3話 偶然が重なるわけがない!
1
ルウの説教を受け、真面目に街を目指して歩くこと1時間。
そろそろ街についてもいい頃だろう。
もう合計で4時間近く歩いている。
俺が貧弱なもやし学生じゃなくてよかったな。
じゃなきゃ話が終わってる。
自画自賛しながら道を歩いていたその時、脇の茂みに倒れている女の子を見つけた。
うーん、これはどうみても助けた方がいいよね…
知らない人には話しかけちゃいけないと言われて育った俺だが、今は異世界、知らない人だらけなのだ。
俺は、第一異世界人とのコンタクトに少し緊張しながら、女の子に声をかけることにした。
「あの…大丈夫?」
「う、うぅぅぅ……」
近寄って見てみると、女の子の体には所々に傷があった。
モンスターに襲われたのだろうか。
かわいそうに……
と思ったその時、どこからかお腹が鳴る音が聞こえてきた。
「…実は……き、昨日から何も食べてないのです………何か食べさせてもらえないでしょうか……」
赤面しながら女の子が言った。
ああ、この子あれだ。
お腹が空いて動けないタイプの子だ。
パンの顔を持ったヒーローが登場するのを期待したが、いくら異世界と言えどそんなヒーローはいなかった。
当然ながら、俺も食糧なんざ持っていない。
さてどうしたもんかと考えていると、突然鳥型のモンスターが襲いかかってきた。
(くそっ、間に合わねぇ!)
とっさに右手でモンスターを払おうとした。
すると右手の指輪が光り、手のひらから突然炎が出た。
モンスターは驚いた声を出し、草むらに逃げていった。
「なんなんだよ、これ…」
自分でも何が起こったかわからない。
『それはその指輪の能力さ』
ふと脳内でルウの声が響いた。
どうやらあいつはテレパシー的なこともできるらしい。
なんでもありのルウに、今更驚くこともなかった。
『その指輪、呪いだけじゃなくて君の魔力の底上げもしてくれてるんだ。呪いが解けるにつれて威力も上がるよ』
(なるほどな、だから炎が出せたのか。)
『ちなみに悠斗は魔法の属性は全部使えるけど、使う属性は悠斗自身は選べないから気をつけてねー』
(なんかソシャゲのガチャみてーだな。便利なんだか不便なんだか)
『最初から全属性使えるんだから、これくらいのハンデ我慢しなって。じゃね〜』
そう言ってルウはいなくなった。
おそらく。
そもそもこっちからルウに話しかけられないのはちょっとずるいと思うのだが。
見守られているという状況はあまり好きではない。
「えっと、大丈夫?」
納得のいかない理不尽な奴の能力に不満を覚えながら女の子に声をかけると、女の子は空腹のあまり気絶しており、ご立腹中の腹の虫だけが虚しく鳴いていた。
とりあえず女の子を連れて街まで行こうとした途端、モンスターが逃げていった草むらから声が聞こえた。
「だ、だれか〜〜〜!!!」
「ああもう!今度はなんだ!!」
女の子を持ち上げ声の方へ行く。
するとそこには腰を抑えたお爺さんが痛みに顔を歪めていた。
「いたた……そ、そこの少年、助けとくれ……ぎ、ぎっくり腰が…」
「わかったわかったわかりました!みんなまとめて連れてってやんよ!!」
こうなりゃ乗りかかった舟だ。
女の子を抱えお爺さんをおぶって街へ向かった。
側から見れば何事かと思うだろう。
だがなってしまったものはしょうがない。
何とか街の近くまで来たが、すれ違う人々にこそこそ噂されたのは言うまでもない。
2
やっと辿り着きました。
ここはベルメルク王国の王都。
街はレンガの家と石畳の道が多く、前の世界でいう中世ヨーロッパの雰囲気に近いかもしれない。
もっとじっくり街を見れば、もっとみんなのわかりやすい気の利く感想の一つも出たんだろうけど、今の俺にそんな余裕はない。
お爺さんの言われるがままに経営しているという宿屋に向かう。
歩きながらお爺さんに気になっていた質問を投げかける。
「そういえばお爺さんはなんでぎっくり腰になったんですか?」
「ふむ、突然目の前に鳥のモンスターが飛んできたんでびっくりしてしまったんじゃよ。あれは一体……おやどうした少年。急に立ち止まって」
「い、いや、なんでも……ない……です」
すいません。
それ、多分俺が追い払ったモンスターです。
要は俺が追い払ったモンスターが逃げた先にお爺さんがいて、そのせいでぎっくり腰になった、と。
………………。
必ず宿屋まで届けよう。命に代えても。
そう心に決めて俺はお爺さんを無事宿屋に送り届けた。
「いや〜、助かった少年。礼と言ってはなんだが泊まるところがないならここに泊まっていきなさい。そちらのお嬢ちゃんも一緒にな」
「いやいやいや!そんな、当然のことをしたまでです!!お礼なんて結構ですから!!」
こんなマッチポンプで宿に泊めてもらうわけにはいかない。
俺は即断った。
「そうかの?でもお嬢ちゃんは乗り気みたいじゃが」
お爺さんとともに視線を台所の方に向けると、一緒にいたはずの女の子がお婆さんの手料理を一生懸命口に入れていた。
「おかわりですっ!!!」
「はいよ、こんなにいい食べっぷりだと作り甲斐があるよ。」
「えへへ〜」
えへへじゃない。
なんでお前は知らない間に復活してるんだ。
頼むから空気を読んでくれ。
俺の悲痛な思いは満腹少女に届かず、お爺さんの熱意に根負けして、宿に泊まることになった。
最初に懸念していた宿問題は解決したものの、俺は心からこの一件の真相がバレないように祈った。