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呪われ転生じゃ死にきれない  作者: 鳴神 春
6/46

5話 ケモ耳少女に助けはいらない!

1


「吹っ飛べ!!」


俺の声とともに右手から突風が吹き、モンスターを怯ませる。


(そろそろかな……)


指先で次の魔法を確認する。

もう風は出てこず、代わりに水が指から出てくる。

それを野球のボールくらいに膨らまし、モンスターに投げつける。

するとモンスターの手前で玉が大きくなり、モンスター達を引き込み、かき回していた。


「最後に凍れ!!」


指先を地面につけ、水の中で溺れているモンスターごと凍らせる。


「…ふぃー、終わったか」


魔法だけでモンスターに挑むこと30分。

戦いにも少しは慣れ、魔法の使い方もわかった。

何度も魔法を出すうちに、指輪の特性も何となくわかってきた。

使える属性魔法は一つにつき10分くらい。

10分を超えるとランダムで他の属性魔法になる。

あと俺には魔法の詠唱は必要ないらしい。

イメージさえすれば、それが魔法として出るらしい。

チートにもほどがある。

だが、この力を使いこなすまでに実は相当苦労した。

実はここに来るまで自分で言うのも何だが結構死にかけてる。

いや死なないだろとかのツッコミは無しで。

転生してすぐにこんなの使えるわけがないから当然だけど。

呪いのおかげで致命傷にならずにすんでいるが、モンスターに頭を噛まれた時は、もう諦めよっかなって思った。

けど、こんな最初の最初でくたばるのはごめんだ。

俺はまだ異世界を楽しめてないからな。


「おつかれ!悠くん!」


後ろで支援魔法をかけていたルミナがかけ寄ってくる。


「おつかれさん。ルミナも支援あんがとな」


短時間とはいえ経験値もそれなりに得られた。

目標だった一角狼を4体倒し、残り1体となった。

そろそろ群れのボスが登場してもいい頃合いだろう。

気をつけていかないと。


「それじゃ最後の1体倒しに行くか!」


「おー!」


俺が言うとルミナは拳を上げ声を出した。

すると遠くで一角狼の遠吠えが聞こえた。

あまり遠くない。

ルミナと目が合い、2人で頷き遠吠えがした方向へ走った。

鳴き声のした方へ茂みをかき分けて歩くこと数分。

声の主はそこにいた。

一角狼は3体おり、そのうち真ん中は一回り大きい。

あれが群れのボスだとわかる。

また指先で魔法を確認し、先手を取ろうとする。

次の魔法はこれか。


「よしっ!」


「待って悠くん!あそこ!」


ルミナに腕を掴まれ、茂みに戻った俺は、ルミナの指差す方を見た。

すると狼の隙間から、木を背にして立っている少女が見えた。

年齢は12、3歳くらいだろうか。

頭には猫のような耳があり、もふもふそうな尻尾も生えていた。

いわゆる獣人族というやつだ。

その少女はよく見ると足を怪我しており、動けない様子だった。


「どうしよう悠くん!」


「どうするって……」


言われなくても決まっていた。


「助けるに決まってんだろ!」


ルミナも無言で力強く頷いた。

俺たちは少女を助けるために茂みを飛び出した。


2


狼達がジリジリと少女に近づく。

少女は動こうとするが、怪我で足がついていかず、立ち尽くしていた。

つまり今、あの少女に狼達の注目が集まっている。

その今がチャンスだ。


「目ぇつぶってろ!」


俺の声で全員が一斉にこちらを向く。

その声を聞いた少女が言われるがままに目を瞑る。

少女が目を瞑るのを確認して魔法を放つ。


「光れ!!」


目を瞑っててもわかるくらち眩しい光が俺の手に宿った。

その光を直視した狼達は、鳴き声をあげてふらふらしていた。

光は徐々におさまったものの、狼達はまだ目がクラクラするのか地面に伏せていた。

隙を見て俺は狼達をすり抜け、少女を抱きかかえる。


「こっちはオーケーだ、逃げるぞ!」


スタンバイしていたルミナに声をかける。

ルミナは頷きながら呪文を唱えると、手に持っていたオーブから霧が現れ狼達を襲う。

霧を浴びた狼達は、ルミナの魔法で鼻が効かなくなったはずだ。

ルミナと合流した俺は、少女を連れ走った。

走ること数分。


「そろそろ森の出口のはずだ!頑張れ!」


「そうだね、このまま無事に逃げ切れるといいんだけど……」


「ばかお前それ、フラグとしか思えないことを……」


俺の予想は的中した。

後ろから狼が追いかけていたのだ。

だがいるのは1匹だけ。ボスである。

さすがボス。回復も早いらしい。


「まずいな、このままじゃ追いつかれるぞ!」


どうしようか迷っていると、少女が襟を引っ張る。


「あ?どうした?」


「ん、イリカ、を、あいつに向かって、投げて。出来るだけ、高く、山なりに。そしたら、イリカが倒してくる」


「何言ってんだ!せっかく助けてやったのに無駄死にする気か!」


「ん、大丈夫。足、使わなきゃ、平気」


イリカと名乗った少女の目は落ち着いていた。

冗談で言ってる感じではなかった。


「……信じていいんだな?」


「ん、思い切り、やって」


俺はボスと向かい合わせになり、イリカを投げる態勢を整える。


「んんーー!ぃよいしょーーー!!!」


掛け声とともにイリカを投げる。

注文通りに山なりに、出来るだけ高く。

するとイリカは、腰に携えていた双剣を取り出し、ボスめがけて降下した。

ドスッという音とともにイリカはボスの首元を捉え、致命傷を与えていた。

ボスが地面に倒れる前にイリカはボスの体を蹴り上げ再び宙を舞い、俺の腕の中に元どおりにすっぽり収まった。


「ん、だから、大丈夫って言った。ぶい」


そう言ってイリカはVサインを決めた。


「いや、ほんとに勝てるんかいっ!!」


俺の叫び声が森全体に響き渡った。

こいつ本当に助けが必要だったのだろうか。


3


自称怪我で歩けないイリカをおぶって俺たちは王都へ帰ってきた。

依頼達成の報告の前に怪我の治療をするため宿に戻った俺たちは部屋へ向かった。

ルミナが回復魔法をかけると傷口はふさがり、血も消えて無くなった。

ほんと魔法って便利。


「ん、ありがと、助かった」


「いや、俺たち何にもしてないしな」


ほんとに何もしてない。

実際あのボスを倒したのだってイリカだ。


「ん、そんなこと、ない。動けない、イリカ、おぶってくれた」


「まあ、そりゃそうだけど……」


「ん、じゃ、あらためて、じこしょーかい」


そう言ってイリカはゆっくり立ち上がる。


「ん、イリカ、は、イリカ。見ての通り、獣人族。ケットシー、っていう。いちお、冒険者」


イリカはゆっくり自己紹介するとポケットから冒険者カードを差し出した。

たしかにイリカの名前が書いてある。


「ん、それで、イリカ、を、このパーティに、入れて、ほしい」


「いや、急すぎるだろ」


やんわりツッコミを入れる。


「いいんじゃない?悠くん。入れてあげようよ」


あっけらかんとルミナが言う。

たしかに前衛は欲しかったし、ちょうどいいかもしれない。


「うん、まあいいだろ」


俺がそう言うとイリカは少しだけ笑った。


「俺の名前は悠斗。そんでこっちは…」


「ルミナです!よろしくねイリカちゃん!」


「ん、よろしく、ルミナ、おにい」


イリカが挨拶する。


「ん?おにいって俺か?」


「ん、ダメ、だった?」


「いや、ダメじゃないぞ。俺一人っ子だから妹がほしかったんだよね」


「ん、おにい、難しい言葉、知ってる」


無表情で首をかしげるイリカに、気恥ずかしさを覚えながら答える。

その時、右手の指輪が一瞬きらりと光った。


『おめでとう!また封印が解かれたよー!』


脳内にルウの声が響く。


(またか…ん?てことは、今開いた後悔の一つって……)


『君の思ってる通り、妹が欲しかった、だよ』


まあたしかに欲しかった。それは否定しない。

子供の頃に両親に何度もお願いしてた記憶がある。

今じゃ恥ずかしくて言えない。


『順調だねぇ。2日で二つも呪い解くなんてさぁ』


(まぐれだろこんなの。てか1個目はもはやノーカンだろ。)


『はいはい、君が願ったことだろ?文句は言わない』


ぐうの音も出なかった。

たしかにこの状況を引き起こしているのは俺なのだ。


「ん、おにい、どうしたの?」


突っ立ったままの俺を心配して、無表情のイリカが顔を覗き込む。

俺はイリカの頭を撫で、笑顔で言った。


「何でもないよイリカ」

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