自問自答
「力を貸す...?」
その言葉の意味を瞬時に理解することが出来ずただ会長の言葉を繰り返す。
「どういうことだ。お前ならボクの力を借りずともどんなことにも対処出来るほどの力量を持っているだろう?」
リリハもそう疑問を口にする。
頭を上げた会長さんはじっと僕らを見つめた。
「少し長い話になるのだ。昼休みはもう終わる。悪いが放課後ご同行願えないだろうか?」
ご同行と聞くといいイメージがないのは何故だろう。
なにも悪いことはしていないはずなのに何かしてしまったのではないかと妙に不安な気持ちになってしまう。
だが...
「わかった。」
気がつくと僕はリリハの代わりにそう答えていた。
リリハが訝しげな目で見てきたのが分かったが今は置いておく。
僕の返事を聞き会長さんはホットしたように微笑んだ。
「そうか...では放課後迎えの者を...」
「...その必要はない。場所はどこだ?」
会長さんの申し出をリリハがキッパリと断る。
「では、生徒会室に。南棟の最上階だ。」
そこで昼休みの終了を告げる鐘の音が鳴り響く。
「ではボクらはこれで失礼するぞ。午後の授業に遅刻する訳にはいかないからな。」
そう言ってリリハは背を向けてスタスタと歩きだした。
「ちょっ、リリハッ!!」
僕は方向音痴とまではいかないが地理には弱く、若干迷いやすい傾向にある。
ここでリリハに置いていかれたら僕は午後の授業が行われる演習場に辿り着くことは出来ないだろう。
リーゼもいつの間にか姿を消していたので頼れない。
パッと会長さんに頭を下げ、僕は足をもつらせつつ慌ててリリハの後を追った。
※
「なぜ、面倒事を引き受けたんだ?」
演習場に向かう道すがら、リリハは僕の前を歩きながらそう質問した。
「なぜって...」
咄嗟には答えが出てこない。
とても困っているように見えたから?少しでも力になりたいと思ったから?会長さんが美人だったから?
自問自答をしてみてもしっくり当てはまる答えに辿り着かない。
あのとき僕はどうして了承したのだろう...
「僕は...さ......」
リリハを納得させられる理由は結局思いつかなかったけど
「頼まれたら断れない性格なんだ。」
昔からそうだ。
誰かに何か頼み事をされるとどうにも断れない。
それがどんなに自分にとって不利益なことでも。
僕という無価値な人間を必要としてくれる。
それがただ嬉しいのだ。
今回は必要とされたのは僕じゃなくてリリハのほうだけど。僕はただのおまけなんだけど。
それに......
「それに...なにか悪い予感がする。見過ごしたら取り返しのつかないような...そんなこと。それにせっかく頼ってくれたんだ。断るなんてもったいないよ。リリハの気持ちを無視して話を進めたのは...申し訳ないと思っているけど。」
あの得体の知れない黒い影が脳裏に浮かぶ。
「構わない。僕の全てはご主人だ。ご主人が望むのなら僕はその通り行動する、それだけだ。」
リリハはそう言って時間割表とペンをを鞄から取り出し今日の予定の欄にビーッと線を引いた。
「放課後の特訓は休みだな。その代わり明日は厳しめにするから覚悟はしておくんだぞ、ご主人?」
「お、お手柔らかに...」
ふっと不敵に微笑むリリハに僕は顔を引き攣らせながらそう言った。




