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呪われ転生じゃ死にきれない  作者: 鳴神 春
9/46

7話 家の掃除も楽じゃない!

1


俺は自分が好きだ。

部屋のベッドに寝そべりながら思う。

容姿が特に優れているわけでもないし、誰かにすごく好かれてるわけでもない。

だが性格諸々も引っくるめて、俺は俺が好きだ。


「ねぇ、どこ見てるの?」


いつの間に入ってきたのか、アリスが俺の顔を覗き込んで言った。


「どこも見てないし何も考えてない」


俺はベッドに寝そべったまま答えた。

アリスを助けた(?)その後、野菜失踪事件を解決した報酬として、俺たちにはギルドと野菜農家から臨時収入と野菜が手に入った。

俺たちはこの金を使って、この宿を旅立とうと考えていた。

お爺さんたちはこのまま居ても全然構わないと言ってくれているのだが、パーティの人数も増えてきたし、流石に申し訳ない。

とりあえず早めに拠点を確保するのが今後の目標だ。


「そろそろ出る時間だろ。荷物まとめたか?」


「もちろんよ。なんなら私が悠斗を呼びにきたんだから。ほかの2人も準備できるわよ」


「そか、悪いな」


1階の大広間に行くと、既にルミナたちが集まっていた。


「さて、それじゃ行くか」


俺たちはとりあえず宿を離れ、冒険者ギルドに向かうことにした。

ギルドに着いて早速、俺は受付のお姉さんに相談しに行った。


「実はかくかくしかじかで……なんかいい物件ありませんかね?」


「あのー、ここ冒険者ギルドなんですけど……」


お姉さんの言ってることはわかる。

でも仕方ないじゃないか。

頼るとこがなかったんだから。

でもお姉さんは俺たちの要望に応えてくれた。


「でも一つだけ、心当たりがあるんです……もちろんそれも依頼なんですが」


俺たちは迷うことなくその依頼を受けることにした。


2


ギルドから歩くこと数十分。

若干、街の中心部から離れているが、市場や広場が近くにあり、充分な場所だ。

建物は3階建てで、レンガの家だった。

なかなかおしゃれな造りの上に、これで狼が襲って来ても安心。

違うか?違うな。


「今回の依頼はこの家に住み着いてるモンスターを倒せばいいんだよね?」


ルミナが確認する。


「ああ、モンスターを駆除したあとは、ここを好きに使っていいらしい」


そう、俺たちは数十年空き家だったこの家に住み着いたモンスターを倒すために来た。

この家の持ち主は既に亡くなっているため、全てが終わったら俺たちにそのまま家をくれるらしい。


「よし、じゃあ開けるぞ!」


俺は扉の取っ手に手をかけた。

しばらく開いてなかった扉が、音を立て開き始める。

俺たちは中に入り、壁の電気をつける。

すると、薄く灯った明かりに照らされたのは、


「い、いやぁぁぁーーー!!虫ぃぃぃーーーー!!」


アリスが悲鳴をあげ、その声に驚いた虫たちが一斉にわさわさ動き出した。

天井、壁、床。

どこを見ても虫がいた。

俺も不意をつかれたがすぐに立て直し、刀を片手に魔法を出した。

しかし俺の手から出たのは眩しい光だった。


「くそ!タイミング悪いな!」


しかも相手は虫。

光に寄ってくるのが当然であり、こいつらも迷う事なくこちらに飛んで来た。


「気持ち悪っ!こっちくんな!」


刀で出来る限り薙ぎ払うが、数が多すぎて追いつかない。

すると背後から飛んで来た虫を、イリカが豪快にぶった切った。

どうやら俺の光のおかげでこいつらには虫は行かず、攻撃しやすいようだ。

ルミナの支援魔法もあり、虫の大群は20分くらいで片付いた。


「はぁはぁ、これで全部か?」


「ん、まだ、1階。上に、まだ、いる」


「だよなぁ、やっぱ」


よく見たら奥に階段が見える。


「行けるか?アリス」


「ううぅ、虫は苦手なのよぉ。帰りましょうよぉ」


「ん、大丈夫。イリカ、が、いるから」


「うん、頼りにしてるわ。ぐすん」


いつの間にかイリカはとても頼もしくなったようだ。

仲間としてとても頼もしく誇らしい。

だが階段を上りながらイリカがボソッと、


「ん、やられたら、ごめん、あとは、頑張って」


「もおぉ!嫌よやっぱり帰るぅ!!」


さっきの俺の気持ちを返して欲しい。

そういえば、とルミナに聞く。


「ルミナは虫とか平気なのか?」


「ん?別に好きでも嫌いでもないかなぁ。虫を食べる地域もあるみたいだし」


「お前はほんとブレないな」


虫ですら食べ物に認識してしまうルミナが恐ろしい。

怖ぇよ。あと怖い。


3


2階に上がると、案の定虫軍団が待ち構えていた。

俺たちも応戦するのだが、少し気になることが。


(こいつら、少し強くなってないか?)


虫の数は少なくなってるものの、1階の虫よりも耐久力も上がっているように思えた。

実際、全滅させるのに1階より時間がかかってしまった。

上の階に行けば行くほど強い虫がいるということなのだろうか。


「これで残るは3階だな…」


さっきの流れからして3階はこいつらのボスがいる可能性が高い。


「ねぇ、やっぱり行かなきゃダメ?」


アリスが弱音を吐く。


「虫と一緒に暮らしたいならやめるけど?」


「はぁ、わかったわよ。行けばいいんでしょ行けば」


俺の言葉にアリスは嫌々答える。

階段を上り、最上階である3階にたどり着く。

俺は壁のスイッチを入れ電気をつけた。

すると天井に気配を感じ、見上げてみると、


「な、なんだこいつ!」


それは大きなトンボのモンスターだった。

俺たちよりも余裕で大きくて、羽なんて小型の飛行機並だ。

そんな化け物を見たアリスは当然、


「キャァァァァ!!!」


と叫ぶのだった。

予想通りのリアクションありがとう。

トンボは俺たちを一瞥した後素早く羽ばたいて俺たちに向かって突進してきた。


「くそ、落ちろカトンボ!」


俺はすれ違いざまに手から炎を出し羽を燃やした。

トンボは鳴き声をあげ空中に返っていった。


「これがほんとのトンボ返り……ふっ」


「言ってる場合じゃないでしょ!」


自分の言葉で笑ってしまい、アリスに突っ込まれる。

トンボは羽を高速で動かし炎を消した。

俺が燃やした左羽には、多少の焦げや小さい穴が空いたりしていたが、どれも致命傷を負わせるには足りなかった。


「くそ、もう一回炎を……」


そう思って魔法を出したが俺の手には光が灯るだけだった。


「あぁ!大事な時に!!」


このタイミングで属性が火から光に変わってしまった。

トンボは体制を立て直すと、羽を高速で羽ばたかせた。

途端にその場に突風が巻き起こる。

すると体に空気が流れ込んできた。

よく見ると俺の服が所々切れていた。


(これは……かまいたちか!)


トンボが起こす風によってかまいたちが発生し、俺たちの服を切っていたのだ。


(こりゃ長期戦は不利だな、一気に決めるか!)


俺は手に光を集中させ、ボールの形にした。

それを壁に向かって投げつけた。


「ちょっと悠くん⁉︎?遊んでないで戦ってよ!」


「ん、イリカ、も、遊びたい」


「違ぇよ!黙って見てな!」


そう、俺はボール遊びをしていたわけではない。

俺が投げたボールは跳ね返って天井にバウンドし、また壁に跳ね返る。

そうしてできたぐるぐる回る光に目を回したのか、トンボが地面に墜落した。


「今だ!!」


俺の声にイリカがトンボの背中を掻っ切り、ルミナが魔法で羽を縛った。


「最後!頼んだぞアリス!!」


「ええ!任せてちょうだい!」


そう言ってアリスは魔法を唱える。

たちまちトンボは闇に呑まれ、消えていった。


「ふぃー、終わったな。みんな大丈夫…」


ボスを倒しきった達成感で、俺は油断して忘れていた。

トンボが切ったのは、俺だけの服じゃないことを。

そして俺自身も服がボロボロになっていることを。

思わずルミナたちに視線がいく。

腕や脚、背中やお腹まで所々から肌が見えており、それはとても際どいところまで・・・


「ちょっ、なに見てんの悠くん!あっち向いてて!」


「ん、イリカ、は、気に、しない」


「イリカは気にしなさいよ全く!悠斗、こっち見たらぶっ飛ばすから!」


「わ、わかったから!は、早く下に行って着替えてこい!」


階段から降りるルミナたちに背を向け俺はこう思う。

トンボ、グッジョブ。

俺がモンスターに感謝する最初で最後の瞬間だった。


4


「ねぇ、ちょっといい?」


部屋の掃除がひと段落ついた時アリスが部屋をノックした。


「どうした?また虫でも出たのか?」


「ううん、そうじゃなくて、ね。お礼を言いにきたの」


「お礼?」


今回の件でアリスに感謝される覚えはないのだが。


「虫が苦手で足手まといの私にも活躍できるようにしてくれたんでしょ?」


「あんなの偶然だ。それにお礼を言うのはこっちだ。俺の投げた光が、あんなに都合よく跳ね返る訳ないからな。魔法で調整してくれたんだろ?」


ルミナたちはトンボがなぜ目を回したのか、よくわかっていないようだった。

このやり方がわかるのは、俺と同じ転生者で元日本人のアリスだけだ。


「ふふっ、さあ、なんのことかしら?」


アリスも笑ってはぐらかす。

部屋を出る時にアリスがこちらを向いて言った。


「まあとにかく、今後ともよろしくね!」


「ああ、こちらこそ」


俺もそう答える。

俺は新しいベッドに仰向けに寝る。

目を瞑った瞬間、あの3人のボロボロ服姿が目に浮かんだ。

それを思い出し、もっと目に焼き付けとけば良かったと後悔する自分が。

俺は嫌いだ。

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