~根本を変える~
~根本を変える~
PPPPPP
目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。朝7時。この時間にまた戻ってきた。
だが、次からは決めたのだ。あの黒髪の少女はもう傷つけさせない。事故を起こさせずに乗り切るのだ。だが、どうすればいい。
配送会社はわかっている。あの運転手に運転をさせないようにする。望む結果はわかっている。けれど、どうやったらその結果を導けるのかがわからない。
いや、何か方法はあるはずだ。どうする。
「夏樹?今日学校休むの?行くの?」
母親からだ。もう、そんな時間か。まとまらない。でも、学校に行っている時間はない。
「今日学校休むよ」
「わかった。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」
そう言って母親は出て行った。そして良太にラインを入れる。
「今日学校休むからよろしく」
前回と同じはずだ。だが、前回は良太から返事はなかったはずだが、返事が来た。
「わかったよ」
そして、花火のスタンプ。なんで花火だ。それで、僕は日記帳を取り出した。そういえば、9月1日に爆弾事件があって、近くの花火大会が延期になったのだ。その花火を良太と見に行こうと言っていたんだ。
あの爆弾事件はネットと電話で脅迫があった。電話は公衆電話。ネットの書き込みは裏が取れないネットカフェからだった。
それでも警察は動いて調査をした。だが、それだけでは解決につながらなかった。だから、何度もあの時はタイムリープしたんだ。
そうだ。あのトラックに爆弾をしかけたと言えばどうだろう。早いとトラックが変わるだけで運転手はそのままかもしれない。でも、ある程度時間が立っていたらどうだろう。
やる価値はあるかもしれない。でも、僕が脅迫犯として捕まっては意味がない。あの9月1日の爆弾犯は結局捕まえることはできなかった。
あの時の爆弾は遠隔で爆発させるタイプだった。だからその遠隔の範囲外に爆弾を持って行ったのだ。
そう、夜中に仕掛けられた爆弾を僕が配送センターにもぐりこんで海外便に入れたんだ。
爆弾犯と同じようにうまくやればいい。まずは、カエル急便の電話番号を調べる。これは携帯ですぐにわかった。
次に公衆電話だ。最近は携帯の普及率から公衆電話自体の数が減っている。そして、数の少ない公衆電話を使うと目立つ。監視カメラがなく、人目もつきにくい場所を探す。
どうすればいいかととりあえずネットで調べたら、公衆電話がどこに設置されているのかまとめているサイトがあった。
家からそこそこ遠くて、しかも○○駅からも遠い場所を選んだ。○○駅だと祝園さんとばったり会うかもしれない。
あの人の行動は読めないからだ。だから避けるのが一番だ。
次にネットカフェを捜した。だが、僕みたいな高校生だと確実に目に止まる可能性がある。調べているとロビーにパソコンを置いているホテルが何店かあるのを知った。
中にはかなり雑に置いている所もある。何か所か見回って決めようと思った。やり直しだけは僕はできるのだから。
家からも学校からも離れていて、そして、○○駅からも少し離れている場所。候補として3か所あった。その中で公衆電話も近くにあるのは2か所。
A街とB商店街だ。B商店街はほとんどシャッター街で夜だけ開いている店が多い。つまり昼間は人が少ない。
僕はB商店街を目指そうと決めた。ここは駅からも遠い。自転車で行こう。そうと決まれば時間が惜しい。
昔自転車にこだわったことがある。家には競技用の自転車で白いコルナゴがある。たまに乗って走るのだけれど、ものすごい速度が出て気持ちいいのだ。でも、今回は目立つわけにはいかない。
もう一つのママチャリに乗って出かけよう。服もできるだけ目立たないように白いTシャツとジーパンだ。
没個性を目指している。そして、普段はかけないサングラス。実際自転車で昼間走る時に付けているものだけれどまあ、これくらいなら大丈夫だろう。目立ちすぎる場合は外せばいいし。
僕は自転車を漕いでB商店街を目指した。
幹線道路から一本入った道を自転車で走っているとB商店街が出てくる。その奥には団地があるのだが老朽化から入居率が下がってきていたけれど、ここ数年は外国人労働者の誘致を行ったためかその団地にはベトナム人が多く住んでいる。
現在日本には80万人の外国人労働者が居て、そのうち20%がベトナム人であると言われている。
そういうドキュメンタリー番組が深夜にやっていたのだ。タイムループのメリットの一つはこういう深夜番組をゆっくり見られることもある。ただし、そのタイムループが穏やかなものに限る。
今回のような人が死ぬ、傷つくタイムリープはどうにかしたい、早くなんとかしたいと思う。
B商店街は大半がシャッター街だ。そのシャッターも錆び付いているものもあれば、若者のアートと言っていいのかわからないものがシャッターに書かれているものも多い。
この商店街で今開いているのはコンビニと100円ショップとパチンコ店とそしてその奥にあるビジネスホテルだ。そして、公衆電話はパチンコ店の近くにある。
まず、周りを確認する。特に照明灯近くだ。ドーム型のものがあるとそれはカメラだから気を付けないといけない。
だから幹線道路から一本中に入って走っていたのだ。まあ、一本入るだけで信号が少なくなるし、交通量も減る。だから走りやすいのだ。
見た限りこの近くに監視カメラはなさそうだ。ならば後はパチンコやコンビニの入り口のカメラに映りこまないようにすればいい。大回りして路地にある公衆電話に近づく。パチンコ店の裏口近くだ。丁度人もいない。僕は携帯を取り出した。
ボイスチェンジャーなんてものはない。だから機械ボイスで音声を登録したのだ。
受話器を上げて番号を押す。相手が出たことを確認して再生ボタンを押す。
「今日、トラックに爆弾をしかけた。爆弾は『中央 ** か10-**』に載せてある。君たちに撤去できるかな?時間は16時が期限だよ。さあ、足掻いてみるがいい。さて、今宵の月夜を何人が見られるかな?」
そして、受話器を切る。数分。そしてすぐに移動する。次は奥にあるビジネスホテルだ。正面から入ると目立つので裏口を探す。
どうして裏口を知っているのか。それはこれが初回じゃないからだ。
すでに3回目。誰にも声をかけられないタイミングを計っている。
失敗した瞬間にタイムリープを発動させてやり直しをしている。ループの脱出の難易度が上がるかもしれないけえれど、時間を確認するためには必要なことだ。
このホテルはカウンターから少し離れた所にPCがある。だからこのホテルが一番だ。そして、このPCが自由に使えるのは少し奥にある団地に住むベトナム人用でもある。
まあ、実際このホテルを利用するのはベトナム人関係か雇い主関係くらいだろう。そうでないと駅からも遠いこの場所にホテルがある意味がわからない。
僕はネットにつなぎ掲示板に書き込みをする。
「今日、トラックに爆弾をしかけた。爆弾は『中央 ** か10-**』に載せてある。君たちに撤去できるかな?時間は16時が期限だよ。さあ、足掻いてみるがいい。今宵の月夜を何人が見られるかな?」
最後のセリフ。これは僕が9月1日に戦った相手がこのセリフを使っていたからだ。
そして、このことはどこのニュースにも取り上げられていない。つまり、爆弾犯と警察だけが知っている情報だ。
ネットにあれだけ出ていたのに、オリジナルはすぐに閲覧できず、この今宵の月夜の部分が消された分だけが広まって行った。
そういう事を誰かがしたのだろう。今回も警察はすぐに動くかもしれない。書き込みは消されるだろう。
でも、それは、警察が動く証拠だ。それにあの9月1日も僕が匿名で電話した内容をもとに爆弾も発見されている。警察にだけはこのフレーズの意味がわかるはずだ。
PCのログを消せるだけ消す。もちろん手袋もしている。この暑い季節に手袋をしているとものすごく蒸れる。そして、裏口から出て行く。誰にも声をかけられていない。完璧だ。
僕は来た道と同じルート、幹線道路から1本入った道を自転車で走る。後は誰にも見つからずに走ればいい。一旦家に向かう。
家に着いたらPCで掲示板が盛り上がっているのか確認する。すでにツイッターでは拡散されているし、カエル急便のHPでは配送が遅延する旨が書かれている。
そして、今宵の月夜についての書き込みは消されていた。狙った通りだ。これで回避できるはずだ。だが、一つの出来事を変えると違う出来事が起きることがある。
そう、もっとひどいことになることだってある。だから僕は服を着替えて○○駅に向かう。今からだと少しだけ早く着くはずだ。
僕は学校に行っていないのになぜか制服に着替えた。いや、何もなかったらこの後は祝園さんと坂下さんと会うからだ。制服の方が変に勘ぐられない。
着替えて○○駅に行く。15時40分。予定通りだ。先に交差点に移動する。花壇近くに座って、中学生の集団が来るのを待つ。
しばらくすると中学生の集団がやってきた。彼らが居た場所はこの花壇の近くだ。僕はそっと移動をする。トラックが突っ込んできた右側の最前列まで移動する。
「こっち側ってあんまり来ないからわからないね」
後ろから透き通った声がする。振り返らなくてもわかる。黒髪の彼女だ。僕は深呼吸をした。信号が点滅する。普通に信号が変わる。事故は回避できたのだ。
黒髪の彼女がそっと僕を抜かして歩く。変な顔で僕を見ている。そりゃそうだろう。最前列まで行って、信号が変わったのにすぐに歩き出さない。迷惑な人だと思われただろう。
でもね、僕は君を助けられたんだ。彼女ともう出会うことはないだろう。でも、それがいいに決まっている。
かわいい子だったな。後は笑顔になってくれたらいいのに。ちょっと浮かない顔をしていたのでそう思った。
僕は交差点を渡り、祝園さんが待っている場所、そう携帯で呼び出された場所であるメイド喫茶に向かった。
そこには祝園さんと坂下さん、そして目力が半端ない飛鳥さんが居た。
「もう、ボクかなり待ったよ。でもね、どれだけここに居てもみきちゃんと仲良くなれないんだよね。ねえ、みきちゃん。こっち来てよ。彼が噂の天才少年ジャグラーの外塚くん。なんかさ、ちょっとそれっぽいことやってみてよ」
無茶振りである。でも、この無茶振りは2回目だ。目の前にスティックシュガーでジャグリングする。
「流石だね。なんでも身近なもので出来てしまう。でもみきちゃん。外塚くんはねみきちゃんとあんまり年齢変わらないんだよ」
前はものすごく睨まれたんだ。だがみきちゃんは僕を睨まずにこう言ってきた。
「学校行きながらジャグリングもするって努力しているんですね。しかもその白いワイシャツに赤と白のストライプのネクタイ、灰色のズボン風名高校ですよね」
あれ?おかしい。睨まれていない。というかなぜか笑顔だ。
「あれれ。みきちゃんってそんな笑顔もできたんだね。でもね、この外塚くんは彼女を作らないんだよね。なんでか知らないけれど。まあ、ボクたちおじさんと一緒にいるのが楽しいみたいな変人だから相手にしない方がいいよ」
僕が彼女を作らないのはこのタイムリープが原因だ。今回だって結構な日数を経過している。でも、僕以外は1日も経っていない。
「まあ、彼女を作りたいって思ったことないですね。今はやることいっぱいですし」
「ならさ、ボクのプロデュース考えてよ。ボクって才能あるのにどうしてかテレビに出られないんだよね」
「あのな。才能があるのはまあ、認めてやるがテレビはそれだけじゃダメなんだ。話題が必要だ。お前のは才能というかペテンみたいなものだ。だからテレビ受けはしない」
坂下さんがそう言う。
「まあ、スポンサーの意向は聞くが、すべては聞けない。まあ、もっと面白いネタがあったら連絡をくれ。予算がなければ俺がカメラを持って撮ってやる。あ、そうそう、この飛香って子預けるわ。何かで使えるか考えてやってくれ。俺は戻るから」
坂下さんはそう言うとさっと伝票を手に持ってレジに向かって行った。
「安心して。ボクは君みたいな大人っぽいのはタイプじゃないんだよね」
祝園さんがそう言うと飛鳥さんがぼそっとこう言った。
「ロリコン?」
「ペドフィリアじゃないよ。だって、みきちゃんは16歳だもの。ペドフィリアは12歳以下が対象だよ。流石にそれは犯罪でしょ」
いや、36歳の祝園さんが16歳のみきちゃんを狙っている時点で犯罪です。確か何かの条例で引っかかるはずだ。
「飛鳥さんはおいくつなんですか?」
「23歳。アイドルは、みんな10代。だから、私、そこ、は入れない、言われた。でも、演技、やったことがない、から、女優も無理。でも、私、行くとこ、ない」
俯いてそう話す飛鳥さんは何とも悲しげだ。そして、なぜか、ちょっと片言なんだ。まあ、気にしない。祝園さんがメロンソーダを飲みながら話す。確実に興味がないのがわかる。
「あれでしょ。どうせ、地元か田舎で誰よりもかわいいとかきれいとか言われて、芸能人になれると言われて、その気になって、ちょっと中都市のここに出てきた。でも、東京までは行くのは怖かった。でも、中都市ならなんとかなると思ったけれど、なんともならない。でも、送り出してくれた人の手前もあって、戻ることもできない。そんな感じじゃないの?」
祝園さんはメロンソーダを飲むのではなくストローから空気をいれてブクブクさせている。Tシャツはやっぱり「絡むな危険」だった。どうやら、僕が朝に声をかけなかったらこのTシャツみたいだ。この祝園さんは良くわからない。
「なんで、わかる、ですか?」
「だって、ボクはさ。超能力者だからさ。まあ、でも、飛鳥さんの顔を見ていたらわかるよ。そして、わらにもすがる思いで坂りんにすがりついている。
そして、次はボクかこの天才少年にすがりついてどうにかセットで出して欲しいと言うんじゃないの?でもね、僕だってテレビに出られてないんだよ。君にどんな能力があるのか知らないけれど、外見だけじゃ足りないんだよ。外見だけだったらみきちゃんだってアイドルになれるよ」
祝園さんの目はそのみきちゃんを見ている。だが、僕はテレビにたまに出してもらえているからわかる。
何かがない限り確かにテレビには出られない。僕はジャグリングがあるから、そして若いという理由で出ている。
僕よりジャグリングがうまい人なんていっぱいいる。ただ、僕が小学生だったから、中学生だったから。そして、今はあの時の子供が大きくなっていう感じでテレビに出る。それだけだ。
「じゃあ、私は、どう、すれば、いい?」
「さあ?そんなのわかったらボクが実践しているよ。まあ、君は外見もいいからヌードでもやってみたら?」
「それ、イヤ、です」
「じゃあ、何かタイミングを待つしかないね。そのタイミングは一生来ないかもしれないし、いきなり来るかもしれない。
交通事故みたいなものだよ。そういえば、ここ最近変な爆弾騒ぎがあったね。最近物騒だ。だから、ボクはもう帰るよ。君たちは?」
「帰ります」
僕は家に帰ってお風呂に入り、日記を書いた。今日一日学校を休んだことを記録しておかないと僕がその出来事を忘れてしまいそうになる。だって、学校に行った未来もあったのだから。
ベッドに入ってゆっくり目を閉じる。まだ、22時だけれど、疲れていたのかすぐに寝てしまった。
PPPPPP
目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。
表示は9月8日。朝7時。僕はまだ9月9日に行くことができなかった。僕は一体何を見落としていたのだ。わからない。タイムループの出口は一体どこにあるのだ。




