第一話 森の中で
「あれ?ここはどこだ?」
穴から這い出た俺は間抜けな声をあげた。
そこは、木々に囲まれた空間だった。
あるはずの土手や河原はなく、ただ木々が生い茂っていた。
”さっき落ちた穴と別な穴からでたのか?”
そんなはずないと思ってはいるが、目の前の光景があまりに違っているせいでそう感じてしまうほどの違和感だった。
更に先ほどは夕暮れ時だったはずなのだが、今はどう見ても昼間であり、木々の葉の隙間から太陽の光が降り注いでいる。明らかにおかしい。
「うーん・・・。」
ハッとして我に返り、穴の底にいるはずの妹に声をかける。
「美奈!大丈夫か?」
呼びかけに応えるかのように目を覚ます美奈。
「うう・・・。いたたた。」
「どうした?大丈夫か?」
「お兄ちゃん?どこ?足が痛い」
どうやら落下の衝撃で足をひねったようだ。
「上だ。みえるか?」
「上?あ、お兄ちゃん!なんか、足が痛い・・・。」
足首に手を当て押さえている美奈。
「立てそうか?立てるなら引っ張り上げるんが・・・。」
「うう・・・。無理そう。」
仕方ないので、もう一度穴の下に降り妹を肩車することにする。
穴から頭がでた美奈は、周りの光景がさっきまでの自分の世界と違うとすぐに気づいたようだ。
「なに・・・。ここどこ・・・?」
美奈は混乱しているようだったが、とりあえず穴から出るのが先決だ。
「美奈。ここがどこかは後回しにしよう。とりあえず外に出られそうか?」
「あ、ごめん。うん。下から押してくれればいけそうなんだけど・・・。」
穴の淵に腕を出し何とかよじ登ろうとしている美奈。
穴の壁に足をかけ、なんとか美奈のお尻を押し上げる。
「きゃーーーー!お兄ちゃんのエッチーーー!」
騒ぐ美奈を押し上げて穴の外に放りだすと、穴の中に転がっている自分のカバンと美奈のランドセルを下から放り投げる。
そして、もう一度蔦を利用して穴の外へ出る。
やはり、そこはいつもの河原とは全く違う場所であった。
隣で美奈が呆然とした表情でへたり込んでいる。
「お兄ちゃん。ここ、どこなんだろうね・・・。」
美奈の呟きに応えることなく、俺は辺りを見回す。
とりあえず、人がいるところを探さないといけない。
”そういえば、スマホがあったな・・・。”
スマホのGPS機能なら自分たちのいる場所の見当くらいはつくだろう。
慌ててスマホを取り出すと、マップを開いてみる。しかし、反応がない。
他の機能も試してみるが、通信関係は軒並み使えなくなっていた。
”おかしい。圏外のはずはないんだが・・・。”
とりあえず、使えないスマホは置いておいて、周辺を見て回ることにする。
っと、美奈をどうしようか?
「美奈、ちょっとこの周りをみてくる。荷物を見ててくれ。」
「え!?やだ!こんなとこに一人にしないで!」
「でも、お前歩けないだろ?」
「いやいやいやいやいやいや!」
置いておかれる心細さから必死に頭を振り駄々をこねる美奈。
まあ、確かにこんなとこに一人でおいていくのもかわいそうか?
「ったく、しょうがない・・・。俺のカバンはお前が持てよ。」
美奈にランドセルを背負わせおんぶする。両手が開いた美奈に俺のカバンを持たせる。教科書等は学校に置いたままなのでそんなに重くはないはずだ。
「うう・・・。ごめんね。でも、こんなとこに一人は嫌なの!」
「わかったわかった。まあ、少し歩けば知ってるとこに出るだろう。」
美奈がベソをかいているが、気持ちはわかる。俺だって一人でこんなとこにいたくない。ましてや美奈は足を挫いている。動けないのに一人取り残されるのは辛いだろう。
しばらく歩くと道らしきところに出る。らしいをつくのは、舗装された道ではなく人が踏み固めた感じの道だったからだ。
「ん?これはどっちに行ったらいいんだ?」
太陽の向きから推察すると道は北から南へと伸びている。
俺たちの落ちた穴の位置から考えると、北に向かえば家のある方角なのだが、今までの景色だとあまり期待はできない。
「まあ、とりあえず家の方角に向かって歩いてみよう。」
ここまで終始無言だった美奈も頷いて同意する。やはり、今までの光景にショックを受けているのか無言だった。
しばらくすると、道の先に小さな子供の影が見える。
”たすかった・・・。子供でも今いる場所さえ教えてもらえれば何とかなる!”
「おーーーーい!」
俺は声をあげて彼らに歩み寄った。