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呪われ転生じゃ死にきれない  作者: 鳴神 春
31/46

26話 こんなことで死にかけない!

1


「ここだな……」


そう言って少年は、ベルメルク王国の門を恨めしそうに見つめる。

薄汚れたフードの中から覗く目は、その門の先にいるであろう敵を見据えていた。

思えば長い道のりだった。

奴の噂を聞き、野を越え山を越えここまで来た。

時には死に直面する場面も少なくなかった。

だが、全てはこの時のために。


「俺以外の日本人は……全員潰す」


少年はそう呟いて、ベルメルク王国の正門をくぐろうと……。


「あー、ちょっと君、身分証は?」


いきなり門番に声をかけられた。


「は?身分証だと?そんなものはない」


持っているのは武器と少しの野営道具のみ。

身分証なんて持ってるわけない。


「じゃあベルメルクには入れないよ。身分証を持って出直してきなさい」


「ふん、知るかそんなもん」


そう言って少年は通り過ぎようとするが、門番が2人がかりで少年の脇を抱え、外に連れ出した。


「だからダメだって言ってるだろ?面倒はかけさせないでくれ」


「や、やめろぉ!放せぇ!あいつは…あいつだけは!」


「おーい、こっちはいいぞ。思いっきり飛ばしてやれ」


そう門番が言うと、魔法を唱えた別の門番によって少年は遠くに吹っ飛ばされた。


「沖谷悠斗は、俺が倒すんだー!!」


少年の声は、虚しく空に消えていった。


2


「ヘックション!」


同じ日の朝、リビングで新聞を読んでた俺は、盛大にくしゃみをした。


「ん、おにい、かぜ?」


ココアを飲んでいたイリカが、くしゃみに驚いて声をかけてくれた。


「いや、熱はないみたいだけど…噂かな」


自分の額に手を当て確認する。

するとイリカがとてとて歩いてきて、膝の上に乗り俺とおでこを合わせてきた。


「ん、たしかに、ねつは、ない」


「い、イリカさん…顔近いよぉ」


ココアのいい匂いがふんわりする。

イリカのこういうところは、1年経っても未だに慣れない。


「ん、大丈夫、でも、なにかあったら、すぐ言って」


「ああ、ありがとな」


そう言ってイリカの頭を撫でてやる。

もちろん耳の裏も撫でるのも忘れない。

イリカの耳の裏の毛はとても柔らかくて、俺はここをイリカの羽毛と呼んでいる。

そんなことはどうでもいいな。


「あ、ココアまだ飲みかけだろ。そろそろギルドに行くだろうし飲んできな」


「ん、そうする」


俺が促すとイリカは俺の手を離れ、再びココアを飲みに戻る。

代わりにアリスが近づいて来た。


「悠斗、そろそろギルドに行きましょ」


「ああ…羽毛が……」


「はあ?ちょ、なに言ってんの?」


「ああ、いや気にしないでくれ」


心の声が出てしまいちょっと焦ってしまったが、気を取り直してギルドに向かう。


「今日は何があるかなーっと………ん?」


掲示板をふらっと眺めていると、気になる文字を見つけた。


【東の森にスライム大量発生!臨時クエストにつき報酬は通常の5倍!!】


「5倍⁉︎すげーな!」


いつもならスライムは1体につき銀貨3枚くらいだから、今回は金貨1枚と銀貨5枚の報酬だ。


「なあ、これはどうだ?」


「えー、スライム?あんまり気が進まないんだけど……」


「わ、私もちょっと苦手かな……」


「ん、きもちわるい」


乗り気な俺とは裏腹に、3人は珍しく渋っていた。


「だってべとべとで嫌なんだもの。触りたくないわ」


「それにスライムには魔法しか効かないから、イリカちゃんが……」


「ん、役立たず」


そう言って3人は反論してきたが、俺も思いつきでスライム退治を提案した訳じゃない。


「イリカが不利なのは承知の上だ。だから作戦もちゃんと用意してある」


俺は用意してあったアレをイリカに渡した。


「今日はこれで戦ってくれ」


3


数時間後。


「イリカ、アリスの後ろにいるぞ!」


「ん、りょーかい」


俺の掛け声とともにイリカが走り出し、アリスの後ろにいるスライムを吹っ飛ばす。

俺がイリカに持たせたのは、イリカと同じくらいの背丈の盾だ。

魔法しか効かないスライムに対して、魔法使いが前に出るのは必然だ。

すると後衛だったアリスたちが前衛に上がってきてしまうのだ。

そこで、魔法が使えないイリカに盾を持たせてサポート役に回したのだ。

イリカは獣人族なだけあって反射神経が高い。

おまけにこの盾、見た目の割に超軽いのでイリカでもブンブン振り回せる。


「次来たぞ!頼む!」


「ん、わかった」


イリカが盾でスライムを吹っ飛ばしてくれるおかげで、魔法がすごく撃ちやすい。


「よし、このまま……」


「ん、おにい、あぶない」


イリカがそう言った時にはもう遅かった。

周りのことばかり気にして自分の背後を見てなかった俺は、スライムに覆い被さられてしまった。


「がばっ!がぐごごご……」


身動きが取れない俺は、不覚にもスライムの中で溺れてしまった。


(やばい、このままじゃ死ぬ……)


すると向こうでアリスが魔法を唱えた。

その瞬間、魔法でスライムがみるみる蒸発していき……。


「て、俺も中にいるんですけどぉ!ああっちぃぃぃ!!」


スライムが消滅した後、俺は地面に転がりこんだ。


「ハァハァ……し、死ぬかと思った……」


ルミナに消火してもらいながら、俺は心の底から言う。


「あのー、悠くん死なないよね?」


「たとえ死ななくても気持ち的にだよ!」


今は正論なんて聞きたくない。


「ご、ごめんなさい………ゆ、悠斗を助けるのに、必死で……ぷぷ」


アリスが肩を震わせ、うつむきながら謝罪した。

こいつ、笑ってやがるな。

だがここでイリカがダメ押しの一言。


「ん、おにい、燃えてた」


「ぶっ!やめてよイリカ、せっかく笑いが治まってきたのに!」


「よしお前らそこに直れ。今から同じ目に合わせてやる!」


そう言って魔法を出そうとする俺の手から出たのは、火ではなく風だった。

それを見てまた笑い出すアリス。


「ちくしょー!なんだってんだよ!!」


このなんとも言えない怒りをぶつけるように、俺は空に向かって叫んだ。

だがその叫びが、俺をまた面倒な道へ引きずり込むのだった。


「見つけたぞ!沖谷悠斗!!」

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