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ダイスの魔女と世界再築  作者: 成浅 シナ
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記憶の破片

「それでそろそろ質問させて貰ってもいいか?リ...リリハ...さん。」

「リリハ。」

「え、えーっと...」

「リリハ。」

「...あー...えと、質問してもいいか?...リリハ。」

「ふっ、非常に面倒だがそこまで言うなら仕方がないな。」

初めて会ったときからずっと思ってはいたのだがやけに上から目線というか態度が大きい。

下僕だのなんだのと言っている割りには僕に仕えようという意思はそんなにないらしい。

まあ、本当に仕えられても困るからこのままでもいいけど。

一般的には口調とか態度だけ見ると腹立たしいと思われるのだろうがなんだか可愛らしくも感じるし。

いや、俺はMでは決してないけど。

「それで俺がついさっきまでいたあの世界は何なんだ?」

「さっき?...ああ、あの人間界を模したあの世界か。でもその世界が崩れたのはもう3日も前だぞ?」

「3日!?」

どんだけ気を失ってたんだ。

「ああ、しばらく別世界にいたから体に時差が生じたんだろう。」

「時差?『時間差』ってことか?」

「そうじゃない。『時間差』ではなく『時限差』さ。わずか数年の間だったとはいえこことは違う世界空間にいたんだ。重量や魔力の負荷が多少なりともかかるのは当然だろう?」

「そういうもんなのか?」

「そういうものだろう。」

「あと、うっかり聞き流しそうになったが『人間界を模したあの世界』とかって言ったか?」

聞き間違い...ではないよな?

「なんだ、記憶が戻ってないのか?」

「いや、戻ってない...というか...」

気を失う直前、確かに何か膨大な量の記憶甦った。それは覚えているのだがその記憶の内容はさっぱり思い出せないのだ。

何かを思い出した...いや、思い出しかけたのは覚えているのに...


「なるほど。」

リリハは1人納得したように頷く。

「なんだよ。」

「一応聞くが何一つ覚えていないのか?」

「...ああ。」

「思い出したいか...?」

相変わらずの無表情のままリリハはじっと見つめて来る。

その目には真剣な色を含んでいた。

いきなり変なところに連れてこられて、しかもそこは今までいたところとは別世界らしくて。生みの親はまさかの魔王...

正直もうかなりお腹はいっぱいだ。

ついていけない。


でも先程から窓の外に時折見える羽の生えた謎の生物の存在が現実を受け入れろと迫って来るようだ。

この馬鹿げた世界は現実だ。

この先もきっと馬鹿げたことが待ち構えているのだろう。

だとしたら...


「いや、今はいい。」

もし記憶が全て戻ったときの事を考えた。

魔王の息子...つまり遠回しにお前は人間ではないと言われたことがどこか心にずっと引っかかっていた。

確かに僕は人間ではないのかもしれない。

でも、それでも心は人間のつもりでいる。

これすらも失ってしまっては僕は完全にこの訳の分からない世界に染まってしまうだろう。

「...どうせ、僕はもう元の世界には戻れないんだろ?こんなおかしな世界なんて受け入れたくないけど...正直言うと過去のことなんて思い出したくもないけど...でもどうせ思い出さないといけないのなら少しずつでいい。」

「そうか、ボクとしてはさっさと記憶を取り戻して魔王になる意思を固めてくれたほうが都合がよかったのだが。」

なんか言ってることがさっきと違うな。

さっきの『思い出したいか?』という言葉はまるで過去のことは思い出さないほうがいいと言っているように聞こえたんだが。

「少しずつというのならまず少しだけ思い出して貰おうか。なんでキミがあの世界を創造したのか...くらいのことは思い出しておいたほうがいいのではないか?」

「まあ、正直言ってその創造したってのも信じられないんだけど...まあ、そうだな、うん。...でもどうやって?」

「言っただろう?ボクは魔女さ。しかも魔王が直々に創った一級品だ。そのあたりの魔女と並べないでもらえるかな。」


一級品って......

「そんな自分を『物』みたいに言うなよ。」

話しが逸れてしまうのは申し訳なかったが逸らさずにはいられなかった。

なんだかその言い方はムカついたのだ。

自分の価値をそう卑下するような言い方は。

僕自身が今までずっと人と比べられ続けてきたからかもしれない。

「なにを言っている?ボクは現魔王にサイコロをもとに創られた魔女だぞ?元々『物』。ただ心を与えられ人の形になっただけの無機物だ。」

本当にそう思っているのかリリハは淡々とそう言う。

「だとしてもだ!リリハがそう思っていたとしても、周りがそう思っていたとしても僕はそうは思わない。だから自分をそう卑下するのはやめろ。」

怒りで...なのか自分の声が少し震えていた。


「それは命令か?」

僕の気持ちは微塵も伝わっていないようでリリハは無表情で冷たい目を向けながらそう言うだけだった。

「...命令だ。」

違う。本当はそうじゃない。

だけど今はそう言うしかなかった。

「そうか、命令なら仕方がないな。今後はそうすることにしよう。」

「...ああ。そうだな。」

「よし、話が逸れてしまったな。では記憶補正を行おう。」

リリハはそう言って窓のそばを離れ僕の傍に近づく。

そして目の前まで距離を詰めた。

「な、なんだよ。」

「目を閉じろ。」

「えっ!」

この距離でそんなことを言われるとなにかイケないことでもされるのではないだろうか。

ハッと自分の口元に手を当てる。

それを見てリリハは僕の考えていることに気づいたのか顔を真っ赤に染めた。

「ばっ、馬鹿じゃないのか!キミは!そんな破廉恥なことなどするか!」

先程までの無表情とは打って変わってリリハはツリ目がちな目をさらに吊り上げて口を尖らせる。

「わ、分かってるって!」

「ああもう!いいからさっさと目を閉じろ!」

気恥しさは残っていたがなんとか目を閉じる。


そのまま1分ほど経ち眠気が忍び寄ってきたとき。

目を閉じてもリリハの雰囲気が変わったのが伝わって来た。

窓を開けているわけでもないのに室内に風が吹く。

そして自分の額に何かがこつんと当たったような感触がしーーー


僕の記憶が体に流れ込むーーー

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