29話 神の手助けは必要ない!
1
指輪を奪われてから次の日。
俺は不知火から指輪を取り返すべく、約束の場所へ向かった。
俺1人で来いとのことだったので、ルミナたち3人は家で待っててもらうことにした。
「じゃ、行ってくる」
「悠斗、ほんとに大丈夫?忘れ物ない?お弁当持った?ハンカチとティッシュは?」
「うるせーなおかん、遠足に行くんじゃねーんだよ!」
アリスが茶化してくる。
俺をいじってふふふとアリスが笑った後、真面目なトーンで聞いてきた。
「でもほんとにあいつに勝てるの?あいつ変だったけど実力はたしかよ」
「ああ、その点は大丈夫だと思う」
俺はそう言い、チラッとルウを見て言った。
「今回は助っ人もいるしな」
「悠斗は必ず守るから安心してね」
ルウも胸を叩いて自信満々に言った。
「頑張ってね、悠くん!」
「ん、おみやげ、よろ」
ルミナとイリカも応援してくれた。
あと今度、イリカの言葉遣いに関しては、アリスと話さなきゃいけないかもしれない。
「じゃあ、ほんとに行くから」
「「「行ってらっしゃい」」」
3人に見送られ、俺とルウは不知火が待つ場所へと向かった。
俺たちを見送ったあと、アリスが2人に言った。
「さて……私たちは、私たちにできることをしましょうか!」
2
太陽がちょうど真上に昇った正午。
俺たちは、不知火が言っていた時間に待ち合わせ場所に着いた。
「ここだな……」
「危ない彼の姿が見えないね」
周囲を見渡してみるが、俺たち以外に人影はいない。
フシギダネもゼニガメもいなかった。
このまま151匹揃うまで待ちたいところだが、今回は時間がない。
なんせ指輪がかかっているのだ。
「ああいう人って友達少なそうだから、待ち合わせには早く来るタイプだと思ってたんだけど……」
ルウが急に不知火をディスり始めた。
「お前それ本人の前で絶対言うなよ」
「だってほんとのことなんだもん。あの人絶対前世でも友達いないって」
「たとえそうだとしても、こっちに転生して何とかキャラ立てようと頑張ってるんだから、あんま言わないでおいてやれ」
「なんだ、悠斗もそう思ってたんじゃん」
「そりゃお前、あんなのすぐ友達いないってわかるだろ」
「やっぱり?実は僕もなんだよねー!」
「「ハハハハハ」」
「全部聞こえてるぞ!!!!!!」
大声がしたので見てみると、そこには話のネタになっていた不知火本人が。
噂をすれば何とやらだ。
「おう不知火じゃん、ちょうど今お前の話してたとこなんだよ」
「だから聞こえてると言っただろ!!人がいないところで根も葉もない話をべらべらと!!」
どうやら俺たちの話は聞こえてたらしい。
「まあそんな怒んなよ。あと、なんか困ってることとかあったら遠慮なく言ってな」
「優しくするな!余計惨めになるわ!」
何もしてないのに不知火の息が上がっていた。
「大体なんで俺に友達がいない前提で話が進んでいるんだ!俺だって友達くらい……」
「いたの?」
不知火が反論しようとするが、ルウはそれを許さない。
「だ、誰だお前は、入ってくるな!」
「友達いたかって聞いてるんだけど?」
不知火を威圧するルウ。
相手の質問を一切受け付けない、無言の圧力がたしかにあった。
「え?……あの…………その………………」
「どうなの?」
「………………」
「ん?」
ルウが問い詰めると、不知火は四つん這いになって本当のことを話した。
「………す、すいま、すいません……うそ……ついてましたぁ……ひっく」
目に涙を浮かべて謝る不知火の姿は、とてもじゃないが見ていられなかった。
「ずずっ……ほんとはぁ……ぐすっ……ぜんぜんどもだぢいなぐでぇ…………見栄はっでばじだぁ…………」
不知火の顔面が涙と鼻水まみれのせいで、何て言ってるか全然分からん。
なんか悲しくなってきた。
「……ルウさん、やりすぎ」
結局俺たちは不知火が泣き止むのを待つ羽目になった。
数分後。
しゃっくりも止まり、やっと落ち着いた不知火が顔を上げた。
「こ、これで勝ったと、思うなよ!」
目を真っ赤にしながら強がる不知火に、俺はもはや哀れみの感情しか出てこない。
だが不知火はまだやる気のようで、ポケットから俺の指輪を取り出し言った。
「この指輪を返して欲しければ、俺と戦え!!」
不知火のこの行動が、ルウの怒りを再度買ったのだ。
ルウは一瞬で不知火の前に移動し、不知火の右腕を掴んだ。
「これは、君ら人間が遊び半分で盗っちゃいけないものんだよ」
ルウに掴まれた不知火の二の腕から鳴ってはいけない音が鳴り、右手が力を失った。
「いで、いででででで!!俺のっ!俺の腕がぁぁ!!」
あまりの速さに不知火自身も気づくのが遅くなった。
ルウはそれでも冷静に、不知火の右手から指輪を取り返した。
取り返すと同時に手を離すと、不知火は恐怖でその場に崩れ落ちた。
「よかったね、右腕だけで。ほんとならもっと痛めつけてもよかったんだけど、悠斗の前だし勘弁してあげるよ」
あまりのショックに不知火はそのまま気絶してしまった。
それを全く気にする様子もなく、ルウが歩いて戻ってきた。
「はい悠斗、今度は盗られないようにね」
「お、おう」
あんなルウを見たあとだから少し怖かったが、俺は指輪を受け取り、元の右手の中指にはめ込んだ。
「これでよしっと。じゃ、僕は帰るから」
「えらく急だな。もっとゆっくりしてけばいいのに」
「そうしたいけど、昨日も言った通りあんまりこの世界に長居するのは良くなくってね。まあ、君にはすぐ会えるし話も出来るから」
いきなり別れを告げるルウに混乱したが、そういう事情なら仕方ない。
「じゃあ、また今度!」
そう言ってルウは去っていった。
俺はルウが去った後の光景を見て、つくづく思った。
「俺、いらなかったなぁ……」
3
その様子の一部始終を、別の場所から見ている者がいた。
「ルウったら、あんまり、あの子に近付くなって、言ったのに」
幼女は、水晶に映し出されいるルウを見て溜め息をつく。
「また水晶で弟子を覗き見か?ユナ」
どこからか声が聞こえ、空間が微かにざわつく。
ゆっくりと霧が割れ、黒い衣の男が姿を現した。
着流しのような神装、だが目元は鋭く、薄く笑った口元には皮肉の色が滲む。
神域に似つかわしくない、どこか“人間臭さ”をまとった存在だった。
「覗き見?失礼な、観察よ」
「それは同じ意味では?」
「うるさい、フシミ。来客は歓迎するけれど、あなたはいつも唐突ね」
「我々神に、時間の概念はないだろう?」
そう言ってフシミと呼ばれた男は鼻で笑った。
ユナは、少し苛立ちを覚えながら、声をかけて来たフシミの方を向く。
「……あまり、情を入れすぎるな。お前も、この“祠の外”で何が起ころうとしているか、少しは感じているだろう?」
「……あなたの“計画”が、あの子たちに関係しているなら、私は見逃せない」
「まだ“関係していない”。だが、関わってくる可能性はある。だから警告しに来ただけだよ、私の邪魔はするな、とね」
そう言ってフシミはユエを見た後、水晶に写るルウを見た。
「しかし、こいつも中途半端な奴だ。神の名を帯びる以上、“中立”を守らねば。個人的な感情に溺れるなら、いずれ裁かれるぞ」
その瞬間、ユエが一歩、フシミの前に出た。
「それ以上言うなら、ここから出て」
フシミは肩をすくめ、くるりと背を向ける。
「……忠告はした。だが覚えておくといい。“奇跡”と“干渉”は紙一重だ。君の祠も巻き込まれぬといいな」
その言葉とともに、フシミの姿は霧に溶けて消えた。
静けさが戻った空間で、ユエはゆっくりと目を伏せた。
「フシミ、今度は一体何を企んでいるの.......」
ユナは水晶に触れる。
このままではルウ、いやライハにも危機が………。
「ライハ........気をつけて…………」
名前を呼ばれた少年は、水晶の中でただ笑うだけだった。




