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呪われ転生じゃ死にきれない  作者: 鳴神 春
15/46

12話 夏休みがない!

1


こちらの世界の季節も日本と同じようで、今は夏本番。

同じ夏でも湿度の高い日本と違い、湿気のないカラッとした暑さがあった。

そういえばこっちの世界って夏休みとかあんのかな。

むしろ毎日休んでいたいけど。

どうかこの世界でも願わくば夏休みを…


「あるわけないでしょそんなの」


部屋でお手製オセロをしている時、アリスにきっぱり言われた。

チェスと違い、オセロは作るのが楽で良い。

アリスは、オセロの石を白にひっくり返しながら続けた。


「だいたい冒険者なんて、日本で言うフリーターみたいなものよ?それにあなた、休みたい時に休んでるじゃない」


「はぁ…」


正論すぎてぐうの音も出ねぇ。

まあそりゃそうだよな。

嗚呼夏休み…。

その響きだけで俺はやっていけるのに。


「じゃあこの世界の人たちは、夏休みの存在を知らないのか?」


「まあ、平たく言えばそうね」


俺はふーんと言いながら黒の石を置いた。

ほい角取った。

てかほんと俺らボードゲーム好きだな。


「でも今年は夏らしいこと何にもしてないなぁ」


「そうね」


いつもの世間話に戻る。

あ、別の角取られた。


「なんか夏らしいこと……そうだ!」


「なに、どうしたの?」


俺の声にアリスが驚く。

我ながら名案ではないだろうか。


「海行こうぜ!海っ!」


「海?」


「たしか昨日、ギルドの掲示板に海岸で起こる異常気象の調査ってあったよな?あれ受けてそのまま海で遊ぼう!」


「へぇ、いいじゃない」


俺の提案にアリスが同調した。

そうなったら善は急げだ。

誰かに取られる前に受けに行かねば。


「俺ちょっとギルド行ってクエスト受注してくる」


「わかったわ。私はルミナたちに海のこと話してくるわ」


「おう、任せた」


そう言って、俺は部屋を飛び出してギルドに向かうのだった。


2


ギルドに着き、掲示板を確認するとさっき言ってた依頼がまだ残っていた。

急いで掲示板から剥がし、受付を済ませる。


「あら?ユウトさん?」


「え⁉︎ゆ、ユウト?」


名前を呼ばれたので振り向くと、シズクとカスミがちょうど出入口から入ってきたところだった。


「よお、元気そうだな。どうしたんだこんなところで」


俺が挨拶すると、カスミが怒った顔をしてこちらに詰め寄った。


「元気そうだな、じゃないわよ!なんであれから一度もギルドに来ないのよ!」


たしかに国営ギルドに来るよう誘われたが、前回のダンジョンの件からまだ5日しか経ってない。

となりにいたシズクがニコニコしながら続ける。


「ユウトさん、近いうちにギルドに顔を出してくださいね。カスミちゃんてば、ここ最近ずっと部屋の中をうろうろして、ユウトさんがいつ来るか待ってたんですから」


「ちょ、ちが、な、なに言ってるのよシズク!う、うろうろなんてしてないんだからぁ!」


カスミが顔を赤くして叫ぶ。


「悪かったよ、今度必ず行くよ」


そんなに待っててくれたのに行けなかった申し訳なさから、俺はそう言った。


「そういえば、ユウトさんは今日何をしにいらしたんですか?」


「ああ、実はかくかくしかじかで………」


俺は依頼を見せ、計画を話した。


「へぇ、海ですか!いいですね!」


「海……海か……」


シズクは笑顔で答え、カスミは何やらぶつぶつ呟いていた。


「パーティの皆さんで行くんですよね?そういえばユウトさんのパーティって女の子はいるんですか?」


「ん?ああいるぞ。ていうか、俺以外の3人みんな女の子だぞ?」


「!?」


俺が答えるとカスミはその場で固まり、シズクも笑顔のまま動かなくなった。


「ところでカスミたちは何しに来たんだ?」


「へ?あ、いやあたしたちの用はもう済んだというか……」


カスミが曖昧に答える。

シズクはうーんと考え事をしていた。


「そか、じゃあまたな」


そう言って俺は家に帰ることにした。

すると後ろからシズクが、


「ユウトさーん、また明日ー!」


と声をかけてきた。

ん?明日?と一瞬考えたが、まあ言い間違いだろうと思い、そのまま手を振って別れた。

家に帰るとリビングに置き手紙があり、アリスの字で『3人で水着買ってくる!!』と書いてあった。

いつでもおしゃれに気を使わなきゃいけないんだから、女子っていうのは大変だな。

リビングでゆっくりしようとした途端、俺も大事なことを思い出した。


「あ、俺も水着ねーわ」


3


俺は慌てて家を飛び出し、水着屋に走った。

ちょちょいっと自分の好みの色を選ぶと、試着室の前に行く。

すると試着室から出てきたルミナとばったり会う。


「ゆ、悠くん⁉︎えっと、なんでここに?」


「あーいや、俺も水着を買いに、な」


別に狼狽える必要はないのだが、このシチュエーションで狼狽えない方が難しいと思う。


「そ、そうなんだ・・・」


なんだかルミナももじもじし出した。

やめて、なんだか俺も恥ずかしくなる。


「じゃ、俺試着するから」


「あ、うん。」


恥ずかしくなって逃げるように試着室に行く。

こんなことだから彼女がいなかったんだなぁ。

いや、彼女がいなかったからこうなのか。

悲しい現実から目を背けるように、俺は水着を選んだ。

数分考えた後、レジに行くため試着室から出ると、ルミナたち3人が待ち構えていた。


「……何やってんの」


「話は聞いたわ悠斗!私たちが新しい水着を選んであげるわ!」


アリスが得意げに言い放つ。

ふとルミナを見ると、小さく手を合わせ、申し訳なさそうな顔をした。

こいつらに言ったのはもしかしなくてもお前だよな。


「いや、俺もう自分のやつ決めたんだが……」


「そうと決まれば早速探すわよ!」


「おー!」


「あの、だから…」


言いかけた時には、既に3人は走り去って行った。

俺、もう自分の決めたんだけどなぁ。

まあ女の子に水着選んでもらうなんてそうそうないし、これはこれで嬉しいイベントかもな。

そう思っていた時期が僕にもありました。

3人が持ってきた水着を見るまでは。

まずはルミナ。


「えっと、かっこいいかなぁって。どうかな?」


そう言って渡してきたのは、オリンピック選手が履いてそうな競泳用の水着。


「いや、どうと言われてもな…」


「これで早く泳げちゃうかも!」


ルミナの目はきらきらしていた。

うん、俺速さとか求めてねーんだわ。

次、アリス。


「男の魅力を最大限に引き出すのはこれしかないでしょ!」


アリスはまるで海パン野郎みたいなぴっちりした水着を渡してきた。


「さあ!早く着て!」


「却下だ却下。恥ずかしくてこんなの着れるか!わかってやってんだろお前!」


最後にイリカ。


「ん、珍しかった、から、持ってきた」


もうこの時点でちょっと嫌な予感はしていた。

覚悟して受け取ると、ハンガーに白く長い布が引っ掛けられていた。

要するに、ふんどし。

「漢」と書いて「おとこ」と読む、みたいな言葉が浮かんだ。

流石の俺もちょっと引いた。


「あの、イリカさん?」


「ん、着て、くれない、の?」


なんとか返そうとするが、イリカは小首を傾げ困った顔をする。


「やめろ!そんな目で俺を見るな!」


これはほんと反応に困る。


「さあ、これで全部出揃ったわ!さあ悠斗、一体どれに」


「自分が決めたやつで」


即答だった。


3人がぶーぶー抗議する中、俺は迷うことなく自分の水着を買った。

やれやれとため息をつき、俺は思う。

俺の夏休みはまだ始まったばかりだ。

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