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呪われ転生じゃ死にきれない  作者: 鳴神 春
23/46

19話 絶対に忘れない!

1


来羽と友達になってから、何かが少しずつ変わり始めた。

自分では意識していなかったけれど、周囲の目が、ほんの少し柔らかくなった気がした。

いつものように一人で本を読んでいた昼休み。ふと顔を上げると、クラスメイトが声をかけてきた。


「なあ、それ面白いの? オレも似たようなの読んでるんだけどさ」


「あ、今日ドッジボールやるんだけど、一緒にどう?」


最初は戸惑った。

急にどうして?と疑ったり、裏があるんじゃないかと警戒もした。

けれど、そうじゃなかった。

あいつが、いつも誰にでも笑顔で挨拶して、楽しそうに話して。

その隣にいる俺も、なんとなく話しかけやすく見えていたのかもしれない。


「沖谷くんって、なんか怖いイメージだった」


「そうそう。なんか話しかけづらいっていうかさ」


「お前、意外と話しやすいなー」


と口々に言う誰かの声に、心の中がほんの少しざわついた。

今までずっと、自分から壁を作っていたことに気づいた瞬間だった。

それでも、自分は自分でいた。無理に明るく振る舞ったり、空気を読んで無理に笑うようなことはしなかった。

けれど、不思議とひとりじゃない感覚が、背中を軽くした。


 「悠斗、今日も一緒に帰ろう!」


来羽が当然のように声をかけてくる。

面倒だなと思いながらも、断る理由もなくて、気づけば並んで歩いていた。


「なあ、俺ってそんなに変わったかなぁ」


一緒に帰ってる来羽に思わず聞いた。


「そう?悠斗は前からいい人だったけど」


「質問の答えになってないんだけど」


こいつに聞いたのが間違いだった。


「でもみんなが悠斗の良さに気づいたら、僕が困っちゃうね」


来羽がいたずらっぽく笑った。

俺はこの笑顔にまだ慣れなかった。


2


5年生のクラス替えで、俺は来羽と同じクラスになった。

そして迎えた夏休み。

2人で地元の祭りに行くことになった。


「悠斗、危ないよ」


そう言って歩道をはみ出して歩く俺の袖を引き、来羽が注意する。


「大丈夫だよ、車も来てないし」


「そんなこと言ってると、いつか本当に車に轢かれちゃうよ」


苦笑いしながら来羽が言った。

俺は徐々に歩道に戻りながら来羽に言った。


「その時は来羽が助けてくれよ」


来羽は一瞬驚いていたがすぐに返事をした。


「うん、必ず」


夏の夕暮れ、提灯の灯りが揺れる中、人混みにまぎれて俺たちは祭りの中を歩いていた。

クラスメイト達ともすれ違い、皆祭りを楽しんでいるようだった。


「ほら悠斗、このたこ焼き美味しいよ!一口食べてみなよ?」


「いらねぇよ……お前、さっきも焼きそば食ってただろ」


そんなふうに言い合いながら、俺はたこ焼きを無理やり食わされ、金魚すくいをし、りんご飴を2人で買った。

どこか懐かしくて、心がほどけていくような時間だった。


「俺はあっちで射的をやってくる。去年もいたあのインチキ親父を今年も泣かせてくる」


お腹も落ち着いた頃、俺は来羽に提案した。


「ほどほどにね。じゃあ僕は他のところ見るから終わったら前に見つけた茂みの奥の祠に集合ね」


「ああ、わかった。前に見つけたとこだろ?」


「うん。あそこなら誰も来ないし花火もゆっくり見られそうだから」


「わかった、じゃあまた後で」


それが俺たちの最後の会話となってしまった。

宣言通り射的屋を荒らし終え、人混みを抜けて、茂みの奥へ向かった。

祠は、ひっそりと佇んでいた。

木の影に隠れ、風鈴のように虫の声が鳴いている。

けれど、どれだけ待っても来羽は来なかった。

十五分。三十分。一時間。

胸の奥に、冷たい何かがじわじわと満ちていく。


(……おかしい。まさか、何かあったんじゃ。)


祠を離れ、急いで境内へ戻った。

けれど。


「え? お前、最初から一人だったじゃん?」


「さっきからずっと、誰とも話してなかったろ?」


同じ屋台で遊んでいたはずのクラスメイトが、皆口をそろえてそう言った。

一緒に買ったはずのリンゴ飴。

並んで撮ったはずの写真。

すべてが、跡形もなく消えていた。

まるで——最初から、そんな奴いなかったみたいに。

信じられなかった。怖くて、寒くて、叫び出しそうだった。

けれど、あいつの笑い声が、まだ耳に残っていた。

無理やりくれたたこ焼きの味も、今でも舌に残っている気がした。

もしかして、俺は揶揄われているのか?

きっとそうだ。

明日になればまた来羽が学校で話しかけてくる。

そう自分に言い聞かせ、俺は家に帰った。

次の日、朝からずっと心がざわついていた。

夢でも見ていたのかと何度も疑ったが、そんな生ぬるい話ではなかった。

あいつのことを調べれば、何かわかる。

そんな思いでまず向かったのは、あいつの家だった。

度か一緒に寄り道した帰り道、教えてもらった住所。地図の記憶をたどって、細い住宅街の中を歩く。

けれど——そこに家はなかった。

見覚えのあるはずの古びた木の塀も、雨に濡れた玄関も。

すべてが更地になっていて、柵の立て札には「月極駐車場」とだけ書かれていた。


 「……そんな、嘘だろ……」


声が震え、足元がふらつく。

昨日まで確かに存在していた“日常”が、まるで嘘みたいに溶けていく。

それでも希望を捨てきれず、学校へ向かった。

あいつの席、机、荷物、なにか痕跡があるはずだと。

だが。


「来羽? ……誰、それ?」


クラスメイトたちは一様に首を傾げ、担任教師までもが、きょとんとした顔を向けた。


「そんな子、このクラスにいたっけ? 名簿にもいないけど……」


名簿を覗き込んでも、空白はなかった。どこにも来羽の名前はなかった。

机も椅子も、最初からなかったように完璧に片づけられていた。

まるでこの世界から、跡形もなく消されたかのように。


(違う。いなかったんじゃない。消されたんだ。)


わけがわからなかった。

でも、ひとつだけはっきりしていることがあった。

自分は確かに、来羽と出会って、友達だった。

放課後、もう一度あの祠へ向かった。

夏祭りの喧騒が嘘のように静まり返った、茂みの奥。

誰もいないその場所に立ち尽くし、俺はポツリと呟く。


 「俺は……忘れねぇよ。絶対に」


俺が証明してみせる。

俺だけは、来羽が帰ってくることを信じて…………。


3


「なんて思ってたら気づくと16歳になってた」


話を聞いたルミナは表情は曇っていた。

心なしか、俺も苦い顔をしてたのかもしれない。


「長々と悪かったな」


長話に付き合わせたルミナに、ぺこりと頭を下げる。


「ううん、大丈夫。悠くんはまだライハさんを探してるの?」


「……ああ」


あの時から俺はあいつを忘れた時はない。

周りが忘れても俺だけは絶対に忘れない。

忘れちゃならない。

そう思う。


「そっか……」


ルミナは哀しげな笑顔を見せる。


「じゃあ私は戻るね。おやすみ悠くん」


「ああ、おやすみ」


ルミナが部屋から出ようとすると、ルミナはぶっ飛ばした扉を見て言った。


「あと扉、壊しちゃってごめんなさい」


「あー、それはもういいって」


俺が笑いながら言うと、ルミナが申し訳なさそうな顔で帰っていった。


「ふぅー………」


(誰かに来羽のこと話したの、初めてだなぁ。)


そうして静かに目を閉じ、眠りにつこうとした。


「悠斗……」


俺を呼ぶ声が聞こえ、目を開けるとそこにはルウが。


「ん、どうした?なんかあったか?」


「うん。君に伝えなきゃいけないことがあって……」


なんだかいつもと態度が違うルウ。

何かあったのだろうか。

ルウは話を続ける。


「1つ目は呪いが1つ解けた報告。『昔のことを誰かに聞いてもらう』ってやつ」


「おお、あれが呪いだったのか……って1つ目?まだあんの?」


「うん、むしろこっちがメイン」


そう言ってルウは俺に近づいた。


「君の呪いの1つ『来羽を見つける』だけど……」


そう言うとルウの周りに光が集まり次第に大きくなっていった。


ついには直視できないほど眩しくなる。


光が収まったところで目を開けると。


「っ!お前、まさか…………」

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