~根本を知る~
~根本を知る~
PPPPPP
目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。朝7時。この時間にまた戻ってきた。
小手先をどうにかしたって何も変わらない。だったら、原因となるあのトラックをどうにかしないといけない。
ただ、トラックの情報が少なすぎる。実際何度か見ているのに、どこの企業のトラックなのかも覚えていなかった。
仕方がない。今回のループは解決のためじゃなく、情報を集めるために使うと決めた。記憶を呼び戻してまずは調べ物をしようと思った。
「夏樹?今日学校休むの?行くの?」
母親からだ。
「今日学校休むよ」
「わかった。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」
そう言って母親は出て行った。そして良太にラインを入れる。
「今日学校休むからよろしく」
この前わかったこととして良太は僕を時間ギリギリまで待っているという事だ。捨てるためのタイムループだとしても良太を待たせるのは悪いと思った。
こういう感情が無くなってしまうとタイムリープをしていると自分の感情が無くなってしまいそうになる。
確かにいつだって時間を戻すことはできるけれど、戻ってしまったら試練が待っている。何がループからの脱出なのかがわからないからだ。
とりあえず、今回はトラックを調べようと思った。まず、わかっているのはメジャーな運送会社のトラックではないということだ。
そして、そこまで大きくない。色は銀色に緑のラインが入っていた。社名があったかどうかはわからない。いや、何か書いていたようにも感じるけれど、わからない。
携帯で画像検索をしてみるがうろ覚えの記憶のためどこの運送会社なのかわからなかった。
○○駅は色んな会社や商業施設もある。どこかに何を納めているのかなんてわからない。
やっぱり、あの瞬間に記憶するのが一番か。でも、誰かが犠牲になるのは、血が流れるのは見たくない。どうしても誰かが跳ねられるのなら自分がその役目をしようと決めた。
わかっている。戻れることは。でも、だからと言って命を粗末にはしたくないし、痛いのもイヤだ。まあ、でも今までで一番つらかったタイムループは雪山で崖から落ちるのがある。
戻る瞬間が落ちる手前で回避できない。
そして、そのまま落ちると死にかけるのでダメ。手に持っている荷物を崖の一部にひっかけて落ちる速度を落とすのが正解かと思い何度やってもうまく行かず、100回やって1回成功した。
でも、その後崖の底で行方不明だった人の死体を発見したのだ。変わった名前の人だった。「谷津田部荒蕪」変な名前だったので覚えたのだ。この名前が何かの手掛かりかと思ったからだ。
だが、関係なかった。
そして、何度か崖の底でさまよったがどこからも脱出ができないこともわかる。荷物をひっかけてゆっくり降りられたけれど、中に入っているものは色んな所に散らばったため使えるものが少なかった。
「谷津田部荒蕪」の死体が担いでいたリュックを漁り使えそうなものを選んだ。
そうこうしている内に眠くなって倒れたらまたタイムリープの最初に戻ったのだ。何度も崖から落ちて怪我をしてを繰り返す。何度やっても痛いものはイヤだと思った。
何回かしていると崖の途中で自分の身体が引っかかることが分かった。これもこれで痛いのだけれど、それが正解だったのだ。
引っかかっていたら助けが来たのだ。意識を失った時に翌日になっていたのを見て安堵をしたのだ。
だから、やり直せるとしても痛いのはイヤだ。だが、もう誰かが血を流すのを見るのはもっとイヤだ。何度も血を見てきた。今回もだ。だったら僕が犠牲になる。僕はやり直せるのだから。
そう思ったらまず、○○駅に向かうことを決めた。あのトラックがどこから来たのかはわからない。でも、歩いて考えてみよう。
現場に行くことはいつだって一番の解決法なのだから。そう思って僕はリュックを背負って家を出た。もちろん私服だ。
暑いのでTシャツにジーパンだけれど、祝園さんみたいに変わったTシャツは着ていない。何か英字が書かれているだけのものだ。ただ、見たことがない文字なので意味は知らない。
リュックには水筒とスマホのバッテリーを入れている。後はタオルだ。そう言えば前に良太が差し出したハンドタオルだけれど、僕のものじゃないことが分かった。
似たようなものは確かに持っていたけれど、引き出しの奥にしまわれていたからだ。
誰かのハンドタオルだったのだろう。いや、多分良太のだろう。たまに思う事がある。良太はひょっとした僕の心を読み解いて、助言をしてくれているのではないだろうかと。
でも、そんなことはありえない。だって、僕と同じ時間を共有はしてくれないのだから。
ただ、思いたいのだ。良太だけは違うと。まあ、ある意味では祝園さんも違うがあの人は感覚で生きているから行動が予測できない。
本当にその時の気分で行動が変わってしまう。良太はいつも僕のことを思って行動をしてくれる。だから頼りになるのだ。でも、頼りすぎても行けない。僕は僕なのだから。
少し時間がずれるだけで電車は空いているおかげで座る事ができ、10時近くに○○駅の中央改札にたどりついた。
改札を出たらいきなり肩を叩かれた。
「あれ?外塚くんじゃない。どうしたの?」
振り返るとそこに居たのは祝園さんだ。改札前にムーミン体系なのにぴちっとしたTシャツを着て、よれよれのジーパンをはいているよくわからない人の口につっこんでいるように見えるビニールの袋を持っている。
ただ、違うのがTシャツの柄が「やる気スイッチ故障中」じゃなく、「絡むな危険」になっている。
「いえ、ちょっと」
そう言って通り過ぎようとしたらついてくる。
「どうしたんですか?」
「いやね、学校をさぼって何をしているのかなってボク思っちゃったんだよね。だから尾行してみようかと」
「いや、尾行って普通相手に気づかれないようにしません。真横で尾行するなんて聞いたことないですよ。それに何か用事があったんじゃないんですか?」
思った。
本当はあの管理会社に用事があったのだけれど、僕が祝園さんに連絡をしたから一緒になっただけなのだと。だが、祝園さんは楽しそうにこう言ってきた。
「だってね。何かボクに出会ってびっくりしていたからさ。だから、これは付いて行ったら面白いことがあるのかなってね」
楽しそうに話すが、祝園さんは僕の些細な行動の変化で全然今までの過去と違う動きをする。本当に今はTシャツに書かれてある「絡むな危険」の通りだと思った。
「何も面白いことはないですよ。ただ、ちょっと散歩というか歩きたい気分なんですよ」
「学校をさぼってまで?じゃあ、その散歩に僕が付き合っても問題ないよね。ちょうど夕方に合う約束をしていたけれど早まっただけだしさ。なんだったら坂りんも呼んで時間はやめてもらおうか」
そう言って祝園さんは携帯を取り出して電話をした。この時間に坂下さんが捕まるわけがない。
ラインだって既読が付いたのは15時近くだ。だが、祝園さんは電話で話している。
「ああ、後1時間くらいで○○駅まで来るって。なんだか忙しいふりしてたけど大丈夫でしょう。んで、散歩ってどこ歩くの?暑いからあんまり距離歩かないでね」
この祝園さんは強引なんだ。でも、悪い人じゃない。ただ、ペースがつかめないんだ。
まあ、今回のループは捨てようと思っていたのだ。この時間に来たら祝園さんに出会うことがわかっただけでも収穫だと思っておこう。この人は本当にイレギュラーなんだ。
とりあえず、今回の目標であるトラックが来るルートを事前に確認しておこう。僕は交差点に向かって歩き出した。
交差点。高架があるけれどそこまで視界がわるいとも思えない。交通量は多いし、この交差点を通る車はそこそこにスピードも出ているが、早すぎるという感じでもない。歩道も広いので歩行者も安心だし、自転車用の通路もある。
事故を起こしたトラックの運転手は居眠りなのだろうか。それとも、何か病気なのだろうか。とりあえず、普通に運転をしている車を見ている限り、ここは危険な場所ではない。
「ねえ、なんでこんなところで突っ立ってるの?暑いじゃない」
そう言って、祝園さんは扇子を取り出してパタパタしている。扇子には「不正受給」と書かれている。
そこは変わらないのか。というか、どこであの扇子は売っているのだろう。謎だ。まあ、こういう時祝園さんは放置していても怒らない。
というか、祝園さんが怒っている所を見たことがない。そのまま交差点を渡らずにトラックが来た方向に向かって歩く。
「そっちに行ったって面白いものは何もないよ。あるのは企業とよくわからない工場とか倉庫とかだからさ。それよりどこかで何か飲まない?喉乾いちゃったよ。知っている?暑いところに無駄に立っていたらすぐに熱中症になるんだよ。僕はそれによく汗をかくんだよ。新陳代謝がいいからね」
いや、祝園さんはちょっと太っているからだと思います。
まあ、言えないけれどね。でも、確かに今日はかなり暑い。プール日和だったしな。
「そうですね。どこかでお茶でも飲みましょうか?」
「でしょ。飲みたいよね。ちょっと行きたい店があるからそこに行こうよ」
「わかりました」
そう言って連れて行かれたのは11時から開店しているメイド喫茶だった。
「お帰りなさい、ご主人様」
僕は後ずさった。
「いや~、ありがとう。みんな待っていてくれたんだね。あ、みきちゃんおはよう。今日もかわいいね」
祝園さんは楽しそうにどんどん奥に行く。
「こういう所初めて?でも落ち着くでしょう」
「いえ、落ち着きません」
しまった。つい言葉に出てしまった。
「まあ、まだここの良さがわからないのだね。ほらあのみきちゃんを見てよ。この中だと別格にかわいいだろう」
確かにそう言われてみるとスタッフのみんな可愛く見えるが、初めに祝園さんが声をかけたみきちゃんは別格だった。
すこしつぶらな瞳にきれいな白い肌。でもそれ以上に笑顔が素敵なんだ。どうしてか目が奪われてしまう。つい、こっちも笑顔になってしまいそうなのだ。でも、この時間に働いているということは社会人なのだろうか?
僕と同じ高校生と言うことはありあえないだろう。だって、学校に行っているはずだ。
ならば大学生なのか?でも、平日の昼間だ。こんな時間にずっと働いているのもおかしい。だが、どう見てもこのみきちゃんだけ若くてかわいいのだ。他の人はちょっと年上な感じがする。
「みきちゃん。こっち来てよ。彼が噂の天才少年ジャグラーの外塚くん。なんかさ、ちょっとそれっぽいことやってみてよ。後、僕にオムライスね。ちゃんと愛情たっぷりケチャップお願いね」
いきなりの無茶振りである。でも、この手の無茶振りは慣れている。目の前にスティックシュガーがあったのでそれを取り出してジャグリングする。
「流石だね。なんでも身近なもので出来てしまう。でもみきちゃん。外塚くんはねみきちゃんとあんまり年齢変わらないんだよ」
そのセリフでものすごく睨まれた。
「いいですね。学校にも行かずさぼれる身分なんて」
ドスンと水を置かれて去って行った。茫然としていると祝園さんがこう言ってきた。
「ああ、みきちゃんはね複雑な家庭なんだよ。だから高校に行きたかったけれど、行くお金がないから働いている。そういう家庭もあるんだよね。ボクがさ、支援してあげよっかっていったらすっごい睨んできたんだよね。冗談なのにさ」
冗談に聞こえないから怖い。
「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様」
また、誰かがやってきた。そう思ったら坂下さんだ。オールバックにサングラスにひげ。そしてがっちりした体形。
知らない人が見たらただ怖いだけの人にしか見えない。いや、実際に怖い人でもあるけれど。そして、その横に見たことがないものすごい美人がいる。
というか目力がすごいのだ。きりっとした二重の大きな瞳が印象的だ。美人だけれど気がきつそうに見える。
黒髪ストレートなのに、僕が助けようとしている彼女とは雰囲気が違いすぎる。この女性は刃物みたいだ。
「坂りん。待っていたよ」
「その坂りんって何だよ」
祝園さんは坂下さんを坂りんと呼ぶ。その呼び方と風貌が全くあっていない。祝園さんの横に坂下さんが座ったので、僕の横にはその目力がすごい女性が横に座った。ものすごくいい匂いがする。
「んで、坂りん。この子誰?」
それは僕も気になっていた。こういう時祝園さんは思ったことを口にすぐに出す。
「ああ、なんか売込みがすごくてさ。でも、使いどころがないって言っているのに、ずっと俺に付いて来るんだよ」
そういうと、横にいる女性が笑顔になった。だが、目が鋭くてなんだか悪巧みをしている顔にしか見えない。
「何かで使ってあげなよ。こんなミステリアスな美人そうそういないよ」
メロンソーダを飲みながら祝園さんはそう言う。しかも目はメイドのみきちゃんを追いかけている。多分、興味がないのだ。
「あのな、テレビに出るには見た目の華だけじゃダメなんだ。この飛鳥はアドリブがきかない。演技もできない。
ねじ込んだら周りが絶対にあの子プロデューサーと寝たと言われる。俺はそんな安く番組は作っていない。
そもそも、安くて使えて華があるタレントなんてみんな探している。この子なんていきなりやってきて売り込みをしてくる。
使ってあげたくても使いどころが難しいんだよ。それこそ、アシスタントで突っ立っているだけとかなら使えるだろうけれど、そういうのは大手からすでにお願いがきている。弱小プロダクションの子をそういう風に使うのは難しいんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあさ、ボクがマジシャンとして彼女をアシスタントに使えばいいってことでしょ。そういう話しを今日するんだよね。外塚くんが何か考えて来てくれたんだよね」
いきなり振られてびっくりした。ずっと部外者だと思っていたからだ。
「いや、そんないきなりテレビに使えるネタなんて思いつきませんよ」
「そうだな。最近の視聴者は眼が肥えている。変なことをしたら問題になる。それこそ、マジックなんかじゃなく超能力で、しかも何か事件をリアルタイムで解決でもするくらいじゃないと使えないな。
祝園さんならアドリブ効くから安心だけど、そんなおいしいネタなんてそうゴロゴロ転がっていない。まあ、何かネタがあるなら教えてくれ。後、この飛香って子預けるわ。何かで使えるか考えてやってくれ。俺は戻るから」
坂下さんはそう言うとさっと伝票を手に持ってレジに向かって行った。
「あらら。困ったな。僕はこれから行くところがあるからさ。まあ、面白くないけれど来るかい?」
僕は断った。だが、この飛香さんは首を縦に振る。メイド喫茶を出て、僕は交差点に向かった。まだ、時間はある。けれど、祝園さんと一緒に行動をしていると狙っている時間にここに来られなくなる可能性がある。
コンビニで漫画を読みながら時間を潰す。少し移動をして昼ご飯を食べる。本屋に行き小説を立ち読みする。
読んだ本はケン・グリムウッドの「リプレイ」だ。自分の現象に近い小説は気になって読んでしまう。
何度もこの手の小説や映画を手に取っているが参考になったりならなかったりだ。
ただ、いつも思っていることはある日いきなりこのタイムリープが出来なくなる日が来るのではと思っている。だからこそ、できおるだけタイムリープに頼らないようにしている。
もうすぐ15時半だ。とりあえず、まだ早いけれど交差点に向かおう。
花壇に腰を掛けて何回か信号を見送る。するとまず、中学生なのか集団がやってきた。彼らが居た場所はこの花壇の近くだ。僕が居ると彼らの場所変わってしまう。
僕は移動をした。そう、この花壇近くの場所は交差点の中でも安全なはずだ。左側の奥。トラックが突っ込んでくるのは右側からだ。僕は右側最前まで移動する。
「こっち側ってあんまり来ないからわからないね」
後ろから透き通った声がする。振り返らなくてもわかる。黒髪の彼女だ。僕は深呼吸をした。痛いのはイヤだ。
自分が跳ねられて命の危険を感じたら自らタイムリープをする。時計を見る。もうすぐ16時。なるほど。
時間はわかった。次だ。トラックが来る。銀色に緑のラインが入っている。企業名は「カエル急便」だ。
あまりメジャーじゃないけれど地域限定で配送をしている会社だ。ナンバープレートを確認する。
「中央 ** か10-**」覚えなきゃ。
何度も頭に刻み込む。運転手を見る。目が開いていない。居眠りなのか急病なのかわからない。けれど、確実に意識がない。
だからブレーキをかけることなく突っ込んできたのか。後はこのまま僕が跳ねられたら誰も気ずつかない。そう、思っていた。
「あぶない!」
僕は後ろから突き飛ばされた。目の前にアスファルトがある。誰かが僕を押したのだ。だが、鈍い音がする。
叫び声がする。
振り返るとそこには黒髪の少女が血だらけで倒れていた。だが、顔は穏やかだ。
「よかった無事で」
口がそう動いた。こんなの望んじゃいない。今回のタイムループでは僕が傷つくはずだったんだ。なんで君が僕をかばうんだよ。
彼女に駆け寄って謝りたい。けれど僕の足は動かない。徐々に血の気が落ちていくように世界が暗転していった。
僕の望みとは違うタイムリープだった。でも、どうやって僕はこのタイムループを乗り切ればいいのだ。
もう、君を傷つけない。僕はそう決めた。




