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ダイスの魔女と世界再築  作者: 成浅 シナ
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宣戦布告

スローペースで更新中です。

最後までこの物語に御付き合いして頂けると嬉しいです。


パーティー会場には様々な種族で溢れかえっていた。

僕と同じような外見をした者から羽や尻尾を生やした者までその見た目は様々だ。


その中をリリハと並んで歩きながら眺めていた。

「いいのか?ご主人。」

「いいって何が?」

「パーティーの主役がこんな端にいて、という事だ。」

「ああ...それか。」

『おっ』と人の少ない手頃な場所を見つけ壁によりかかる。

「まあ、いいんじゃないのか?それに...僕はこの場を楽しむつもりじゃない。」

むしろ逆だ。

僕がこれからやろうとしている事はこの場の空気を...いや、この世界そのものを壊すことに繋がるのだから。

「そうか、まあご主人がそう言うならボクも気にしないさ。...まあ最も、周りはそうではないようだがな。」

周り?

リリ八にそう言われ俯くように下げていた視線を上げる。

「あー...、そういうことね......」

何がそんなに気になるのか、周りの人...いや、この場にいる人『全員』があからさまではないにしてもこちらにチラチラと視線を向けていた。

そして僕が見ていることに気づくと何事もなかったように近くにいた人たちと談笑を始めた。

だがわざと僕が視線を他にやるとコソコソと何かを耳打ちしている様子が見受けられた。話している内容なんて分かりきっている。

僕なんかを話のネタにして何が楽しいんだか...


「来たぞ。」

リリハの言葉を聞き今中央の玉座に向かって毅然きぜんと歩く影に目を向けた。

その人物ーーー現魔王は趣味の悪いマントを翻して中央に堂々と立つ。

「諸君!今日この場に集まってくれたこと、心より感謝する。この宴を催すことになった理由はみなも知っている通りだ。過去、不肖我が息子は後にこの世界を治める身でありながら過去に我が世界を揺るがす程の失態を犯した。だが別世界で改心し我が世界を任せる程の度量を身につけ戻ってきたのだ。ワタシは今日この場で今後この世界を息子に任せることを宣言しよう!!」

おい!ちょっと待て!!

任せることにしようって...そんな話全くきいてないんだけども!?

しかも『改心』とか『度量を身につけた』ってどこをどう解釈したらそんな脳天気極まりない発想が出てくんだよ!?

少なくとも僕があの世界ーーーもうずいぶんと遠くなってしまった『故郷』にいたのは記憶を辿る限り『お仕置き』とかそういうニュアンス的な感じだったようにも気がするんだが!?

だめだ!ツッコミどころが多すぎる!


そもそも僕は...!


...僕は好きでこの世界にいるんじゃない。

今はもう段々と心の感覚が麻痺してきていて半ば強制的に信じられない現実を受け入れつつあるけど...


でも......


『優羽っ!』

記憶の中でどこか懐かしい声が僕の名を呼ぶ。

ついこの間あったはずなのにもう随分と遠い。

あのまま、僕が過ごしていたら僕は幸せを掴めていたのだろうか?

今まで模索していた『自分の存在理由レーゾンデートル』を見つけることが出来ていたのだろうか...?

それは『神のみぞ知るところ』だろう。


「ご主人。そろそろ出番だぞ。ノミの心臓を持つご主人に格好よく決めろと言うのは酷だが、まあ失敗はしないようにな。」

「はは、ありがと。」

その態度は傲慢で言葉だけを聞くと見下され、バカにされているようにも聞こえるのかもしれない。

だがその言葉の奥には『頑張れ』という励ましの意味が込められていることが伝わってくる。

リリハは中央に視線を向けたまま毅然とした態度で腕を組んで壁に寄りかかっているがその瞳は不安げに揺れていた。


「大丈夫。これは...僕がやるべき事だ。リリハが心配するようなことじゃないよ。」

「ふんっ。誰が心配などするもんか!ボクはただご主人が失敗したときに執拗しつように落ち込んでボクに被害が来る前に慰めの言葉をだなっ......」

「はいはい。わかってるよ。ありがとう。」

緊張して場に呑まれそうだった心がほぐれていくのを感じながら僕は微笑んだ。

「その顔絶対に勘違いしているだろうっ!」

周りの目もあるのでさすがに小声でではあるもののリリハは顔を真っ赤にして頬を可愛らしく膨らませた。


不器用で言葉足らずなところはあるけどとても優しい子なのだ。

怒ってるリリハから視線を外し、前で言葉を述べる現魔王に視線を向ける。

現魔王も少し高くなったその場所から僕が見ていたことに気づいたようで不敵に笑い手をバッと僕のいる方角に向けた。

「ーーーそれではここで、次期魔王。現時点では次期魔王最有力候補である我が息子ユーハに抱負でも述べてもらおうか!」


きた......

遂にこの瞬間が...

ずっとこのタイミングを待ち望んでいた。


キッと魔王を睨みつけゆっくりと中央に歩みを進める。

コソコソと耳打ちし合う人達の間を通り魔王に対峙する形で玉座の斜め下辺りで立ち止まった。


「どうした?早く上がりたまえ。」

その必要はない。

僕はその席に収まる気が毛頭もうとうないのだから。

逃げ出したいと思う気持ちを抑えるためにゆっくりと深呼吸し回れ右をして振り返る。

そしてこの場にいる全員に最後まで耳を傾けさせるため震えながらもキッパリと堂々と自身を持って大声で叫んだ。


「僕には魔王の座を継ぐ意思はありません!!」


その瞬間観衆がザワつく。

だが僕は気にせず続けた。

「こんな世界は間違っている!魔力を持つ者が良い待遇を受け!持たぬ者は侮辱し良いように使う!自由平等なんてあったもんじゃない!力で国を治め!力を持って他の世界を服従させるだなんて間違っている!もう一度言う!僕に魔王を継ぐ意思はない!僕はこんな制度を廃止して!国を再建して!皆が過ごしやすく安全に、自由に暮らせる!そんな世界を造り!この世界を救うと決めたからだっ!!だからーーー」

大声で叫び声が掠れ酸素が足りなくなってきた。

でもまずはここにいる人たちに自分達の持っている間違った価値観を改めさせるため必死に説得する。


だがその説得はこの状況をよく思わない人物によって中断された。


その人物ーーー今真後ろにいる現魔王はパンパンと手を叩いた。

その乾いた音を聞いた瞬間僕の頭の中が急に真っ白になり続きの言葉が出てこなくなる。

なんだ...!なにをされたんだ...!!


「皆の者すまない。息子はまだこちらの世界に戻ってきたばかりで疲れが残っていたようだ。魔王の器でありながらこのような場で突然の非礼に働いたこと、どうか目を瞑って貰いたい。」


なっ...!?ちがっ...そうじゃない!僕は本気で......

それが伝わってすらいない!?


「それでどうだろう?これはワタシからの提案なのだが...いくら次期魔王とはいってもまだ息子が年端もいかない若者であるということは事実だ。知識や魔力を含め多くの事がまだ備わっていないようにも思う。」

なんだ。なんの話をしている......


「よってユーハを『王立ヴェルリード魔法学校』に入れ、我が国を任せるに相応しい度量を身につけてもらうというのは!」

その言葉になぜかワーッと歓声が湧いた。

そして魔王は『ウム』と満足気に頷いた。

「それでは宴の続きを堪能してくれたまえ。」

そう言い魔王はその場でスーッと姿を消した。

魔法を使ったのだろう。


僕はどうすることも出来ずその場にガックリと膝をついた。


失敗した...

周りの人を動かすどころか魔王に上手いこと周りを言いくるめられてしまった。


「ご主人。」

いつの間にか傍に来ていたリリハの声にびくりと体を震わせる。

「...ごめん......ごめん.....僕は...僕は......!」

「よくやった。上出来だぞ。」

「...は?」

上出来って...そんなわけないだろ。

「あんなの...失敗だ。全然だめだ...」


「でもご主人の意志と考えていることは伝えられただろう?」

その言葉に『あっ』となる。

そうだ。確かに周りを動かすことは出来なかった。どうして欲しいということも伝えることが出来なかった。

でも確かに1番伝えたかったことは言えたのだ。

「ご主人の言葉を聞いて1人くらいは胸を打たれた奴もいるかもしれないだろう?よかったな。おめでとう。これで一歩前進だ。」

今までに見てきたどの笑顔とも違う柔らかな顔でリリハは微笑んだ。


「そ...っか......」

そうだよな。少なくとも状況は確実に少しづつだけど良い方向に前進してるのは確かだ。言わなかったほうが良かっただなんてことは絶対ない。


「さて、どうするご主人。魔王の追跡でもするか?それともこのままパーティーを楽しむか?」


それを聞いて僕の中に浮かんだほうは...

「そんなの......ひとまず腹ごしらえだ!『腹が減っては戦は出来ない』って言うしな!」

「ご主人がそう望むのならば。」


そうだ。どうせこれからの事なんてどんなに考えたって分かりはしないのだからあとから考えればいい。

まだ『作戦』は始まったばかりなのだから。

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