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~最後のピースを~

~最後のピースを~


PPPPPP


 目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。


「夏樹?今日学校休むの?行くの?」


 母親からだ。だが、すぐに返事ができない。タイムリープをしていて死にかけたことはある。けれどあれだけの恐怖は今回が初めてだ。そう、死にかけるのではなく死を感じたのだ。


「今日学校休むよ」


 吐き出すように声を出した。


「大丈夫?体調悪いのなら病院行きなさいよ。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」


「ああ、わかった」


 怖いのは事実だ。けれど、その渦中に青野さんがいる。


 助けなきゃ。


 まずは、僕が刺された場所を確認しに行こう。


 それに、もう一つ。柚木さんは何かを知っている。ただ柚木さんから聞き出せる感じはない。聞きだせるのなら前回に聞きだせたはずだ。それに須藤和也だ。こいつも何かに絡んでいる。

 

 ただ、付き合っている青野さんのこともある。うまく解決させなければならない。


 まずは、現場に行くことを決めた。いや、違う。このまま○○駅に行ってしまうと9時近くになってしまう。


 祝園さんとばったり会うのは何時だっただろう。思い出せない。


 とりあえず、向かって出会ってしまったらタイムリープで戻ればいい。祝園さんに今会うのはまずい気がする。


 いや、誰か大人が居た方がいいのかもしれないけれど、短時間で祝園さんに説明できる自信がない。とりあえず、出たとこ勝負だ。


 ○○駅に向かう。9時少し前に着いた。周りを確認する。祝園さんはいない。どこかで出会うかもしれない。早めにあの雑居ビルに向かわないと。


 雑居ビル。このビルに入っているのは古着屋、中古屋ショップ、武具・防具店、雑貨店に看板のない空室っぽい場所。


 とりあえず、一つひとつ中に入って確認するか。時計を見ると9時半。見ているとどの店も10時からオープンだ。


 仕方がない。僕は向かいにあるコンビニに入って読みもしない雑誌コーナーに移動をした。そう言えば、前もこのコンビニの雑誌コーナーで週刊誌を読んだのを思い出した。


 そういえば、ここで雑誌を読んだのもかなり前のような気がする。


 何度もタイムリープを繰り返しているとわからなくなってくる。だから雑誌を取って内容を読んでいるとどこかで知っていると錯覚をしてしまう。


 そう言えば、この内容もどこかで読んだ気がする。


「再開発の闇」この街のことだ。特にニュータウン建設に関して暴力団や外国人との癒着が書かれている。

 利権争いから抗争もあると。確かに、良くないうわさは聞く。でも、どこにも確証はない。憶測記事だ。

 ただ、地元ということもあって、こういう地元に密着した雑誌は取り上げている。全国紙ではあまり触れられることのないニュースだ。

 そして、この雑誌にはタイムリープにつても書かれていた。このタイムリープの記事は結構うまくできていると思った。

 雑誌を読み終り、時計を見るともう10時をまわっていた。いつの間にか時間が過ぎていた。


 まず、古着屋に入る。雑居ビルだと思っていたが中は結構広い。壁際に色んな服が陳列されている。真ん中にも棚があり左右で男女の服が分かれている。結構見やすいレイアウトになっていた。


 そして、いい服も多い。今度ここに買いに来ようと思った。次は3階にある中古屋ショップに上がった。


 中は雑貨やCD、ゲームが売られている。ゲームセンターでしか取れない景品や、見たことがないいかにも怪しそうな海賊版のDVDも売っている。


 だが、普通の店舗だ。何も変わったことはない。


 もう一つ上の階にあるのは、武器・防具専門店だ。入る前のイメージはお土産コーナーにある木刀のイメージだった。


 だが、完全に違った。まるでゲームの世界だ。剣は種類別にわけて立てかけられている。日本刀もあれば西洋刀もある。


 細身の剣もあればベルセルくに出てくるようなでっかい、どうやってもちあげるのかわからない剣もある。


 甲冑もある。かなりテンションがあがった。精巧にできているが値段を見るとこれまたすごく高い。現実世界ではスライムもいなければ冒険にでてお金をゲットすることもできない。世知辛い世の中だ。


 次の階は雑貨屋。アジアンテイストの女子が好きそうな店だと思った。実際ここまで上がってみたが普通の店だ。


 エレベーターを使い降りようとしたが、一つ上の階が気になって上にあがった。


 エレベーターを降りると薄暗い。そして、スチールの扉が閉まっている。


 だが、間から何かの音がもれてくる。まるでパソコンが動いているような音だ。スチール扉に手をかける。もちろん、鍵はかかっていた。


 この手の鍵は簡単にあけることができる。昔そのスキルを習得するために過去に何度もタイムリープしたことがある。


 そこまでの機材も時間もかからない。鞄から針金を取り出して形を変形させる。鍵穴に何本か差し込み動かしていく。かちゃり。音と共に扉は開いた。


 部屋の中にはモニターが複数ならんでいた。写っているのはこのビルの周囲、この部屋、青野さんの家、柚木さんの家、後は住宅街やら商店街などだ。


 知らない場所も多い。無作為に爆弾が仕掛けられていたわけじゃない。確実に狙われていたのだ。


 ガサガサ。音がした。


 振り返ると男性が立っていた。すでに手に角材を持っている。こんなもので殴られたら即死だ。そして、この男性の顔に見覚えがある。


 そうだ。須藤和也を調べていた時に見た、須藤和也の父親の顔だ。殴られる瞬間、僕はタイムリープを発動させた。


PPPPPP


 目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。


「夏樹?今日学校休むの?行くの?」


 母親からだ。


「今日学校休むよ」


「わかった。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」


 僕は考えた。前回9月1日の時は爆弾犯にはたどり着けなかった。でも、今度はたどり着けた。一部だけれど、それでもつかめたんだ。


 でも、通報だけじゃ警察は動かない。証拠が居る。でも、順番を間違えたら僕が青野さんと出会えなくなる。


 自分で解決するには相手が危険すぎる。何度も殺されかけている。だが、今までのタイムリープで解決の方法は決めている。


「この爆弾を誰よりも先に発見できたらニュースになるな。しかもそれをライブでやる。それが出来たらこいつらを取りあげられるだろうな。まあ、そんな面白いことが起きればの話だ」


 坂下さんのこの言葉だ。ライブでやればいい。視聴者の前で犯行なんてできるはずがない。


 カメラが回っているのだから。うまく行くはずだ。だが、坂下さんは僕からラインを送ってもうまくいかない。


 だからまず、祝園さんと会ってからだ。それにもうカエル急便に電話もしなくていい。


 だって、すべて未来予知をして解決すればいいのだから。まず、祝園さんにラインをする。だが、悩んでしまった。


 祝園さんに初めからこのことを告げるとどういう行動を取るのか予想ができない。それに、僕も祝園さんもまだ飛鳥さんという存在をしらない。


 だとしたら送るラインは今までしたことがある内容になる。


「ちょっとお願いがあるのですか?今日○○駅の広場で夕方少しだけジャグリングをしてからそちらに行こうと思うのですが、保証人になってもらえませんか?」


 僕はジャグリングをして青野さんと出会わなければならない。すぐに返事が来る。


「いいよ。何時に○○駅で待合せ?こっちはいつでも大丈夫だよ。夕方も体開けてよね」


 よかった。違う内容じゃない。ここで違う内容だとまた考えないといけない。


「9時近くでお願いします。後、他にも話しがあるのでちょっと時間をください」


 少し違う言葉を入れた。大丈夫だろうか。


「大丈夫だよ。待っているね」


 返事は変わらなかった。気にしすぎだろうか。とりあえず、○○駅に向かう。9時少し前に着くようにする。いきなりアタッシュケースを持っていたら突っ込まれそうだからだ。


 駅について改札を出る。そこにはムーミン体系なのにぴちっとしたTシャツを着て、よれよれのジーパンをはいているよくわからないビニールの袋を持った人が立っていた。Tシャツには「思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくないから」と書かれてあった。またTシャツが違う。


「そうだね、まず先に事務所に行こうか。話しは後で聞くよ」


 そう言われた。でも、事務所に行ったら後が長いはずだ。事務所に着くと祝園さんは大きな声でこう言った。


「あ、峯島さんいる?ちょっと呼んできて欲しいんだけどさ」


 峯島さんがおどおどして出てくる。同じような展開。祝園さんが言う。


「ちょっとこの峯島さんとだいじ~な話しがあるんだよ。ちょっとここで時間を潰して来てほしいんだ。ただ、ちょっと細かい指示を出すけれど、このメイド喫茶に行ってみきちゃんを呼んでほしいんだ。それ以外の子がかわいくたって呼んじゃダメだからね。そして、2000円渡すから2000円きっちり使って欲しいんだ。オムライスとドリンクで丁度その値段。特別にLOVE注入を許してあげるから。それと、みきちゃんに後でボクが行くこと伝えておいてね」


 そう言って祝園さんは会議室に消えて行った。祝園さんのTシャツの通りだ。


「思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくない」


 うまく行かないのが普通なのだ。そう思うことにした。


 祝園さんに言われたので11時まで時間を潰してから、メイド喫茶に行く。ここで一人時間を潰すのか。勇気がいる。


「おかえりなさいませ。ご主人様」


 流石に一人で入ると落ち着かない。


「ご主人様、ご来店は初めてですか?」


 駆けつけてきた女性にそう言われる。目がくりんとして黒髪の女の子。ほっぺたがまるっとしていてかわいい感じだ。こういう子もいたのかと思った。


「よければももが当店のシステムを説明いたします。当店ではメイドを指名することができます。料理等のサーブをすることだけの指名でお話しができるわけではありません。


 もちろんタッチも禁止です。そして、9月は現在イベント開催中なんです。月末の文化祭までの間にクイーンを決めようというメイド奉仕キャンペーンです。


 おひとり様1日上限2000円までの売上を競うこのメイド奉仕キャンペーン中です。また、ご友人と来られた場合、ご友人と一緒に同じメイドを指名していただけた場合は上限が4000円になります。


 どなたかお気に入りの子を見つめられましたら注文の際にご指名ください。よければ私ももをご指名いただければ大変うれしいです」


 そう言われて初めてわかった。祝園さんがこのメイド喫茶に僕たちを連れてきたいわけが。


 そして、壁に張り出されているランキング表を見て分かった。1位はみきちゃんだ。そして、2位がさっき僕に声をかけてきたももさんだ。かわいいけれど、年齢不詳な感じだった。


「お願いします」


 僕が手を挙げたらすぐにももさんが駆けつけてきた。びっくりした。


「このオムライスと紅茶のセットをお願いします。え~と、サーブはみきさんでお願いします」


 そう言っても変わらず笑顔で「かしこまりました」と言われた。嫌な顔一つせずにオーダーを受け取る。しばらくしてテーブルにみきちゃんがやってきた。


「え~と、はじめましてですよね。というかその白いワイシャツに赤と白のストライプのネクタイ、灰色のズボン風名高校ですよね。学校はいいんですか?」


 少し怒り気味でそう言われた。


「実は祝園さんに言われてここで待つように言われました。本当は別の用事があったのですが、ここに来ることになって。なんだかすみません」


 みきちゃんはきれいな顔をしているが、怒ると怖いイメージがある。そして、学校をさぼっている人には容赦がない。


「あの人来てくれるのはうれしいんですけれど、困ることも多いので。学生は学校に行くべきだと私も後で伝えておきますね。どうせ後で来るんでしょう」


 そう言って少し機嫌が直ったようだ。けれど、オムライスにケチャップで「なつき♡」と書かれたのは緊張した。ゆっくり食べていると祝園さんがやってきた。かなり早い。まだ12時くらいだ。


「ごめんね。結構急いで着たんだけれどさ。まあ、あんまり楽しい話しじゃないしね。そうそう、もうちょっとしたら坂りんもやってくるよ。どうだった?ボクのみきちゃんかわいかったでしょう」


 なんだか自慢されている。みきちゃんが困った顔をしている。


「ご注文はオムライスとメロンソーダですか?」


 どうやら決まっているらしい。


「うん、それで。後ね、彼が噂の天才少年ジャグラーの外塚くん。なんかさ、ちょっとそれっぽいことやってみてよ」


 目の前にあるスティックシュガーでジャグリングする。もう何度もしている。慣れてきた。


「流石だね。なんでも身近なもので出来てしまう。でもみきちゃん。外塚くんはねみきちゃんとあんまり年齢変わらないんだよ」


 そう言うとみきちゃんが目を吊り上げてこう言ってきた。


「学生は学校に行かせてください。行きたくても行けない人だっているんですからね」


 なんだか誤解からみきちゃんが怒っている。だが、祝園さんは何事もなかったかのように笑っている。


「この外塚くんはあの有名な風名高校で、しかもずっと成績トップなんだ。だから学校なんて行かなくても問題ないんだよ。それに、不思議なことなんだけれどたまに、これから起こることがわかっているかのような行動を取るんだよね。ちょっと教えてよ。僕とみきちゃんが付き合える未来がいつなのか」


「一生来ませんから」


 そうみきちゃんは吐き捨てるように言って去って行った。


「なんかご機嫌斜めみたいだね。何かした?」


 僕は首を横に振った。その時カランと音がして扉が開いた。そこには坂下さんと飛鳥さんが立っていた。


「待っていたよ。坂りん。ってか、その子誰?」


 僕から切り出すよりタイミングを待った方がいいと思った。


「ああ、なんか売込みがすごくてさ。でも、使いどころがないって言っているのに、ずっと俺に付いて来るんだよ」


 そういうと、横にいる女性が笑顔になった。だが、目が鋭くてなんだか悪巧みをしている顔にしか見えない。


「何かで使ってあげなよ。こんなミステリアスな美人そうそういないよ」


 メロンソーダはまだ来ていない。だからコップの水を飲みながら祝園さんはそう言う。しかも目はメイドのみきちゃんを追いかけている。多分、興味がないのだ。


「あのな、テレビに出るには見た目の華だけじゃダメなんだ。この飛鳥はアドリブがきかない。演技もできない。


 ねじ込んだら周りが絶対にあの子プロデューサーと寝たと言われる。俺はそんな安く番組は作っていない。


 そもそも、安くて使えて華があるタレントなんてみんな探している。この子なんていきなりやってきて売り込みをしてくる。


 使ってあげたくても使いどころが難しいんだよ。それこそ、アシスタントで突っ立っているだけとかなら使えるだろうけれど、そういうのは大手からすでにお願いがきている。弱小プロダクションをそういう風に使うのは難しいんだよ」


「ふ~ん、そうなんだ。じゃあさ、ボクがマジシャンとして彼女をアシスタントに使えばいいってことでしょ。そういう話しを今日するんだよね。外塚くんが何か考えて来てくれたんだよね。だから呼んだんでしょ」


 そう、この展開を待っていた。


「今思ったんですけれど、この飛鳥さんを預言者にしたて、祝園さんをそのサポート役にして、予知をした風に見せて事件を解決するのはどうでしょうか?事件はここ最近騒ぎがある爆弾犯を追い詰めるのはどうかと」


 これは坂下さんが言っていた話だ。そして、爆弾犯の話題は今メディアにあるはずだ。だが、坂下さんの表情は曇っている。


「まあ、ありっちゃありだが、それって1日の話しだろう。しかもあれは報道規制があって未だに報道できていない。新たな動きもない中規制されているネタは扱えないな」


 そう言われておかしいと思った。


「犯行声明やタレコミとかあるのかと」


「そんなもの都合よくあるわけないだろう。そんなことで俺を呼んだのか。ここ最近再開発問題で利権を得たメンバーで分裂騒動があってそれを追いかけているんだ。まあ、まだ調査段階だから忙しくはないが暇でもないんだ。用がないなら俺は帰るからな。あ、そうそう。この飛鳥は置いていくから好きに使ってくれ」


 そう言われて坂下さんは去って行った。


 爆弾犯のタレコミは起きていない。どういうことなのだ。僕が書き込んだ以外にもあったはずなのになくなっている。失敗だ。祝園さんのTシャツに書かれた言葉が頭をよぎる。


「思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくないから」


 僕はトイレに行って少し考えてからタイムリープを発動させた。次は間違えない。




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