第七話 BL界期待の新星?
今なんて言った?男にしか効かない邪眼?なんだ、その悪趣味なモノは!
ふと、バカ女がサムズアップして俺に笑いかけている光景が脳裏をよぎる。
くそ!あのヤロウ!
だが、これは俺の想像上の光景だ。限りなく現実に近いとは思うが・・・。
「きゃああああああああ!なんですか、その素敵能力!!やはりお兄ちゃんは神に選ばれしBLの星だったのよ。妙ちゃんの言うことは間違ってなかった!!!」
美奈が顔を真っ赤にしながら歓声を上げる。
あのヤロウ、陰でそんなことを美奈に言っていたのか。
いや、面と向かっても言ってたか?
みると、ルーフィが若干引き気味に俺を見ている。
そうだ、それが本当ならルーフィやトーラスに影響があるはずなのでは?
「異議あり!!!それが本当なら、ルーフィやトーラスが普通なのはおかしいだろ!!」
俺は、手をあげて強く主張する。それに対しトーラスは
「私は常に魔法障壁を張っている。君程度の魔力では突破できないだろう。また、ルーフィに関しては先ほど中和剤を飲ませた。君たちを連れて戻ったとき、軽くだが魅了されていたようなのでな。」
そういや、ルーフィが夕食に帰るときになんか飲ませていたな。
だが、納得はできない!
「仮に俺が邪眼を持ってるとしてだ。男にしか効かないというのは無理があるだろう。敢えて言うなら男女構わず魅了しているという方がまだ納得できる。」
「お兄ちゃん、往生際が悪いよ。自分で女の子に縁がないって言ってたじゃん。それに、身近にいる妙子ちゃんが”浩二君は男の子からモテモテなの!自分でも気づかないフェロモンを出しているみたい!”とか言ってたから間違いないって。」
「何が間違いないだ!あのバカ女は、俺が友達と話しているだけでBLに結び付ける”乙女フィルター”の持ち主だぞ!そして、そうやって周りの女と騒ぐから、クラスの女が妙な気を使って俺に近づいてこないというのも女に縁がない原因の一つだ。そう、元凶はあいつだ!」
そうか!言ってて気が付いたが、元凶はあいつなんだ!
だが、それを否定するようにトーラスが言う。
「誰かのせいにしたい気持ちはわかるがな。君の眼は生まれつきだ。もし、後天的な呪いの類ならその痕跡があるだろう。」
「じゃあ、やっぱりお兄ちゃんはBL期待の星!すべての男の子を受け入れる誘い受けの星!なんですね!?」
「言葉の意味はよくわからんが、まあたぶんそんなとこなのだろう。」
よくわからんのに肯定しやがった!!
全てを受け入れるってなんだ!?
美奈のやつ、妙子の影響で戻れないところまで行っている感じだ。兄として悲しすぎる。
だが、はいそうですかと受け入れるには余りにも問題が大きすぎる。
ふと、ルーフィと目が合う。そういや、魅了されているにしては普通にしているな。中和剤というのが効いているのか?
「ルーフィはどう思う?俺に魅了されていると感じるのか?」
一縷の望みをかけてルーフィに問う。
「そうだな・・・。初めて会ったとき、しばらく見つめ合った後、なんか変な感じがしたが、それもすぐに収まったな。今も別に何ともない。」
ちょっと引っかかるところはあるが、ルーフィはきっぱりと否定した。
よかった。これで俺の無実(?)が証明された。
「ああ、そのことで引っかかっていたんだが、先ほどの美奈の鼻血を見て納得した。ルーフィはここに来る前に美奈の血を浴びていなかったか?」
「ん?確かに少し浴びたな。それで、驚いてここに案内してきたんだが・・・。」
そう、確かに出会いのときに美奈は鼻血を噴き出していた。それは間違いない。
「なるほど。どうやら、美奈の血には中和剤と同じ効果があるようだ。ここに戻ったルーフィが少しだけ”魅了の魔力”に取りつかれていたので中和剤を飲ませたが、森から一緒に来たとなると、もっと深くかかっているはずなのにおかしいなと思っていたのだが・・・。先ほど、美奈が鼻血を出したときに、ルーフィに纏わりついていた魔力が消え去ったのがわかったのでたぶん間違いないだろう。」
「どういうことだ?」
さっぱりわからない説明だ。
トーラスがやれやれといった感じで詳しく説明を始める。
「君のその眼は、”魅了の邪眼”と呼ばれるものだ。”邪眼”と”魔眼”の違いは前者が常に意図しない状態でも魅了してしまうのに対し、後者は意識的にコントロールすることが可能だということだな。そして、”魅了の邪眼”とは目から出る魔力が相手の精神体に干渉することで魅了するものなのだが、私のように魔法障壁を張っているものには効果がない。だが、ルーフィはまだ魔法障壁の呪文は持っていない。先ほど中和剤を飲ませはしたが、これは魔法障壁とは違って君の邪眼の魔力が精神体に干渉しているのをルーフィ自身の抵抗力をあげることによって回復している状況だと思えばいい。だが、美奈が出した鼻血はルーフィに纏わりついていた魔力そのものを打ち消してしまったんだ。さらに言えば、君から出る魔力も一時的に消失している。だから、ルーフィがここにきたとき、そんなに”魅了”の魔力に纏わりつかれてなかったんだろう。これはかなりすごいことなのだが・・・。」
よくわからないが、俺の力を美奈の血が打ち消しているということか?なるほど、それなら辻褄は合うな。しかし、それでも納得いかない。いや、するわけにはいかない。
「待ってくれ!おれが邪眼持ちだという前提で進めるな!」
「お兄ちゃん、そろそろ諦めなよ・・・。トーラスさんが間違っているようには思えないんだけど・・・。」
いや、諦めたら美奈や妙子にBLの世界に引きずり込まれてしまう。俺はそんなの嫌だ!
「いや、それを証明するにはまだ足りないぞ。第一、俺たちの世界で友人と遊んでいた時だって別に変なことは起こってなかったんだ。男に告られたことだってない!」
「だから、それはお兄ちゃんが鈍かっただけだよ。妙ちゃんの視点ではモテモテだったんだから。いつもそのことを私たちに熱く語ってくれてたじゃない。」
あんな妄想話を真に受けていたのかこいつは。確かに、3人でいるときは美奈に向かって妄想オタ話を繰り広げていたが、あれはあいつの腐った脳が生み出した妄想上の産物に過ぎないはずだ。
「ふむ。証明しないと納得しないというのであれば、明日の朝でも実験してみよう。」
トーラスが口を挟んでくる。
「実験?」
「ああ。明日の朝、みんなが集まっている時でもそこに行ってみることにしよう。どうせ、ここにしばらく住むのなら、みんなに事情を説明しないといけないしな。」
「わざわざみんな集めるのか?」
ルーフィが疑問を口にする。
「いや、どうせ明日は礼拝日だ。教会にみんな集まるだろうから、その場で説明すればいい。そのときに何人かに協力してもらって実験すればいいだけだ。村人も疑問に思うことがあるだろうからな。」
なんでもないことのようにトーラスが言う。
俺としては、大勢の前で晒し者になるのはやりたくないが、ここにしばらく厄介になるのならそれも仕方ないことかと諦める。
邪眼の実態自体は、実際に実験してみればわかるだろう。
「わかった。とりあえず、明日の朝迎えに来る。今日はとりあえず帰るよ。」
ルーフィが立ち上がる。
「ルーフィ、今日は本当に世話になった。ありがとう」
「まあ、気にするな。困ったときはお互い様だしな。今日はゆっくり休んでおけよな。」
ルーフィがニコッと笑いかけて出て行った。
「さて、私も戻ろう。今日のところは休むといい。」
「ああ。トーラスにも世話になった。というか、これからも世話になる。すまないが、よろしく頼む。」
トーラスにも礼を言うと、トーラスもフッと軽く笑って出て行った。
「これからどうなるのか分からないけど、とりあえずいい人たちに会えてよかったね。」
美奈が素直な感想を述べる。
まだ、不安の方が大きいはずなのに、意外と落ち込んではいないようだ。さっきまでのオタ話ですっかり調子を戻したらしい。現金な奴だ。
「そうだな・・・。これが、朝起きて夢だったならいいんだが、そうもいかないか・・・。まあ、とりあえずいい奴らと出会えたことだけでも幸運だな。今日のところは、寝るとしよう。さ、部屋に行こう。」
とりあえず、寝られそうな部屋を探しに2人で奥に行くことにした。