独りじゃない
「うおぉ!!」
「おっと。」
リーゼの瞬間移動でカルタの背後に行き奇襲を仕掛ける。
だが、そんなことで簡単にやられてくれるわけもなくカルタは少しの動きでそれを避ける。
「酷いじゃないの。正々堂々じゃないね。」
「酷いのはそっちのほうでしょ。学校燃やして見境なく生徒を襲って。」
リーゼは僕と手を取ったまま能力を使いカルタから距離を取る。
「これで2対1。降伏しなさい、カルタ・キャルメリゼ。貴方に勝ち目はないわ。」
「何言ってるの?」
余裕たっぷりなニヤリとした笑みを浮かべカルタは影を作り出す。
影は辺り一面を覆い尽くしその数は計り知れない。
炎で真っ赤だった場所が真っ黒に埋め尽くされた。
「大多数対2よ?」
「いや、違うな。」
どこからかその声が聞こえた。
聞き覚えのある...どころか毎日聞いてきた凛とした声。
そしてビュッと突風が吹き荒れた。
グラァァォァァァォォッ!!
影たちは雄叫びを上げながら炎と共にその姿を消していく。
「...すごい......」
ぽつりとリーゼがそう呟いた。
こんな広い範囲の魔法によって産み出されたそれらを一瞬にして消し去る。よほど高度な実力がなければ出来るわけがない。
こんなの『人間業』じゃない...!!
「3対1だ。」
空中に浮いた僕達の救世主ーーリリハはそう言い放った。
「『立方体の魔女』...っ!!どうして...っ!!」
「フッ、愚問だな。僕の魔力生成力を侮ってもらっては困る。」
「魔力生成ですって!そんな魔法あるわけないわ!!魔力値が決められた人間にそんなこと...」
「ボクは『人間』じゃない。」
大声を出し否定するカルタの言葉をリリハはピシャリと遮る。
「ボクは魔王に造られた人形。王室特殊部隊第1、『立方体の魔女』!そしてご主人に付き従う者、リリハだ!」
「王室...特殊部隊...?しかも第1って......。な、なんでそんなのがこんな辺鄙な所にいるのよ!!」
「ご主人の敵はボクの敵。大人しく投降しろ。」
リリハは手に魔力媒体である立方体を持ちそう言った。
その声はいつも以上に刺々しい。怒りの色を含んでいるかのような。
「そんな簡単に投降なんてするわけないでしょ!!私は私の目的を果たすまで諦めない!!」
カルタがそう叫ぶとと同時に手に嵌めた黒い手袋が光を放ち光の槍が飛ぶ。
「ユーハッ!!」
「...ッ!!」
先程よりも威力もスピードも数段増したそれをリリハは空中に退避し、僕はリーゼの瞬間移動で躱す。
「私は...っ!『お姉ちゃん』を解放するんだからっ〜!!私の大事な物を奪っていったこの場所から!!」
はっきり聞こえたカルタの願い。
『お姉ちゃん』。カルタは確かにそう言った。
「リーゼ...」
瞬間移動で次々に飛んで来る攻撃を避け続けるリーゼを呼ぶ。
「なによっ!今お喋りしている余裕はないのだけれどっ!!」
わかってるさ。だけど...
「頼みがある。」
「頼み?」
カルタに視線を向け次の攻撃に備えながらリーゼはそう聞き返してくる。
その返しに僕は『ゼロの剣』の柄をギュッと握り答えた。
頼むぞ、相棒。もう1度僕に力を貸してくれと願いを込めて。
「...ッ!?そんなの危険だわ!!」
僕の『頼み』にリーゼは目を見開き止めた。
まあ、こうなる想像はしてたさ。でも...
「でも、誰かがやらなきゃこの闘いは終わらない。僕しか出来ないんだ。」
「ユーハ...」
リーゼは戸惑っていたがやがて小さく頷いた。
それを確認し僕は瞬間移動の合間合間に見えるリリハに目を向ける。
意思が通じたのかリリハと目が合った。
そしてリリハが小さく頷く。
僕が言葉で伝えずとも僕の考えは通じている。そして...『もう1人にも。』
「行くわよ、ユーハッ!!」




