想いの種
「は...墓場って......僕はそんなこと......」
「あまっちょろい。」
僕の言い分をカルタはピシャリと言い留める。
「あまっちょろいよ、君。ケーキよりも甘い。君は私を止めたい。私は君を殺したい。だったら利害は一致してるじゃん。なにか問題でもある?」
攻撃態勢を取りカルタはフッと笑った。
「僕は君を止めたいだけだ!殺したいだなんて思ってない!!」
「だからなにが違うのさ。止めるって具体的にはどうする気?その手に持ってる剣を私が動けなくなるまで振るうんでしょ?」
「なっ...!そ、それは...それしか...!!」
話し合いで解決出来るだなんてハナから思ってない。
確かにカルタの言う通りだ。
僕は武力を持ってカルタを止めようとしていた。
その先のことなんて考えていなかった。...いや、考えないようにしていたんだ。
僕は言い訳を並べて自分を正当化しようとしていたんだ。戦えば怪我を負わせる。最悪......
カルタは言い籠もる僕を見て手を構え直す。
「さあ、はじめましょう?退屈しないダンスをね。」
「...ッ!!」
カルタの手から放たれた黒い光を纏う攻撃魔法をすんでのところでかわす。
「ほらほら、そんな逃げ腰じゃぁ、やりがいないなー。」
逃げ惑う僕を見てカルタキヒッと笑いながらダンスを踊るようにステップしターンする。
そして次々辺りが黒い光で包まれ『影』が這い出てきた。
それを横目で見ながら絶え間なく繰り返される攻撃をかわす。
だが辺りを覆い尽くすほどの影に気を取られている間にもカルタは容赦などしない。
「ぐぁぁ!!」
左の肩口に攻撃魔法が掠め鮮血が舞う。
余裕そうに笑っているところを見るとわざと外したらしい。
それでも当たった訳ではないのに激しい痛みが襲う。
これが本当に当たってしまったら...
落ち着け...思い出せ!リリハとしてきた修行を、積み重ねて来た時間を。
「はぁぁっ!!」
四方八方から襲って来る影を斬る。
『攻撃魔法を発動するとき僅かながらタイムラグが発生するんだ。媒体を通して行うからな。』
イメージするんだ。
出来る出来ないじゃない。現実に存在するか否かでもない。出来るってイメージすることが重要なんだ。
カルタの攻撃が発動されるまでの僅かなタイムラグ。
両手で構えていた『ゼロの剣』を右手で構え左手を今まさに攻撃を放とうとするカルタに向ける。
そんな一瞬の、1秒にも満たないような時間が何故か僕にはスローモーションのようにゆっくり動いて見えた。
「やぁ!」
そしてカルタが余裕そうな顔で放ったその攻撃はーー
「はぁぁぁぁぁっ!!」
僕に届く寸前に光の壁に阻まれて集散した。
「なによ今の。」
戸惑ったようなカルタの声が黒い影越しに聞こえる。
だが、僕にその質問に答える暇はない。
今も尚、数え切れないほどの影が僕に襲いかかる。
「ウォォォッ!!」
僕の想いに答え、強くなるという『ゼロの剣』。
だったら頼む。僕に力を貸してくれ!この学校の生徒を、リリハから大事な物を奪い、そして僕の大事な『ヒト』を手にかけたカルタ。
僕がここで剣を振るっているのは正義感でもなんでもない。
ただ、怒りをぶつけているだけだ。
倒れたリリハや悲しそうなフィナの顔が頭から離れない。
カルタの目的がなんなのかは分からない。だけど僕の大事なものを奪っていった目の前の少女に僕が向けている感情は嫌悪だ。
僕は何のためにこの場所に来たんだっけ。
影を斬りながらふとそんなことを感じた。
そんなこと考えている暇じゃないのは分かっているけどそれでも思考を止められなかった。
人を憎むために、僕は魔王に反発したんじゃない。
こんな気持ちを持つなんて。これじゃ魔王の作ってきた世界に順応して、受け入れているみたいじゃないか。
そう感じ、自身の信念に疑問を持った瞬間ーー
『ゼロの剣』を纏っていた光が消え失せた。




