10.5話 仲間の祝い方が普通じゃない!
1
生まれて初めて、誕生日をこんなに盛大に祝ってもらった。
しかも1日かけて3人に祝ってもらえるなんて、今までこんなことなかった。
転生する前の俺が聞いたら、びっくりするだろう。
この興奮度からわかるように、簡単に言うと、すごく嬉しいのだ。
嬉しいのだが……。
「あの、アリスさん?」
「なに?」
「なんで俺たちは激おこな豚たちに囲まれているんでしょうか?」
俺たち2人の周りには顔に血管を浮かべながらキレている豚たちが多数。
「このモンスターはイカリガ豚。怒ってるのは普段からよ。私たちの目的は……」
そう言ってアリスは数頭の豚の背中に生えたキノコを指差す。
「貴重な食材、ゴクラクダケをゲットするためよ!」
「なんでそうなるんだ!!」
てっきり誕生日プレゼントとか、そういうのをもらうもんだと思ってたんだけど。
まさかのモンスター狩り。
話を聞くと、イカリガ豚は普段から怒っているため背中まで気にしている余裕がなく、稀に今回の目的であるゴクラクダケが生えるのだという。
「あのキノコは貴重で、そのおいしさは思わず天にも上る気分らしいわよ」
「そのキノコって毒キノコじゃないだろうな⁉︎」
名前の由来が食べてる時なのか、食べた後なのか、気になるところだ。
そうこうしていると、豚たちが突進してきた。
思いのほかスピードが速く、しかもそれが連続で来るのだからタチが悪い。
「このっ!意外とすばしっこいな!」
まともに相手をしては、キノコどころの話じゃない。
「アリス、こいつらの動き、何とかできるか?」
「ええ、任せて!」
アリスの魔法で豚たちの動きがゆっくりになった。
その隙に俺が闇魔法でキノコだけを刈り取った。
「よし、逃げよう!」
「わかったわ!」
豚たちが正気を取り戻す前に、俺たちはその場を立ち去った。
「これだけ取れれば大丈夫ね」
家に帰る途中で、アリスがキノコを見て言う。
「なあ、これってなんなんだ?俺まだ理解が追いついてないんだが」
「さあね、終わってからのお楽しみよ」
家に帰るとイリカが玄関で待っていた。
「ん、次は、イリカ、の番。おにい、行く」
「また俺かよ!」
連続で出動要請があったので俺は、息つく暇もなくイリカと出かけた。
2
何度も確認するが、俺は今日誕生日なのだ。
なのになぜだろう。
なぜ俺はこんなところにいるのだろうか。
「ん、おにい、早く」
「こんな断崖絶壁、登れるか!!」
俺の声が反響する。
そう、俺はイリカの言われるがままに、断崖絶壁を登っていた。
目的は、頂上にあるスワンスワローの巣の中にある卵。
正直、名前について突っ込みたいところは多々あるものの、俺はいち早くこれを終わらせることに必死だった。
ひぃひぃ言いながら崖を登っているとふと黒い影が。
「イリカ、なんか飛んできたぞ!」
巣に近づく俺たちに気づいたのか、スワンスワローがこちらに飛んできた。
スワンスワローはイリカに向けて突進するが、イリカは華麗に避け、スワンスワローの背に飛び乗った。
「ん、邪魔、しない、で」
そう言ってイリカは、スワンスワローの背中を双剣で豪快に掻っ切った。
墜落していくスワンスワローをよそに、イリカは再びに崖に戻る。
「ん、おにい、早く、行く、よ」
「ほんとに俺いるのかなぁ」
いつだかのデジャヴを感じながら、卵の回収もつつがなく終わったのだった。
「なあ、これってなんなんだ?」
「ん?なんなんだって、何が?」
俺は家に帰る途中で、今度はルミナに連れて行かれ釣りに来ていた。
「いや、今日のことだよ。今日俺、ずっと振り回されてないか?」
釣り糸を垂らしながら、今日1日思ってた疑問をぶつけてみる。
ルミナなら答えてくれそうな気がしたのだ。
だがルミナの返答は、予想とはまた違うものだった。
「うーん・・・振り回されてるっていうか、あの2人は悠くんを楽しませてるように見えるけどなぁ」
「そこに俺の意見はないけどな」
俺は若干疲れた顔をした。
それを見てルミナが笑って話す。
「でもパーティを組んでからこんなに楽しく過ごしたのって意外と初めてじゃない?普段はすぐ依頼に行っちゃうし、休みの日は結構バラバラに行動するしね」
「まぁ……そうかもな」
言われてみれば、こんな日を過ごしたのは久しぶりかもしれない。
いや、この世界に来てから初かも。
気がつけば、この世界に転生してからすでに数ヶ月が過ぎていた。
俺もよく順応できたと思う。
「だから今日は楽しかったよ!私も含めてね」
「……ああ、俺もだ」
こんな日もたまにはアリかも。
そう思った瞬間、ルミナの竿がしなった。
「あ、かかったみたい!」
俺は自分の釣竿を置き、ルミナの加勢に入った。
2人で持ち上げるが中々重い。
「っせーーのっ!!」
掛け声とともに力を入れる。
水面から出てきたのは、これまた奇妙な魚だった。
大きさは60センチくらいだろうか。
沖縄の魚みたいにカラフルな色をしている。
「ふー、さて、目的の魚も釣れたし帰ろっか!」
「お、おう……」
ルミナが魚を氷の入ったカゴに入れて言った。
見たことのない魚に圧倒され、俺は言われるがままにルミナの後を追って行った。
3
家に帰ってからは、豪華な食事が待っていた。
それも全て今日取った食材が使われていた。
控えめに言って、めちゃくちゃ美味かった。
自分で取った食材だからこそ、とても美味く感じるのかもしれない。
そして夕食の後に待っていたのは、
「はい悠斗!」
「ん、おにい、あげる」
「悠くん、おめでとう!」
3人からのプレゼントだった。
「その、3人ともまじでありがとう。これからもよろしくな!」
恥ずかしくてこんなことしか言えなかったが、これが俺の今言える精一杯の気持ちだった。
「よろしくね!悠くん!」
「ん、もちろん」
「当然よ!当たり前じゃない!」
3人は笑顔で返してくれた。
その後、今日の食材調達の話やら何やらひとしきり話した後、それぞれ部屋に戻った。
俺は部屋に入りふぅっと一息ついた。
『パンパカパーン!おめでとーう!』
突然脳内に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『お待ちかねのルウ君だよー。悠斗、誕生日おめでとー』
(はいはいそりゃどうも。)
『ちょっと!適当すぎない⁉︎』
(そんなもんだろ。それで、ただ祝いに来ただけじゃないんだろ?)
ルウはこう見えて結構考えてる。
もっと裏があるに決まってる。
『ははっ、わかってきたじゃないか』
ほらね。
(で、どうしたんだ?)
『いやね、呪いが1つ解けたもんだから教えてあげようと思ってね』
まぁこいつが来る用事なんてそれくらいか。
(それで、呪いの条件は?)
『女の子に誕生日を祝ってもらいたい、だって』
(…………。)
何とも言えない願いだ。
ほんとに俺が願ったのか?
いや願ったか?願ったのかも。
『悠斗……なんか悲しい願いだね……』
(うっせーほっとけ)
ルウの声に、若干同情の色が見える。
『まあ呪いが解けるのは僕としても嬉しい限りだし、この調子で頑張ってね』
呪いをかけた張本人が言うことじゃないと思うが。
ルウとの話が終わった俺は、ベットに腰かけた。
すると、以前アリスとやりかけだったお手製のチェス盤が目に入った。
興味本位で駒に手が伸びる。
いつかみんなの誕生日もお祝いしてやりたいな、と心の底から思う。
けど、今日みたいに疲れるのはごめんだな。
駒を動かしながら今日のことを思い出し、1人で微笑んだ。
「でもまあ、今日は俺の番、だよな?」
そう言って俺は、17歳の誕生日の最後の言葉を添えた。
「チェックメイト」