13話 こんなにアツイ夏はない!
1
そんなこんなで次の日。
俺たちは依頼に書いてあった、異常気象が起こるという海に来ていた。
来たのだが……
「なんでもう水着になってんだよ!」
俺以外の3人は皆水着に着替えていた。
「えー、だってせっかく新しい水着買ったんだから着たいじゃない。ほら!」
アリスが文句を言いながらも、なんだかよくわからんポーズをとった。
薄いグリーンのビキニにフリルが彩られ、アリスの雰囲気に合っている。
「そうだよ悠くん、せっかく海に来たんだし楽しもうよ!」
ほんとに楽しそうにルミナが言った。
俺の目に飛び込んできたのは鮮やかなブルー。
海から来る風にふわりとスカートがはためく。
「ん、おにい、も、はやく」
そう言ったイリカが着ていたのはまさかのスクール水着。
ビキニ→ビキニと来て最後にスクール水着。
どうせこれもアリスの入れ知恵なんだろうけど。
てか君たち、自分の水着はセンスいいの選ぶくせに、人の水着を選ぶ時はなんであんなに残念なんだ。
若干呆れつつ、俺は3人に現実を突きつけた。
「はぁ……だって異常気象が起こるんだろ?そんな格好じゃ風邪引くぞ?」
「「「 あ 」」」
こいつら完全に目的忘れてるな。
まあ新しい水着を着たくなる気持ちはわからんでもないけど。
「あら、ユウトさんじゃないですか」
急に名前を呼ばれて振り返ると、そこには水着姿のカスミとシズクがいた。
「え、なんでお前らもいるんだ?」
「ぐ、偶然こっちで仕事があったのよ。わ、悪い?」
「いや、わるかないが……」
そう言って腕を組むカスミは、上品な黒い水着を着ていた。
腰や首のリボンもあり、華やかに見える。
日傘を差しているシズクは可愛らしい白の水着だ。
透き通るような白い素肌にパレオから覗く細い足。
てか昨日の時点でシズクは怪しいと思ってた。
誰だ言い間違いかなんて言ったやつ。
「で、どうなのよ」
カスミがもじもじしながらぼそっと聞いてきた。
「どうって何が」
「水着の感想に決まってるでしょ!どうなのよ!」
なんでキレられたのか意味わからん。
「あー、その、似合ってんじゃねーの?」
「そ、そう……ありがと」
カスミが斜め下を向いてぼそっと言う。
それを見てシズクがニコニコしていた。
ほんと何しに来たんだ君たち。
「ねぇ悠斗、その子たち誰?」
冷めきった声に驚き振り向くと、アリスたちがジトッとした目でこちらを見ていた。
あれぇおかしいな、今って夏だよな?
どうしてこんなに冷や汗が出るんだろ。
それとも異常気象?
「あ、あいつらは前に話した国営ギルドの……」
「なんかやけに楽しそうじゃないかしら?」
「んなことねぇって」
なんで尋問されてんの俺。
「ねぇユウト、その子らがあんたのパーティ仲間?」
俺がアリスに問い詰められてると、カスミがひょこっと顔を出す。
「ああ、こいつらがパーティ仲間の……」
「アリスよ」
「ルミナです」
「ん、イリカ」
皆口々に挨拶する。
が、何故だろう。
なんだか禍々しい雰囲気を感じる。
「よろしくね、あたしはカスミ」
「私はシズクです。国営ギルド所属の冒険者です」
カスミたちも挨拶する。
こちらも負けじとオーラを放つ。
ほんとにやめてくんないかなぁ。
俺のパーティメンバーと冒険者仲間が修羅場すぎる。
「あの、私たち依頼でここに来てるの。遊びならどっかに行っててくれないかしら」
「ゆ、悠くんは私たちと依頼を終わらせるんだから!」
「ん、帰って」
水着姿のアリスたちが言った。
いや、さっきお前ら海がどうとかはしゃいでたじゃん。
「あっそう、でもあたしたちはユウトと遊んでるからあとはそっちで仕事してなさいよ」
カスミも負けじと反論する。
それは流石に無理があると思うが。
「残念だけど、このクエストは4人用なのよ!」
「んなわけないでしょ!」
胸を張ってスネ夫みたいなことを言い出すアリス。
それに突っ込んだカスミと2人で、バチバチ火花を散らしていた。
もうほんとやめて。
今すぐここから逃げ出したい。
心の硬度で言えばダイヤモンド級の硬さを誇る俺だが、ダイヤモンドは引っかき傷に対して強いだけであって、ハンマーでガツンとやると実は割れやすいのである。
ダイヤモンドは砕けないと言ったな、あれは嘘だ。
「おいお前ら、そろそろ……」
仲裁に入ろうとした俺の顔に、ぽつりと雨が降ってきた。
思わず見上げたが、空は晴々としていて雨雲の気配なんて微塵もなかった。
「来たわね……」
その雨はアリスたちも感じたようで、すぐに臨戦態勢をとる。
すると海の方からのっそのっそと何かが近づいてきた。
だが近づくにつれ、俺も正体がわかってきた。
「あれってアメフラシじゃないか?かなりでかいけど」
思わずアリスに聞いた。
アメフラシ。日本にもいるあのウミウシみたいなやつだ。
正確には貝の仲間らしいけどそんなことはどうでもいい。
日本では手のひらサイズだったが、目の前のやつは大型犬くらいの大きさはある。
「まさか、異常気象の原因って……」
「ええ、お察しの通り、こいつでしょうね」
要するに雨を降らす能力を持ったアメフラシが、この世界にはいるってことか。
「しかもこれだけじゃないわ」
アリスが苦い顔をして言う。
アメフラシの後ろから色が違うものが数体姿を見せた。
「黒いのがカゼオコシ、白いのがユキフラシ、そして一番大きなのがカミナリオコシよ」
「ふざけんな!!」
俺はこの世界に対し、思わずツッコミを入れてしまった。
2
俺たちは、アメフラシその他諸々を退治しにかかった。
アメフラシたちは基本的に雨や雪を降らせたり、風を吹かせたりするだけなので、特別強いと言うわけではなかった。
唯一苦戦するところがあるとすれば、近接攻撃のタイミングでカミナリオコシが雷を落としてくるところだろうか。
だがそれもすぐ解決した。
「アリス!そろそろ雷来るぞ!」
「ええ!任せて」
アリスの闇魔法で雷の落下地点をずらせるのだ。
これで雷も怖くない。
その後も俺は魔法や刀で攻撃しながら、みんなに指示を出し続けた。
「イリカ、こいつら深く切り込まないと致命傷にならないぞ。隙を見つけて深く切ってけ」
「ん、りょーかい」
俺とイリカで深めに切り込むと危険を感じたのか、アメフラシ特有の液を出してきた。
「悠くん!それに触らないで!状態異常になる!」
「了解!気をつける。あと強化魔法頼む」
ルミナの忠告通り液を避け、再び切り込む。
こんな感じの戦いを続けること20分。
「やっと終わったか……」
アメフラシたちの討伐が終わった。
ずっと砂浜に足をとられてたので、普段の数倍疲れた。
「だぁぁ!疲れたーー!」
俺は砂浜に膝から倒れこんだ。
空はもう茜色に染まっており、夕日が海に沈むところだった。
「悠くん、お疲れ様」
そう言ってルミナは、飲み物を持ってきてくれた。
「おお、サンキュ」
なんとか起き上がり、飲み物を受け取る。
乾いた体に水分が染み渡る。
気づいたら夢中になって飲んでいた。
スポーツドリンクのCMに使っても全く申し分ないくらい、いい飲みっぷりだった。
ポカリスエットさん、見てるー?
と、心の中で宣伝していると、イリカとアリスも寄ってきた。
「ん、おにい、イリカにも」
「はいよ、まだあるから落ち着いて飲めよ。アリスは?」
「私はさっき飲んだからいいわ。それより、この時間じゃ今日はもう遊べなさそうね」
アリスはどこか残念そうにそう言った。
他のみんなも少し残念そうだった。
「え、明日遊べばよくない?」
「「「え?」」」
「いや、今日はどっか宿に泊まって、また明日遊べばいいじゃん。別に依頼も急ぐ必要はないんだからさ」
俺の提案に思わずあっけにとられた3人。
「そ、そうだね。まだ時間はあるし」
「ん、よゆう」
「たしかにそれでもいいわね…」
3人ともまさに目から鱗だった。
おいおいと心の中で突っ込んでいると、カスミたちが近づいてきた。
「あ、終わったんだ。おつかれ」
「お疲れ様ですー」
カスミたちはどこかで休んでいたのか、涼しい顔をしていた。
「どこ行ってたんだよ」
「んー、そこの売店でアイス食べてた。おいしかった」
いや味の感想とかいらんし。
手伝えとまでは言わないが、なんかやれることあっただろ。
手助けとか、ってこれは同じ意味でした。
「それよか、お前らは帰んないの?」
「ん?あたしたち今日は近くの宿に泊まる予定だから」
こんなとこまで一緒かよ。
この後、話を聞きつけたアリスたちとカスミたちが宿と次の日の海でまた衝突したのは、もう言わなくてもわかるよね?