37話 黒幕は素顔を見せない!
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「…………と、ゆ………と、悠斗!」
名前を呼ばれ目を覚ますと、アリスがいた。
俺を揺さぶりながら起こしてくれたらしい。
「……アリス、か」
「ええ、無事みたいね」
アリスがほっとした表情を浮かべる。
「ほかの2人は?」
「大丈夫よ。気を失ってるだけみたい」
俺はアリスと一緒にルミナとイリカを起こした。
「よかった、みんな無事だったんだね」
「ん、ここ、いや……」
周りを見渡すと俺たちは知らない空間にいた。
「そういや、ここってどこなんだ……」
たしかみんなで観光してて、帰ろうとしてたんだよな……。
「とにかくさっさと出よう。こんなとこにいたくない」
「でも悠くん、出るってどこから出ればいいの?」
ルミナの言う通り、出口と思われる場所は全く見当たらない。
「ほんとにどこなんだ……」
「やあやあ、沖谷悠斗くん」
名前を呼ばれ振り向くと、細身で黒いローブを着た男が立っていた。
「お前がここに連れてきた張本人らしいな。誰だ」
俺がそう言うと、男は飄々としながら話し始めた。
「君はそんなこと知らなくてもいいさ」
男は懐から懐中時計を取り出し、ふたを開けた。
すると時計から、禍々しい黒いオーラが止めどなく溢れてきた。
「ちょっと、何あれ⁉︎」
「俺が知りたいくらいだ!」
黒いオーラは足元を埋め尽くし、体の自由が奪われる。
気を抜くと飲み込まれてしまいそうだ。
「んーん、思ったより少ないようだ。まあ、大丈夫だろう」
ローブの男はオーラを体に纏い、呟く。
「まずは全員出てきてもらわないと公平じゃないなぁ」
そう言うと男はオーラを放出し、衝撃波を起こす。
「さて、こんにちはライハくん」
衝撃波が収まると、隣にはなぜかライハが立っていた。
「ライハ!なんでここに⁉︎」
「あー、バレずにここから脱出できたらって思ってたんだけど……」
ライハが口元だけ笑ってみせる。
「やっぱりあれが厄介だなぁ……」
「あのオーラのこと知ってるのか?」
俺が聞くと、ライハは重々しく話し出した。
「あれは怨の力、つまり負の感情の集合体ってことだよ。あいつは今まで人間の負の感情を集め回っていたんだ」
「負の感情……」
俺は思わず呟いた。
「えーっと……悠斗?その人誰?」
アリスが他の2人を代表して聞いてきた。
たしかにアリスたちはライハとは面識がないはずだ。
「はじめまして、僕は悠斗の友達……いや、親友だね!」
「今はそこどっちでもよくない?」
空気を読まないライハに思わず突っ込む。
するとイリカが近寄ってきてぺこりと頭を下げて言った。
「ん、こんにちは」
「はい、こんにちは〜」
「んー、イリカ偉い!けど今じゃない!!」
イリカには今度こういうことを教えなきゃな。
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「ずいぶん邪魔をしてくれたじゃないか……ライハくん?」
ローブの男はライハに話しかける。
顔を覗き込むもオーラが邪魔して見えない。
(僕を知ってる……一体何者なんだ?)
ライハの顔から余裕がなくなった。
「ここで君を葬るにはいい機会かもしれないね」
そう言って男はライハにオーラを飛ばす。
ライハはそれをするりとかわす。
「私たちも闘うわ!行くわよイリカ!」
「ん、がんばる」
「だめだ!あいつに触っちゃいけない!!」
ライハが止めるも、アリスとイリカは既に男に攻撃を仕掛けていた。
しかしアリスたちの攻撃は跳ね返り、アリスたちは黒いオーラに吹き飛ばされてしまった。
「きゃっ!!」
「ん、」
「アリス!イリカ!」
「あれが厄介なのは、普通の攻撃を跳ね返すところなんだ。負の感情のオーラを倒すなら神の力でもなきゃ……」
男を囲うオーラには負の感情が増しており、そこには一瞬だが、不知火やジールの顔も浮かんでいた。
「まさか、あいつらも!」
「おそらくあいつに吸い取られたんだろうね。2人とも相当の負の感情を溜め込んでたみたいだから」
その時、俺の心臓がドクンと跳ね上がった。
やめろ、考えるな。
しかしこんな時に限って嫌な思考が止まらない。
あいつらが負の感情を溜め込んだ原因は?
あいつらが吸い取られた原因は?
「…………俺の、せいで……」
2人を帰らぬ人としてしまった。
そう思いだすと震えが止まらない。
自分が自分じゃないような感覚に陥る。
まっすぐ立っていられない。
力が入らず地面に倒れそうになる。
「悠斗!君のせいじゃない!!」
ライハが倒れそうになる俺をがっちり掴み支えた。
「全てあいつの作戦だったんだ。君がそんなんじゃ、勝てる勝負も勝てなくなる!」
「あ、ああ……」
なんとか正気を保つが、あいつに勝てる気がしない。
するとライハが手を離し、男に向かって歩いていく。
「僕が行くよ」
「でも、あいつは……」
「大丈夫、信じてよ」
振り返ってライハが笑いながら言った。
「これでも神様だからね」
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「君の方から来てくれるなんてね。まあ、私的にはちょっとスパイスが足りないかな」
ローブの男は調子を崩さない。
「簡単に負ける気はないよ」
ライハが言い放った。
途端、2つの衝撃波が激しくぶつかる。
だが。
「くっ……」
明らかに怨の力がライハを凌駕していた。
そして衝撃波が弾け、ライハのみが吹き飛ぶ。
「うわっ!!」
男はビクともしない。
ここまで力の差があるとは思わなかった。
(何とか……勝機を見つけなきゃ)
じっと男を睨む。
すると胸元にキラリと光るものが見えた。
(っ!……あれは……)
そしてライハの中で何か繋がった。
「わかったよ悠斗!あいつは……」
そう言いかけて、ライハはオーラに飲み込まれ消えた。
「ライハ⁉︎なんだよ、あいつは何なんだよ!言わなきゃわかんねーだろ……」
ライハまでもいなくなってしまった。
そう思ったその時。
目の前に不思議な光が現れ、次第に俺を吸い込んでいった。
「っ痛ぇ……って今度はどこだ?」
腰に激痛が走る。
周りは真っ白な空間。
「はぁ、ほんとに今日はよく知らない場所に飛ばされるな」




