から出てくる坂下さんに出会わないように気を付ける。


 広場を抜けて交差点に向かう。男女6人の中学生の集団が花壇近くにいる。僕は少しだけ歩くスピードを抑えた。


「こっち側ってあんまり来ないからわからないね」


 ちょっと通る声がした。振り返るとセーラー服を着た女子高生が二人立っていた。


 大丈夫。もう、トラックは来ない。だから彼女たちが歩道の前方に行っても問題はない。

僕は斜め後ろから彼女たちの近くに近づいて行った。


 白地に水色のラインが入っているセーラー服を着た二人。だが、よく見ると二人とも表情が曇っている。笑顔じゃないのだ。特に黒髪ロングの女の子の表情が曇っている。


 ちょうどいい距離。ある程度表情も見られて少しだけ会話も聞こえる。


「やっぱりいいよ。そういう気分じゃないし」


「なあ、どうする。先にマックに行く?」


 そう言って、二人はまず駅前にあるファストフード、マックに入った。僕はアップルパイとコーヒーを頼み、また斜め後ろあたりに座る。


 周りがうるさくて声が聞こえない。ただ、髪が茶髪で短い子が黒髪の子を励ましているのがわかる。ずっとあの黒髪の少女は笑顔じゃない。いや、笑ったのはそうだ。僕がジャグリングをした時に一度ある。


 あの時だけ。彼女が抱えている問題を解決する必要があるのか。それを1日で。出来るのだろうか。


 いや、できるのだろう。このタイムリープには意味がある。何度も諦めたことはあるがどこかに出口があるのだ。その出口を探さないといけない。


 そう思っていたら彼女たちが立ち上がった。移動するみたいだ。


 大通りから一本中に入っていく。この辺りは雑居ビルが並んでいる。祝園さんが行きつけになっているメイド喫茶も同じような雑居ビルだ。


 だが、少しだけ方向が違う。それは助かったと思っている。


 小さな雑居ビルに彼女たちが入っていく。灰色の年季が入ったビルだ。入り口も小さくすれ違う時に半身にならないと通れないくれいの狭さだ。


 流石にこのビルに入るのは危険すぎる。僕は向かいにあるコンビニに入って読みもしない雑誌コーナーに移動をした。


 何冊か読んでいる中で興味があったのは「再開発の闇」と書かれた内容だ。


 この街のことだ。特にニュータウン建設に関して暴力団や外国人との癒着が書かれている。利権争いから抗争もあると。だが、この雑誌にはオカルトについても同じように書いている。


 今回は「タイムリープ」についてだった。つい、面白くて読み続けてしまった。


 読み続けていたけれど、なかなか、彼女たちが中に入ってしばらく出てこないので一度ビルに近づくことに決めた。どういうテナントが入っているのかを確認するためだ。


 古着屋、中古屋ショップ、武具・防具店、雑貨店に看板のない空室っぽい場所。どの階に行ったのかわからないが、とりあえず今回のループでは眺めているだけにしよう。


 多分古着屋か中古屋ショップあたりなのだろう。個人的には武具、防具店というのが気になったけれど、一体何を売っているのだろう。


 まるでRPGゲームの世界じゃないか。ここで装備品をそろえてダンジョンに行くのだろうか。まあ、僕がしていることも近いのかもしれない。村人と会話をしてイベントのフラグを発生させて、ボスに挑む。


 ただ、僕の場合誰がキーとなる情報をくれるのかもわからないし、何がボスなのかもわからない。ただ、救いがあるのは僕にはタイムリープという能力があるということだ。流石にずっとビル前にいるわけにはいかない。やはりコンビニの雑誌売り場で様子を見よう。それに、外はやはり暑い。


 また、雑誌コーナーに戻る。この手の雑誌は本当に時間つぶしにはいい。芸能人のゴシップネタに、業界の闇を伝えるものもある。最近は中華系が夜の世界に進出してきているらしいし、未成年の少女が普通にガールズバーを経営していたりもする。実際は知らない。雑誌の中だけの話しだ。


 3冊ほど雑誌に目を通していたら、ビルから彼女たちが出てきた。何か大きな荷物が増えたわけでもない。当たり前だけれど武器も防具も身に着けていない。


 彼女たちはその後、1時間だけカラオケに行って、そのまま電車に乗った。ただ、あの雑居ビルから出てきてから彼女たちがあまり話しをしていないように感じる。何があったのだろう。


 僕も電車に乗る。向かう方向は家から更に離れていく。彼女たちはどうやらこの街の北側にあるニュータウンの出身らしい。住宅ばかりがあるエリアだ。そして、結構裕福な家庭が多い。そう、この辺りの家と比べるとどれも大きいのだ。


 彼女たちが端っこに座っているので僕はその横に立ってみた。戸袋に気をつけながら、そして、彼女たちに体が当たらないように壁に寄りかかりながら耳を澄ましている。


 こういう時意外と近くにいる方がばれないものだと思っている。ちょうど電車もそこそこ混んでいるので不自然でもない。これが空いていたら立っていると怪しまれる。だが、会話はあまり聞こえてこない。黒髪の子が何かを言った。小声で聞き取れなかった。いや、少しだけ聞こえた。


「やっぱり警察に相談した方がいいって」


「やめてよ。どうなるかわからないじゃない」


 そのフレーズだけで僕は今回のタイムループの脱出のむずかしさを感じた。彼女たちは何かに巻き込まれている。いや、何かのトラブルを抱えている。それは、自分たちでは解決できないものだ。


 それを僕が介入して一日で解決しないといけない。一体そのトラブルは何なのだろう。


「八千代。八千代。お出口は右側になります」


 結構家から離れてきている。時計を見ると20時近くだ。


「じゃあ、私ここだから」


「じゃあね、また明日」


 そう言って黒髪の少女が立ち上がる。彼女が出て行くのを見て、僕も電車を降りる。外は蒸し暑い。鞄の中にコンビニで買った麦茶があったのを思い出した。このまま歩いて黒髪の彼女の家を確認する。彼女の住所が必要になる可能性もあるからだ。


 いや、単に彼女の事が知りたいだけだ。わかっている。でも、僕はゆっくり彼女との距離を保ちながら歩いていく。5分ちょっと歩くと家の中に入って行った。表札を確認する。


「青野」


 彼女の名前がわかった。青野さんだ。とりあえず、次の対策を考えないといけない。まずは、彼女たちと仲良くなって抱えている問題の相談を受けられるようにしないといけない。家まで戻るより念じた方が早い。


 僕は眼を閉じて願う。


「戻るんだ!」


 世界が暗くなっていく。感覚が鈍くなり落ちていく浮遊感。僕は何度目かのタイムリープを行った。


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