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ダイスの魔女と世界再築  作者: 成浅 シナ
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事件のはじまり

他とは違う見るからに立派な扉。


その前に僕は立っていた。

緊張からかノドがカラカラに乾き、背筋がピンと伸びる。

そんな僕を他所にリリハは慣れたように扉の前に進みノックした。

一歩下がりしばし待っていると内側からゆっくりと扉が開かれる。

「よく来たな。待っていたぞ。」

そう言い扉を開けた会長さんは僕とリリハを招き入れた。


中はとても広い空間だった。

中央には赤いカーペットが引かれ、会議などのためだと思われる西洋風の机が置かれており、その奥にはパソコンや書類などが置いてある会長席があった。そして壁側ぐるりと置かれた棚には書類や資料などからトロフィーなど多くのものが陳列されている。


案内された席に座ると会長さんが紅茶の入ったカップとお菓子を手早く並べ、紙の束を手に僕らと向かい合うようにして座った。

紅茶を飲むのを待っているのか会長さんは話を切り出さない。

口をつけないのも申し訳なく緊張で乾いた喉を潤すため紅茶を飲んだ。


「もう一杯どうだ?」

なくなりそうなカップの中を見て会長さんが席を立つ。

「いい加減本題に入ってくれないか。ボク達はここにお茶を飲みに来たんじゃないぞ。」

「分かっている。忘れたわけではないさ。」

サッと紅茶を追加してくれる会長さんに頭を下げてカップを持ち上げる。

「ご主人も分かっているんだろうな?」


そっとカップを置き、手を膝に置く。

いや、分かっていたけども...

なんか空気に負けていただけだったのだが...

なんて言い訳をしようものならリリハの言葉のナイフがさらに鋭さを増しそうだったので心の中に留めておく。


「それでは」と前置きし会長さんは紙を差し出した。

「これを見てくれ。」

そう言って差しだされた紙を覗き込む。

「これって......」


「つい1ヶ月ほど前のことだ。この学校で生徒が魔力を吸い取られるという事件が発生し出した。」

「魔力を?」

「幸いまだ被害者は多くはないがこれからも増えていくことが予想されている。」

「そんな...!犯人は...」

ハッとあの黒い影が頭を掠めた。


「『霊魂れいこん』だ。」

「れいこん?」

「『霊』の『魂』と書いて『霊魂』。この学校の『生徒だった』者達の未練の魂。」

会長さんの視線に促され資料に目を通す。


この世界では闘うことが当たり前。

そして、それは則ち被害者も出るということだ。

犠牲者のでない争いなどないことが当たり前。

この学校はそんな争いに向かう者を育成する場であったらしい。

そして...


「そして学校内でも特に優れた『戦闘能力』を持つ者......それが『十席』。」


そう、文化祭での大会ーーー『勝者の天秤 (リーヴル)』が行われるようになった真の目的は闘いに駆り出す『優れた戦闘員』を確保すること。


「だがどんなに優れた力を持っていても必ずしも勝てるとは限らない。最終的に命を落としてしまった過去の『十席』メンバーたちは自身をすり減らすほどの訓練をし、敵兵に理不尽に蹂躙された挙句......」

会長さんはその言葉の続きを言わなかった。


だが言わなくても分かる。十分すぎるほどに。

「あの影の正体はすぐに掴めた。だが、どうして1ヶ月前に突如それが現れ生徒を襲い出したのかは不明だ。そもそもあれが自分から発生したとは考えにくい。」

「...というと?」

「我々は、我々に何らかの恨みを持つ『死霊術師ネクロマンサー』による可能性が高いと睨んでいる。」

死霊術師ネクロマンサー......」

「調査によるとある目撃情報が入った。」

会長さんは手元の紙の束から1枚を取り差し出した。

それを受け取りリリハとの間に置く。

ざっと目を通していると何気ない言葉が目に入った。

「ふわふわ髪......」

その言葉からなんとなくフィナの姿が思い浮かんだ。

「はじめの事件での第一発見者が何者かが現場から立ち去るのを見かけたらしい。正体は未だ不明だ。」

その特徴がふわふわ髪ってわけか。

知り合ったばかりの知り合いの特徴に合っていたから目に止めたがそんなことはありえないとありもしない妄想を振り払う。

「そこでお願いがある。『立方体ダイスの魔女』さん。」

「この学校でその呼び方はやめてもらおうか。ボクはリリハだ。ボクはあくまでご主人の護衛としてこの場にいるんだからな。生徒会長?」

「わかった。では、リリハくん。どうかこの事件を解決するため、私たちに力をお貸し願えないだろうか?」

「だ、そうだ。」

頼まれているのはリリハなのに何故か返答を僕に丸投げした。

「え、僕!?」

「そうだろう?」

「ご主人の望むままに動くだけ」。何度もそう言っていたリリハの声が頭の中をぐるぐると回る。

「ユーハくん...!」

「うっ...」

会長さんが期待のこもった、少し不安そうな目で僕を見てきた。

そんな目で見られたら断るなんて選択肢を選び取れるはずもなく、もちろん初めからそんな選択肢はなかったのだけれど


「分かりました。受けます。」

僕はそう答えた。

「本当かっ!?ありがとう!感謝するぞ!」

会長さんは椅子から立ち上がり僕の手を両手で握った。

「では、これから毎日、放課後はここに来てくれ。自体を一刻も早く解決出来るよう尽力しようじゃないか!」

そう嬉嬉として言う会長と対照的に

「明日からは朝練に切り替えるか...」

とボソッとリリハが呟くのが聞こえた。


以前に何も起こらないつまらない毎日を卑下していたことがあったがそれはなんて幸せなことだったのかと今なら思える。


自分から望んだことではあるが転入2日目にしてどうやら僕はとんでもない事件に巻き込まれていっているようだ。

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