暗い深淵
一瞬暗闇に染まった意識が覚醒する。
すぐ目の前に地面がある。土の匂いがする。
自分がなぜ倒れているのかそれすらも分からない。
確か炎の中にフィナを見つけて...目の前が光で真っ白に染まって......
『光』?
「そ...だ......」
フィナがなぜ僕に魔法を放ったのかは分からない。
だが認めたくはないけどいい加減認めざるおえないようだ。フィナが僕を『攻撃』したということに。
そうだ。僕は攻撃された...はずなんだけど......
少し気を失っていたからか頭がふわふわする。
だけど少し擦り傷があって服が土や煤で汚れていること以外はいつもどおりだ。
体を起こしペタペタと触るが攻撃を受けた割に外傷も何もない。体内に感じる魔力値も問題ない。
だったらあれは......
「...ッ!?」
辺りを見回し、『それ』を見つけた瞬間脳に雷が落ちたように思い出した。
「リリハッ!!」
地面に伏したリリハの元へ駆け寄り体を抱き起こす。
僕に魔法が届く直前。僕を突き飛ばし身代わりとなったリリハを。
「リリハッ!おいっ!!おいって!!」
心臓がギュッと握りつぶされたかのように痛い。体の熱が急に冷めたかのように冷たい。最悪の想像が頭の中をよぎり震えが止まらない。
何度も、何度も名前を呼ぶ。
だけど、その目が開かれることはなかった。
「そんな......」
「あちゃあー。部外者に当たっちゃったー。」
そんな間のぬけた声で僕は重い顔を上げた。
ふわふわの髪。黒いローブ。ニヤリと笑う整った顔。
リリハをこんなにした張本人ーー
「フィナ...なんで......」
「フィナ?誰それ?」
「誰って...お前何言って...」
そこまで言って気がつく。
とぼけているわけでもはぐらかしているわけでもない。本当に分からないという顔をしていることに。
目の前にいるのはフィナじゃない...?
だったら...だったら...この少女はーー
「お前は......」
「えー、ここで名乗るの?名乗っちゃうの?めんどーだなー。キミは自分を殺す相手の名前を知りたいの?」
血の気が引いた。
この少女は...このフィナに瓜二つな少女は、今......
「『殺す』って...言ったか...?」
少女は不思議そうな顔をして頷く。
『何も変なことは言っていない』という顔で。
「言ったよ?...あー、わかった!わかっちゃった!」
少女は自分の中でなにかに納得したようにうんうんと頷いた。
「別に『物理的な意味で』君を殺す訳じゃないから安心してねー?そっちは興味ないからー。」
そう言い少女は『あはっ』と笑った。
「じゃあ...どういう意味なんだよ。」
「えー、そこまで言わないといけないのー?やることいっぱいでいそがしーのにっ!...ま!いっかぁ!未練タラタラで死ぬのも可哀想だしね!わぉ!私ったらやっさしー!!」
手を組んでその場でくるっと楽しそうに回った少女はニヤリと笑う。
「カルタ・キャルメリゼ。今をトキめく純情可憐な乙女で夢は『この学校の生徒を皆殺しにすること』!もちろん物理的な意味とかじゃなくて『魔法使いとして殺す』って意味でね!」
魔法使いとして、殺す...
「お前が...死霊術師か。」
それは体内の魔力値をゼロにさせてしまえばいかなる魔法を発動出来なくなってしまう。
「いかにも!天才死霊術師カルタちゃんとは私のこと!君に恨みはないけど君もこの学校の生徒なら...」
カルタと名乗る少女は片手を僕に向ける。
「死んじゃえ♪」
とてつもないスピードでその手から放たれた光が迫る。
僕には、力のない僕には、ただ体を丸めてリリハの盾になることしか出来ない。
僕はーー結局なにも出来ないままでーー人から守られるだけでーー
何も出来ないんだ。
僕の意識は暗い暗い深淵に呑み込まれた。




