勝者の天秤
「大会?」
リーゼはゆっくりと咀嚼して飲み込んでからそう聞き返した。
次の日の昼休み。
午前の授業を終え、お昼をどうしようか考えているとリーゼに声をかけられた。
校舎の間にある他と違い人通りがない中庭のベンチ(僕作)に腰掛け弁当箱をつつく。
リリハは訳あってこの場にはいない。
「この学校には絶対的権力者を決めるっていう大会があるって聞いたんだけど」
そう言って玉子焼を頬張る。僕が好きな甘めの味付け。
早くもお弁当箱の中身は半分程が減っている。
ちなみにこの弁当もリーゼの手作りらしく、僕の分も作ってきたからと渡されたのだ。
断ることなんてもちろん出来なかったし、むしろありがたく頂戴した。
丁寧に揚げられた唐揚げ。焼き色のついたミニハンバーグ。甘めに味付けられた卵焼き、彩りとして添えられたプチトマトとブロッコリー、一つ一つの粒が立った白米。
どれもとても美味しくなんだか懐かしい気持ちを抱いた。
自分で思っていたよりお腹が空いていたのか、リーゼの料理が美味しすぎたのか、もしくはその両方の理由で箸が止まらない。
「ああ、『天秤』ね。」
「リーヴル?」
「その大会はこの学校の文化祭のときにあるの。まあ、文化祭といっても他方から毎年多くの人たちがくるから国を挙げてのお祭り、みたいなものかしら?その中で行われるのがその大会。各人が授業で得た技術や鍛えられた魔法を用いて闘う文化祭のイベントの1つ。通称『勝者の天秤 (リーヴル)』。」
「リーゼは出たことが有るんだよね?」
「ええ。去年ここの中等部にいた頃にね。参加者制限は特になかったから出させて貰ったわ。」
中等部で出場し、1年で『十席』入り。隣でこうして座っている分には特に気にしていなかったがその無邪気な笑顔の中にどれほどの力を合わせ持っているのだろう。
そんなことを考えているとパッとリーゼが箸を置いてじーっと僕の顔を見てきた。
「ユーハ。口にトマトソースが付いているわよ?」
「えっ、どこ!?」
慌てて口元を拭おうとリリハに言われポケットに入れっぱなしになっていたハンカチを取りだそうとするとリーゼがその手を優しく抑えた。
「待って、取ってあげるわ。」
そう言って微笑みリーゼは僕との距離をゆっくりと近づけ僅かに赤く染まった顔を近付けてくる。
「ちょッ!ちょーっ!?」
唐突なリーゼの行動に動揺しているせいか制しの言葉さえもまともに出てこない。
あと数センチーーーあと数センチ距離が縮まってしまえばリーゼの顔が僕の顔にーーー
「ちょっと待ってもらおうかっ!!そこの学生くん!!もとい!泥棒ネコ!!」
頭上からその声を聞いた瞬間リーゼと僕は慌てて体を過剰なまでに離した。
その声の主ーーーリリハはスーッと地上に降り立ちずんずんと僕の前まで進む。
そして僕のポケットからハンカチを無理矢理取り出して僕の口を拭った。
「痛い痛い痛い痛い痛いーーーっ!?」
とっくに口元の汚れは取れているはずなのだがそれでもリリハは力を入れゴシゴシと僕の口にハンカチを擦りつけた。
そして数秒間のお仕置きタイムが終わったあとリリハはハンカチを外しリーゼをキッと睨んだ。
「ボ・ク・の!ご主人を勝手に連れていくのはやめてもらおうかっ!」
「あら?勝手にだなんて人聞きの悪い。ユーハはちゃんと納得してくれたわよ?」
食べ終わった弁当箱を片付けながらリーゼはきょとんと(わざと)首を傾げ口の端を吊り上げた。
「キミが『瞬間移動』で無理矢理連れていったんだろうが!しかもボクにキャッチされないように形跡も残さず結界まで張って!!」
結界!?いつの間にそんなものがここにあったんだ!?
「それは貴方の落ち度でしょう?」
そう言われたリリハは『ぐぬぬっ...』と唸った。
「そ、それに何だ、それは!」
リリハはリーゼを睨みつけながら僕の手にある弁当を指さした。
「なにって...お弁当よ?私の手作りの。見れば分かるでしょう?」
「そんなことを聞いているんじゃないっ!どうしてキミがそんなことをわざわざするんだッ!不必要だ!」
食べ終わった弁当箱を包んだ包カバンにしまいリーゼは制服のスカートをパッとはたいて皺を伸ばし立ち上がった。
「そんなの私とユーハが『お友達』だからに決まっているじゃない!これは私とユーハのことよ!間に割り込んでこないでくれないかしら。」
「だから昨日も散々言っただろう!ボクはそんな爛れた関係など認めないと!」
爛れたって...
「私とユーハは清く美しく付き合っているの!そんな言い方は辞めてちょうだい!それに貴方が関与する事じゃないでしょう。私はユーハとお友達になったの。貴方は何も関係がない、ただの部外者よ!」
リーゼもリリハに対抗する。
何だか物言いが友達というより恋人を表現するそれみたいになっているけど、深くツッこむのはよそう。
『触らぬ神に祟りなし』って言うし。
「こうなったら決闘だ!ご主人をかけて今ここで倒してやる!!」
「ちょっとリリハっ!?」
「だったら受けてたってやろうじゃない!『十席』実力を持って貴方を成敗してやるわ!!」
「リーゼも!?ちょ、ちょっとストーーップ!!!!」
今にも戦闘が始まりそうな2人の間に割って入る。闘いだけは何としても避けなければならない。例え、この身が塵になろうとも。
「止めるなご主人!この泥棒ネコには体に憶えさせるしかないんだぞ!!」
「止めないでユーハ!この魔女に私をコケにしたこと!地獄で後悔させてやるんだから!」
ほぼ同時に2人がそう叫ぶ。
いつの間にかリリハの手には例のあの立方体が、そしてリーゼの手には短めの棒のような物が握られていた。
いつ攻撃が開始されても不思議はない。
つまり、いつ僕が塵になってもおかしくない。
だが2人を止めるためにもこの場所から動くわけにはいかない。
そして僕はただ叫んだ。
「校内は指導員の立ち会いなしの私闘は禁止だからぁぁーー!!」
そう叫んだのとほぼ同時に
「キャァァァァァァァァァーーーーッ!!」
そんな悲鳴が遠くから聞こえた。




