~ライブ放送~/エピローグ
~ライブ放送~
「はい、今日はかんなぎ様の予言にしたがいやってきました。私はかんなぎ様の一番の従者であり、信仰者でもある四葉と申します。ちなみにかんなぎ様の感じは巫女の前の文字だけです。知らない人は覚えておいてください」
そう言って祝園さんは深々とお辞儀をする。そして飛鳥さんを映す。
「ここ、危険がある。爆弾がある。ここ以外にも、他にもある。四葉。行動しなさい」
相変わらずの棒読みで、しかもとぎれとぎれだ。そして、祝園さんはインターフォンを押す。
「はい」
「私四葉と申します。実はこの家に爆弾が仕掛けられているというので確認に参りました」
いきなり直球過ぎじゃないか。僕はそう思った。当たり前だけれどインターフォンは切られる。もう一度祝園さんがインターフォンをならす。
「押し売りじゃありません。ただ、撮影をしています。少しだけ協力してください。本当に危険なんです」
そう話しているとざわっと音がした。インカムで坂下さんから指示が入る。
「後ろに峯島がいるぞ。映せ」
反応したのはまず祝園さんだ。飛鳥さんの前に飛び出す。手に持っていた黒いアタッシュケースを盾にしている。飛鳥さんが言う。
「刺客、来た。このままだと、いつ、爆発するか、わからない」
釘が飛んできた。その映像も映している。というか、この状況が怖い。峯島さんはかまわず撃ち続けてくる。
「警察呼ぶわよ」
インターフォンでそう言われた。
「今すぐ呼んでください」
祝園さんが叫ぶ。警察という言葉を聞いて突進してきた。その時、ワゴンが動き峯島さんと僕たちの間に入る。
僕たちはワゴンに乗り込み籠城をした。ガラス越しに釘銃を撃ちつけてくるのを撮り続ける。
しばらくして自転車に乗った警察がこちらに向かってきた。一人だ。峯島さんは回り込んで警察に釘銃を打ち込む。ワゴンを動かして僕たちは警察と峯島さんの間に立ちふさがる。祝園さんが運転席にあるボタンを押して話しかける。
「応援を呼んでください。後、この建物の中に爆弾が仕掛けられています」
警官は無線で応援を呼びながらワゴンの影に隠れている。この段階で峯島さんは一旦逃走した。すでに顔はすでにネットに出ている。もう、逃げ場はないだろう。
ワゴン車から降りて再度祝園さんが警官に事情を説明する。そして、再度インターフォンをならす。警官がいるので隠し撮りのような形になっている。坂下さんからインカムが入る。
「すでにものすごいアクセス数だ。このライブ配信は後爆弾を映して警察にバトンタッチだ。そこで終了とする」
爆弾を映した所で飛鳥さんがこう言った。
「これで、危機。救われる。だが、まだ解決、じゃない」
警察に柚木家にも爆弾があることを告げ、また、あの雑居ビルについても話す。ここはネット配信しない。
これ以上やると捜査妨害になるそうだ。つまり、僕たちは成功したのだ。
撮影をしていた僕は警察に捕まると問題になるそうなので坂下さんがそっと逃がしてくれた。
「お前はまだすることがあるんだろう」
そうだ。僕はまだすることがある。僕は八千代から○○駅に向かった。ギリギリ間に合う。○○駅について、アタッシュケースを取り出して準備をする。いつもより遅いけれど16時に間に合う。
僕はジャグリングを始める。後数分で青野さんたちがここを通る。僕はクラブでジャグリングをしながらオーロラビジョンで緊急ニュースが流れているのを見た。
「1日の爆弾予告および爆発物所持の疑いで須藤幸三(42)を逮捕しました」
雑居ビルにいた須藤和也の父親が逮捕されたニュースだ。目の前で柚木さんが僕に気が付く。ここから僕たちは出会えるのだ。そう、思っていた。
けれど、二人は僕の更に上を見ている。緊急ニュース。彼女たちは須藤に呼び出されていた。そこで何かを言われ、脅されていた。二人は安堵している。後は二人が僕の近くに来て、一緒にジャグリングをして、青野さんの心の支えになってあげれば完璧だ。
だが、二人はそのまま改札に戻って行ったのだ。
僕はまた失敗をした。でも、少しくらいいいだろう。僕はこの日疲れからかタイムリープではなく、そのまま家に帰って眠りについた。次のタイムリープで乗り越えればいい。
~エピローグ~
PPPP
時計を見る。9月9日だ。
あれほど待ち望んでいたはずの9月9日が不意にやってきた。けれど、青野さんとは出会えていない。
付き合えてもいない。でも、大丈夫。僕は青野さんのことを知っている。もう一度出会って、恋をすればいい。だから、いつかまた、どこかで会えたらいいなと。
待っていても仕方がない。僕は今日から学校帰りに中央広場でジャグリングをすることを決めた。
たった一日だったけれど、動画配信サイトでは「かんなぎ」人気が上がっている。おもしろそうなネタがあったら頼むと坂下さんにも祝園さんにもお願いされた。
二人が僕の能力を信じてくれて、受け入れてくれたことは本当にうれしかった。でも、祝園さんの笑顔が怖い。何かきっと変なことをお願いされるに決まっている。
ある意味この人にこの能力を知られるのはまずいことだったのかもしれない。
後、事件についてだ。
実際、爆弾は処理され、その日のうちに実行部隊であった須藤幸三が捕まった。だが、須藤幸三が爆弾を作っていたとは思えない。まだ、主犯格についての追及はこれからだ。
「まあ、取り調べは結構きつかったけれどな。そして、お前をこっそり逃がしたおかげで映像については謎のままだ。まあ、警察もあの映像のおかげで峯島を捕まえられたと言っていたからな。俺も警察には付き合いがあるし、仲がいいやつもいるからなんとかしてもらったけどな」
実際、撮影前に坂下さんは警察にも話しをしていたみたいだ。どういう風に話したのかは教えてもらえなかったけれど。
でも、なんとかいい方向に進んでいる。
「夏樹?今日学校休むの?行くの?」
母親からだ。
「今降りる。学校行くから」
僕はこれから青野さんと出会うのだ。待っていてね。
~ボーナストラック~
あれから1週間。僕は中央広場で放課後ジャグリングをしていた。暇なのか祝園さんがたまに見に来てくれた。
「あ、今日はね。行けないんだ。ようやくみきちゃんとデートできることになってさ」
奇跡が起きたのかと思った。何があったのか知らないけれどみきちゃんと店の外で会うらしい。まあ、実際祝園さんがいない方が助かる。
絶対に僕が女の子、青野さんを見かけて声をかけたら冷やかされるに決まっているから。
でも、いつ出会うのだろう。僕はその日を待っていた。
改札で青野さんを見つけた時はうれしかった。横に柚木さんもいる。
柚木さん。僕に気が付いて。そう思っていた。けれど、改札を出た二人の横に男性がいるのに気が付いた。
前を歩く柚木さんと男性。その後ろに青野さんともう一人の男性が歩いている。そして、そっと離れて手を繋いでいる。
そっか、彼氏ができたのか。僕はもう必要ないんだね。
気が付いたら膝が折れ曲がっていた。ジャグリングもやめてしまい、交差点の入り口付近に座り込んでしまった。
青野さんが僕に近づいてきた。
「どうしたんですか?体調悪いんですか?」
もう、どうすることもできない。彼氏がいるんだよね。
「ちょっと、こずえ。何しているのよ。ほら行くよ」
そう言って4人は去って行った。
「これでよかったんだよな。愛していたよ」
僕はつぶやいた。誰にも聞かれることのない独り言。遠くを見つめる。少し離れたところにあるオーロラビジョンからニュースが流れている。
「爆弾犯の主犯と思われる谷津田部荒蕪が逮捕されました」
聞いたことがある名前。僕はその名前を知っている。どこで知ったのだ。そうだ、あの雪山でのタイムリープの時だ。どういうことだ。
捕まった相手はすでに死んでいる。では、この捕まったのは誰なのだ。
おかしい。何かがおかしい。
そう思った時、目の前にカエル郵便のトラックが通過した。
顔を上げる。少し前の交差点に彼女たちがいる。信号でトラックが止まった。
その瞬間、爆音が響きトラックが爆発した。彼女たちも巻き添えになっている。肉片が飛び散り、むせかえるような血の臭いがする。
震える足が前に進んでいく。
青野さんが倒れている。僕と目があう。
「助けて。まだ死にたくない」
世界は暗転した。
PPPPPP
目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月9日。
まだ、9月は終わらない。