権力者の証
ノックをして生徒会室の扉を開ける。
「あ、やっと来たわね。」
腕を組みますます強調された胸を揺らす彼女はーー
「リーゼ!」
「......。」
「ちょっと!立方体の魔女!なによ!その露骨に嫌そうな顔は!」
リーゼは長い髪を揺らしてそう抗議する。
「見てわからないのか。まさにキミが言っている通りだが。」
「ああ!もうなによ!そのいちいち鼻につく言い方は〜〜っ!」
「まあまあ!そのへんにして!リリハも!」
今にもリリハに殴りかかりでもしそうなリーゼの肩を掴んで止める。
肩に手を置いた瞬間リーゼは先程までの怒りの形相が嘘のように引き顔を赤く染めピタッと完全に硬直した。
なんだろうとリーゼを見下ろすと制服のネクタイに赤と黒のネクタイピンが目に付く。
赤の方は学年を表すもので僕も同じ物を付けている。
だけど黒い方には見覚えがない。
......いや、待てよ。
奥に座る会長さんに視線を向ける。
会長さんの制服のネクタイには緑と黒のピンがついていた。
「ご主人。」
その声でハッと意識を戻す。
「誰彼構わず胸を凝視する性癖はいかがなものかと思うぞ。」
「な!ち、違うに決まってるだろ!?」
「ちょ、ちょっとユーハ!」
慌てる僕と取り乱すリーゼの声が重なる。
そしてリーゼは肩を掴んだままだった僕の胸もとを押して距離を取って自身の豊かな胸を腕で覆った。
腕で胸が潰され形が変わる。
僕は慌てて視線を逸らし抗議する。
「違うって!そんな変な性癖があってたまるか!?僕はただその黒いネクタイピンが気になって......」
「ネクタイピン?...ああ、これね。」
リーゼはネクタイを持ち上げピンに視線を落とした。
「それは『十席』の証だ。同時に生徒会役員及びそれに準ずる組織者の証でもある。」
そう答えたのは会長さんだった。
「何色にも染まることのない、絶対的権力者の証...ということか。」
隣でリリハがそう呟いた。
「おおっと、もう時間だな。でははじめようか。」
会長さんのその言葉で僕たち3人は席につく。
「今日は事件に関する報告はない。だが、油断は禁物だ。現在は風紀委員が学内の調査に入っている。」
「僕たちはそれに参加すればいいんですか?」
そう聞くと会長さんは首を横に振った。
「君たちには今日『アインズ』に聞き取り調査に行ってもらおう。」
「『アインズ』?」
「ああ、ユーハくんは転入生だったな。だったらこの辺りの地理が分からなくても仕方あるまい。...『アインズ』というのはここから10キロほど離れた都市の名だ。貿易が栄えていて人も多い。まだ調査不足で学内のことしか情報がないからな。君たちには学外で何か犯人の動きがないかどうか情報収集をしてきてもらいたい。」
「はあ...なるほど......っていやいやいやいや!?10キロ!?そんなの移動するだけで日が暮れちゃいますよ!?」
「10キロなんて一瞬で行けるだろう?」
10キロを一瞬で移動するなんて普通の人間に出来るわけがない!どんな感覚してるんだ!?まさか光の速さで走れと?
どうやったってそんな距離を一瞬で移動できるわけ.........あ...
目の前でニヤニヤと笑うリーゼを見た瞬間会長さんの考えていることを理解した。
「今日ブリュレくんを呼んだのはこのためだからな。これでなにも問題はないだろう?」
「よし!じゃあ行くわよユーハ!」
待ってましたとばかりにリーゼは立ち上がり僕の腕を掴んだ。
「ちょっと待ってもらおうか!さりげなくボクを置いていこうとしていないか!?」
「...チッ......いえ、そんなことないわよ。」
「思いっきり舌打ちしておいて誤魔化すか。...ふふふ、いいだろう。その戦争、買ってやる。さあ!表に出てもらおうか!」
「だからケンカはストォーーップ!」
リリハの前に立ち体を張って止める。
そしてリリハの手を少し強引に掴んだ。
「ほら、これでいいだろ?これなら置いていかれるなんてことはないし。」
「...ふ、ふんっ。ご主人が言うなら仕方ない。」
そう言ってリリハはそっぽを向いた。
「...ま、1人おまけがついてくるのは不服だけど仕方ないわね。...それじゃあ、行きましょうか。」
「あ、その前に。」
リーゼが魔法を発動させる前に会長さんがその動きを止めた。
「『対策』はしてもらわないとな。」
「対策?」




