~出会い~
~出会い~
9月8日。
この日を忘れることはない。それは何度もこの日付を見たからだ。
それにその前日にあったことも。この日は、数日ぶりに学校に行った日で、午前に体育でプールがあったから午後はかなり眠かった。授業が日本史と古文というこれまた眠くなる可能性が高いのも問題だった。
この日は普段あまり接点がない人たちに呼び出されていた。前に天才ジャグラーとしてテレビに出た時に知り合った人たちだ。なんでも今度超能力者の特集をするという。
「だって、夏樹くんって若いのにジャグリングが出来て、勉強もできるでしょう。絶対超能力者だと思うんだよね」
そう暑く語るのは、マジシャンとして下積みをし、占い師にも弟子入りしたけれどうまく行かなかった祝園茂だ。
ある意味マジシャンみたいな人でもある。そして、僕はそこまでこの祝園さんが得意ではない。
だが、その友人の坂下恵一が制作会社のプロデューサーをしているから打ち合わせに顔を出すか悩んでいた。
坂下さんという人間はかなり怖い感じの人だ。独特のオーラがある。でも、祝園さんが金持ちの息子だからそのお金をあてにしている。
実際に番組制作にはお金がかかる。それは坂下さんから聞かされているから良くわかっている。だが、超能力なんて今時流行らない。
僕はジャグリングをするけれどマジックはしない。それは胡散臭いと思われたくないからだ。それともう一つ。僕の能力に気が付く人に出てきてほしくないからだ。
だから、坂下さんと祝園さんには「都合が付けば行きます」とだけ連絡を入れてある。難しい所だ。テレビに出たいわけじゃない。
目立ちたくもない。
けれど、坂下さんとの接点は必要でもある。今まで知らない世界を見せてくれた人でもあるし、おいしい食事の店にも連れて行ってもらっているし、この人がいるとタイムループで助かることも多い。
そういう思いもあるからとりあえず話しだけでも聞こうかと思って、○○駅まで行くことを決めたんだ。
まあ、すぐに行って帰ってくる。そう決めたはずだった。
電車に乗り時計を確認する。これは癖みたいなものだ。どこで自分がタイムリープするかわからないからだ。
時刻は15時半。この様子だと○○駅に16時くらいにつきそうだ。
中央改札を出る。中央改札を出て少し歩くと広場がある。そう言えば、この場所でジャグリングを教わったのを思い出した。
今でもたまにこの場所でジャグリングを行う。不定期に行うから観客が付く時もあれば閑古鳥が鳴いている時だってある。
それに同業者の方がいた場合は場所を変える必要がある。やはりお互い気になるものだ。許可を取っていないと、怖い感じの人に絡まれるときもある。そういう時に坂下さんのような人を知っていると助かる。
ある意味この街で坂下さんや祝園さんとつながっているのはそれだけで免罪符になるからだ。まあ、実際申請を出すことの方が多いが。
広場を抜けると交差点がある。大きな通りだ。信号が丁度変わったので待つことにした。ここは交通量が多いから無理をする必要はない。
中学生なのか集団が目の前にいる。男女で6人。そういえば、職業体験とかなんかで会社訪問をしたことを思い出した。
この近くは色んな会社があるからどこかに行っていたのかもしれない。僕からしたら中学時代はかなり前に感じてしまう。
いや、確かに書類上の年齢は高校2年生だから少し前なのかもしれない。でも、僕は小学3年生くらいからタイムリープとループを繰り返している。
もう、どれくらいの月日のずれがあるのかもわからない。だから、中学時代を思い出すのが大変だ。
だから、僕は日記をつけるようにしている。
といっても、ループしている時に何かを記述しても「なかったこと」になるからどうしようもない。
だから、ループから抜け出した時に出来るだけ「行ったこと」を記載するようにしている。そして、ループが長ければ長いほどその前を思い出せなくなる。
ループから抜け出した世界では「出会っていない人」や「話していな事柄」がわからなくなってしまうからだ。
結構この手も失敗を何度もして気味が悪いと思われていることはある。でも、なんだか変人な天才というくくりにされているからなんとかごまかせている。
ふと、空を見る。空はいつだって安心させてくれる。だって、何も言わずに見守ってくれるからだ。
「こっち側ってあんまり来ないからわからないね」
ちょっと通る声がした。ふと前を見るとセーラー服を着た女子高生が二人立っていた。どうして女子高生とわかるかと言うと、このセーラー服にちょっと特徴があるからだ。
白地に水色のラインが入っている。この街をモデルにしたアニメで似たものが採用されたとちょっと話題になったんだ。
白地に水色のラインカラー、そして黄色のタイ。スカートも同じように水色だ。まだ暑い9月にこの水色が映える。そして、二人とも白い肌をしている。
あまり太陽の下に出るような部活をしていないのだろう。一人は黒髪が長く落ち着いたお嬢様と言う感じ。もう一人は少し明るい茶色の髪を短く肩付近で揃えている。
それだけならスルーをしたのだ。ただ、この黒髪ロングの女性がものすごく印象的に残る顔をしていたんだ。
少したれ目で、まるっとしたほっぺた。けれど、すっとした鼻立ち。一言で言うとものすごくかわいいのだ。
けれど、どうしてか薄幸そうに見える。守ってあげたくなる感じなんだ。いや、妹に少しだけ似ていたからかもしれない。
ここまでタイプな女性はそういないな。そう思っているとふと携帯を取り出してそっと景色と共にその子を撮ってしまった。もちろん、音はしない。そんなヘマはしない。
携帯をそっとカバンにしまって前を向く。すごい音がした。
前を向くとさっきまで目の前にいた黒髪ロングの女性がトラックに跳ね飛ばされている。スロー再生のようにゆっくり世界が見えた。飛び跳ねている彼女と目があったように感じる。そして、その口は動いている。
「助けて」
スロー再生は一瞬で終わった。バウンドして黒髪ロングの女性が地面にたたきつけられる。血が流れて行く。
叫び声が雑踏を切り裂いた。でも、体は動かない。世界が徐々に暗転していく。
タイムリープだ。
自発的でないタイムリープ。イベントリープだ。世界が暗くなっていく。
PPPPPP
目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。朝7時。あの事故が起きる当日の朝だ。
考える。自発的でないこのタイムリープには理由がある。今回はあの黒髪の少女の事故を防ぐが正解なのではと思う。だとしたら簡単だ。
あの少女を助ける。とりあえず、今日一日何をしていたのかを思い出す。
自分の行動の結果で他人の行動が変わってしまうことがある。バタフライエフェクトだ。
力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象。カオス理論で扱うカオス運動の予測困難性、初期値鋭敏性を意味する標語的、寓意的な表現。
自分がこういうスキルを身に着けてからタイムリープものの小説や映画をかなり見るようになった。気を付けないといけないことも多い。ただ、悲しいかな僕はループをする。
だから何度でもやり直しができてしまう。ループを抜け出すその時まで。望んでも望まなくても。そうあの時だってそうだ。
とりあえず、僕とあの彼女の接点はないはずだ。だが、学校の誰かがあるかも知れない。普段通り学校に行き、放課後に○○駅まで向かう。
そう決めた。僕はまだ気が付いていなかった。このタイムリープからの脱出は簡単でないということ。




