失望、敵前逃亡、不正、腹黒い、黒歴史を使う2000文字以下小説
確かに、俺の腹は黒い。
生まれた時から、腹の部分に黒いシミがあって、嫌だと思ったこともある。
だが、それを個性だと思って生きてきたのに、なんだこれは。
俺はいま取り調べ室にいる。
今朝俺の部署に役人がやってきて、俺の腹が黒いから不正をしていると捕まえにきた。
俺は、証拠はなんだ、不正はなんだと喚いてみたが、殴られ、手足を縄で結ばられるとそのまま、袋の中に放り込まれ連れて行かれた。
そして袋から出されて、いまに至る。
目の前の男はメガネをかけた奴で、目が細い、顔も細い。色も白い。
毛も薄くて白い。
気色悪い奴だなと思ってよく見たら、何か見覚えがあった。
「あ!お前、ションベンじゃねーか!」
俺がそう言うと奴は目を丸くした後、顔を真っ赤にさせた。
「やっぱりだ!お前、10年前に敵の数の多さに驚いて」
俺がいい終わる前に奴が慌てて両手で俺の口を塞いできた。
「僕の黒歴史、言わないでくださいよ」
男は泣きそうな顔をしていたが、俺は知ったこっちゃなかった。殴られたところはまだ痛いし、なんか腹が黒いって理由で捕まったことに納得がいかない。んで、喚こうと思ったら、牢屋から出してあげますと言われ、俺は黙ってやることにした。
まあ、こんな取り調べ官になっているのに、戦場で敵に遭遇した時に慌てふためき、ションベンをたらしながら逃げ出したなんて、知られたくないもんな。単なる敵前逃亡だけでも情けないのに、しょんべんちびったなんて、それはまずいだろう。
俺が頷くと、奴はやっと俺の口から手を離した。
「で、俺自由なんだろう」
「ええ。自由です。ジョンさん、この人を出してあげていいですよ」
ションベンがそう言うと俺を殴った役人が部屋に入ってきた。だが、殴ることはせず手足の縄を引きちぎってくれた。
そうして俺は部屋を出された。
ついてこいとばかり、役人が歩き出して俺はこの場所がよくわかっていないから、ついていくかしない。
そうして光が見えてきた。
外かと思ったら、それは煌々と光るロウソクの炎だった。
「ああ、私の愛しい腹黒。こっちにおいで」
ドスの入った低い声だった。
10年前に戦争に参加した時にも感じたことがない恐怖心が身体中を駆け巡った。
目の前には視界に入りきれないくらい大きなナメクジがいる。
俺は元来た道を戻ろうと回れ右をする。だが、そんな俺をあざ笑うかのように扉が閉められた。
「おい!なんだよ、自由っていったじゃねーか!」
鉄の扉を叩き、叫けぶ。
「がんちゃん。ほら手足は自由にしたじゃないですか。僕は約束は守ってます。おや失望しましたか?大丈夫。そんな失望なんてすぐに感じなくなりますから。なめくじさんは大の腹黒好きなんですよ。まさか、がんちゃんが腹黒だったとは思いませんでしたがね」
「出しやがれ!お前、いいのかよ!俺だってこの王宮で働く役人だぞ!」
「ええ、そうですね。でも不正をしたので、処罰されます」
「は?」
「それでは。ああ、大丈夫ですよ。粘液には性的興奮要素が含まれいるらしいので、痛みは感じないみたいです」
「可愛い子」
しょんべんの言葉が終わらないうちに、ぞっとするような声が耳元で囁かれ、でっかいナメクジの触手が俺に触れる。その瞬間、電気が走ったような気がして、それっきりだった。
腹黒い奴は不正をしている。
それはこの王宮では常識で、国が滅ぶまで、その常識は役人たちの間で語り継がれたという。