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呪われ転生じゃ死にきれない  作者: 鳴神 春
10/46

8話 妹のことは兄しか知らない!

1


妹、というのは不思議なもので、いくら可愛かろうとそれ以上の劣情を抱くことはない。

いや他人はどうか知らんけど、少なくとも俺はそうだ。

前にも話したと思うが、俺は前の世界では一人っ子だった。

なので兄や姉、弟や妹がいる生活がよく分からなかった。

周りの友達が兄弟姉妹の話をしてる時は、とても羨ましかった。

だがしかし。

今や俺にも立派な妹がいる。

そんな妹のいつもの暇つぶしに、俺は今日も付き合わされている。


「ん、はい、おにい、の、番」


「よし、じゃ俺はここっと」


「ん、おにい、ここ、早く、出して」


「やだよ、作戦だからな」


俺たちがやっているのは七並べ。

こちらの世界にもトランプに似たものがあるようで、昨日イリカが興味津々だったので、遊んでみることにした。

にしても二人で七並べ。

なんともシュールだ。

なぜかってそれは、


「ん、おにい、ここ、持ってる、でしょ。出して」


「普通はそういうこと相手に聞かないんだよなぁ」


二人でトランプを半分にしているのだから、自分が持っていないカードは相手が持っているに決まってる。

言ってしまえば、ただのカードを並べる作業なのだ。


「なあ、もうこれやめにしないか?」


「ん、なんで?」


「なんでって、これもう5周目じゃん」


むしろ、この地味な作業を文句も言わず5回もやり続けた俺を褒めてほしい。


「代わりに手品してやるから」


「ん、てじな?って、おもしろい?」


「いや、どうだろな」


そう言って俺は、カードを集めてシャッフルする。


「じゃ、始めるか」


俺は昔からよくやる手品を思い出した。

これで行くか。


「まずトランプを半分ずつにします」


トランプの枚数は52枚なので26枚に分ける。


「さて、イリカは半分に分けたカード、どっちがいい?」


「ん、こっち」


「オッケー、こっちだな」


イリカが指差した右側のトランプを前に出す。


「じゃあこの束から適当にとってまた二つに分けてくれ」


「ん、わかった」


イリカは言われた通り、数枚取って二つに分けた。


「ありがとう。じゃあイリカが選ばなかった方のトランプの一番下のカードを覚えてくれ」


「ん、わかった」


そう言って俺は一番下のカードをイリカに見せた。


「じゃあこのトランプを、イリカがさっき取らなかったトランプの上に重ねます」


俺の動作にイリカは興味を示してくれているようだ。


「ん、これじゃ、どこに、あるか、わからない」


「そうだよな。でもここからさらに混ぜます」


俺は持っているトランプの一番上と下から一枚ずつ取ってシャッフルしていく。


「さあ、これでシャッフル終了」


全てシャッフルし終えて、俺が言う。


「どうやってイリカのカードを当てるかだけど……」


「ん、どう、やるの?」


「ヒントはイリカがさっき取ったカードの枚数だ」


イリカが取ったカードは10枚。


「じゃあこっちのトランプの10枚目を見てみようか」


トランプを一枚ずつ数え、ちょうど10枚目を取ってイリカに言った。


「イリカが覚えたカードはこれか?」


「!、ん、すごい、おにい」


「はは、そうだろそうだろ」


どうやら成功したようだ。

まあ日本でよくある簡単な手品なんだけど。

よかったらみんなもやってみてね。


「ん、すごい、みんな、にも、見て、もらお」


「え、おいちょっと待って……」


だがイリカは話を聞かずにルミナたちを呼びに行ってしまった。

結局俺はこの後、みんなの前でもう一度手品を披露する羽目になった。


2


ある日。

俺たちはいつものように受注した依頼をこなしていた。


「そっち行ったぞ!頼んだイリカ!」


依頼内容はゴーレムの討伐。

ゴーレムの拳がイリカに向かっていく。

イリカは相変わらずの無表情で拳を双剣でいなし、ゴーレムの腕を伝って駆け上がる。


「ん、おにい、あげる」


そう言ってイリカは、ゴーレムを蹴飛ばし俺に飛ばしてきた。


「別に俺もいらねぇよ!」


ツッコミながら俺は魔法の準備をする。

ルミナからの支援魔法を受けて身体能力を上げた俺は、地面を蹴り上げゴーレムの顔面に向かって水を発射した。

ゴーレムは唸り声をあげている。

どうやら効いているようだ。

するとゴーレムが腕を振り上げたと思ったらその石の鉄槌をイリカ目掛けて振り下ろした。


「!」


イリカは咄嗟に双剣でブロックする。


「まずい!アリス!」


「わかってるわよ!」


イリカのフォローに回っていたアリスが魔法を唱え、ゴーレムの前で爆発を起こした。

これが決定打になったようでゴーレムは鳴き声を上げてバラバラに崩れ去った。


「ん、ありがと、アリス。助かった」


「いいのよ、気にしないで」


するといきなりイリカの双剣に亀裂が入り、ボロボロになってしまった。


「ああ、さっきの一撃で壊れちゃったのね。街に戻ったら武器屋に買いに行きましょ」


「ん、そうする」


イリカは無表情で答える。


「お疲れ様〜悠くん…って、どうしたの?」


「いや、イリカの奴、あの双剣大事にしてたみたいだからな。ちょっとかわいそうで」


「え?どうしてわかるの?」


「いつもより表情が曇ってるから」


「そう?いつもあんな感じじゃない?」


なぜか俺には、イリカの表情に悲しさが見えた。

これも兄だからなのだろうか。

兄妹というのはなんでもお見通しなのか。

ほんと、兄貴は辛いよ。

依頼完了の報告をした後、俺たちは家に戻った。

イリカは新しい双剣を武器屋で買ったのだが、まだ表情は晴れなかった。

そのことが俺の中でずっと引っかかっていた。

翌日、俺はイリカの部屋を尋ねた。


「イリカ、俺だ。入っていいか?」


「ん、いい」


「どうも」


許可を得たので俺は部屋の扉を開ける。

そこにいたのは、


「ん、どう、したの?おにい」


下着姿で今まさに着替えをしようとしているイリカだった。


「え?……はぁ!?」


あまりの出来事に俺は一瞬語彙力が欠けてしまう。


「なんで着替えてんのに俺を部屋に入れた!」


「ん、イリカ、は、別に、気に、しない」


「そこは気にしろ!」


そう言って俺は部屋から出る。

10分後、俺はまた声をかける。


「……着替え、終わったか?」


「ん、もう、平気」


ほんとだろうなと思いながら扉を開けるとイリカはしっかり着替え終わっていた。


「ん、それで、おにい、は何か、用?」


「え?あぁ。昨日双剣壊れたろ?あれからお前、なんか落ち込んでるって言うか、ちょっと気になってな」


するとイリカの目が一瞬はっとなり、だんだん優しい目になっていった。


「ん、やっぱり、おにい、すごい。何でも、わかっちゃう」


そう言うとイリカはゆっくり話し始めた。


「ん、あの、双剣、ここに来る、時、お母さん、が、くれた。だから、壊しちゃって、残念」


なるほどそうだったのか。

あの双剣は母親にもらったものだったのだ。

そりゃ大切だよな。

しょうがねぇな。


「よし、イリカ行くぞ!」


「ん、行くって、どこに?」


「決まってんだろ」


俺がイリカにできること。

困ってる妹に兄ができること。

それは。


「今度は俺がお前の武器選んでやるんだよ!」


………。


一瞬の静寂。

そしてイリカが静かに話し出す。


「ん、おにい、それ、解決、に、なって、ない」


「んんっ!……ま、まあ、そうだけど……」


冷静に考えたらそうだ。


俺がどうしようかと悩んでいる姿を見て、イリカはふっと笑って言った。


「ん、でも、ありがと、おにい」


3


俺とイリカの2人は武器屋で新しい武器を探していた。


「で、どんなのがいいんだ?」


「ん、これ、とか」


イリカが指差した武器はなかなかレア度が高く、お値段もそれなりだった。

決して払えないわけじゃないが、それよりも気になるのは、


「いや、これ、素材足りなくねーか?」


そう、武器の素材が足りないのだ。


「ん、おにい、何でも、いいって、言った、よね?」


「え?いやぁそのぉ……」


「ん、何でも、いいって、言った、よね?」


「……はい」


押し切られてしまった。

妹に言い負ける兄ってこんな気持ちなのかなぁ。


「はあ、わかった。ちょっと待ってろ」


俺は武器屋を後にし、素材屋に向かった。

5分後、素材を買ってきた俺は武器を作ってもらっていた。


「はぁはぁ、これで、お願いします……」


「あいよあんちゃん」


武器屋のおっちゃんに頼むこと数十分。

ついに武器が完成した。


「ほら、これでどうだ」


受け取った武器をイリカに渡す。


「ん、ありがと、おにい」


イリカは嬉しそうに双剣を受け取った。

相変わらず、分かりづらいけど。


「それ、新しい武器ね」


家に戻るとアリスとルミナがイリカを囲んでいた。


「それ悠くんが作ってあげたんでしょ?さすがお兄ちゃんだねぇ」


ルミナがからかうように言う。


「別に、仲間の武器を新調したってだけだろ。こんなのなんてことねぇよ」


照れが入ってしまい、ついそっぽを向いてしまう。


「いいわねぇ、私も作ってもらおうかしら?」


「お前の武器は全然使えるだろうが。」


「全くケチねぇ、イリカ、あんたも言ってやってよ。」


するとイリカは一言。


「ん、おにい、に、着替え、見せたら、買って、もらった。」


その一言がこの空間を凍てつかせた。

おかしいなぁ、もう春も終わりかけなんだけどなぁ。


「ふ、ふふふ、悠くーん?今のは一体どういうことかなぁ?」


「女の子の着替えを見たなんて、ほんと変態ね・・・。心底見損なったわ・・・。」


2人が俺に引きつった笑みと冷ややかな視線を送ってきた。


嫌な汗が背中を伝う。


「違う!ちょっほんとに違うから!いや、違わないけどそれで買ってあげたわけじゃないから!」


俺は否定した。

それはもう必死に。

これ以上ないってくらい全力で。


「ていうかイリカ!その言い方は語弊があるだろ!言い直せ!」


この事態を招いた妹に指を差して抗議する。

だがイリカはニコッと笑って。


「ん、イリカ、難しい、こと、わかんない。」


「悠くん!!」


「悠斗!!」


「何でだよチクショーーー!!」


まあ、妹はたまに兄をからかうくらいじゃないと可愛げがないよな。

イリカも成長したってわけだ。

妹の成長に嬉しさを感じながら、この理不尽な誤解に対して俺はルミナたちにめちゃくちゃ弁解した。

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