未完成図
「(頭の中に可能な限りの情報を集めその物を鮮明に思い浮かべる。)」
目を閉じ未だかつてゲームくらいでしか見た事のなかった『それ』の姿を強く思い浮かべる。
色、形、重量、構造、大きさ、手触り......
それらの情報を一つにまとめあげるように...
イメージを形にしやすいように目を閉じていたがそれでも自分の周囲が明るく光ったことが分かる。
「(こい...!)」
ここにあって欲しいと強く願うと明るかった目の前が暗くなっていくと同時に手の中にドシリとした重さを感じた。
硬くて冷たい感触。
目を開けて『それ』が確かに顕在している事を確認する。
「よしっ!!」
もう何度目か分からない挑戦の末、ようやく完成したことに思わず小さくガッツポーズを取った。
「あ...そうだ...」
だが自分では良い出来だと思うがガッツポーズを取るのはまだ早いと言うことにようやく気がつく。
そしておずおずと数メートル離れたところで一部始終を見ていたリリハに『それ』を渡した。
「お、お願いします...」
また駄目出しされるかもという不安が脳裏を過ぎり、手を引っ込めたくなる衝動に駆られたがリリハはそれを許すはずもない。
引っ込みそうになる僕の手から『それ』を取ってじっと見る。
クルクルと回してみてリリハは言った。
「...表面的構造...問題なし。」
まず第一段階はクリア。
ここまでくるのにもどれだけの失敗があったことか。
「...内部は......」
ゴクリと喉を鳴らす。
リリハは色々な角度から『それ』を眺め、『銃口』を覗き込みーーー
なにを思ったのか引き金に手をかけ銃口を僕に向けた。
「......ッ!?り、リリハッ!?な、なにを!?」
「不合格だ。」
その言葉で今回もまた失敗作を作ってしまったということが分かった。
「だからって...っ!!」
いくら失敗したからって僕を打つことはない!!
確かにもうリリハが予め設定した時間は党に過ぎ、この特訓を初めてからもう3時間は経過している。その間に創った『アサルトライフル』の数なんて数え切れない。
だって仕方がないじゃないかっ!そんな物ゲームの中でくらいしか見たことがないんだから!それにゲームで登場したライフルにも今まで注目したことなんてなかった。たいてい、それらが登場するゲームで遊ぶときは銃の構造より敵を打ち倒すことに集中する。
だが、戦うことが当たり前のようにあるこの世界にいるリリハにとってそんなこと言い訳でしかない。
上手くできたなら褒美を、失敗したのなら罰をだなんてよくある話だ。
ただ今回はその『罰』が鉛玉なだけで。
「(逃げないと...ッ!)」
瞬間的にそう判断して背を向けようと足を動かす。
だがその瞬間ーーー
リリハは引き金を絞りバンっと大きく音が鳴った。
死さえも覚悟しギュッと目を瞑る。
...............
......
「...あれ......?」
ゆっくりと目を開け、体に穴が空いていないか確認するためにペタペタと触る。
異常が何も無いことをしっかり確認し顔を上げると呆れたような顔で腰に手をやるリリハがこちらを見ていた。
「『不合格だ』と言っただろう?きちんと撃てるのなら不合格になんてしないさ。今回は惜しかったな。初めに比べるとだいぶ進歩はしたが...」
『どうして成功しないんだ』とでも言いたげな顔でリリハは手元の銃を見た。
本当に面目次第もございません...
「ねぇ。」
そこで今までずっと離れたところで僕の様子を眺めていたリーゼが声を上げた。
いつの間にか近くに寄っていたらしい。
「ユーハは本物見たことないでしょ?」
「あ、うん。そうだけど。」
「だったら見ればいいじゃない。」
「随分簡単に言ってくれるな。学生くん。」
「簡単なことだから言ってるのよ。立方体の魔女さん?」
睨み合った二人の間でバチっと火花が散った、ような気がした。
「演習場に行けばいいのよ。」
「今はもう閉校の時間だ。だからこうして中庭でやってるんだぞ。」
「知っているわ。知らないわけがないじゃない。」
リリハが体をピクピクと震わせながらも口の端を吊り上げる。
明らかにイライラしているのがわかった。
「ほう?だったらどうしようって言うんだ?が・く・せ・い・く・ん?」
よくぞ聞いてくれましたとでも言うようにリーゼは制服のポケットからジャラジャラと何個も鍵の付いたチェーンを取り出した。
「さ、行きましょ?ユーハ。」
袖を引っ張られて閉校した校内に向けて歩き出す。
「だ、大丈夫だから!自分で歩けるから!」
怒りの視線を何故か僕に向けて来たリリハに気づき慌ててリーゼから離れる。
『そういえばリーゼは学長の娘だったなぁ』っということをふと思い出した。