本日は曇天なり
明くる日。
せめて初めの日くらいは縁起を担ぐってことで晴れであって欲しかった。
あいにく空は灰色の雲が多い尽くし、今にも雨が降って来そうだ。
だが天気に文句を言っても仕方がない。
「さてと...今日の時間割は...と。」
「ご主人。これだ。」
リリハは何やら自信ありげに1枚の紙を手渡した。
この学校では時間割は個人に必要な授業を好きに取っていいことになっている。
つまり1日にどのくらいの数の授業を入れてもいいという事だ。
僕自身、自分の時間割はまだ把握していない。
リリハはどう組んでくれたのかな。
なんだかドキドキしながら手渡された紙を覗き込む。
「........」
一瞬何かの見間違いかと思った。
「どうしたご主人。あまりにも完璧すぎる時間割に声も出ないほど嬉しいのか?」
この学校の授業開始時刻は朝8時。そして授業の完全終了時刻は午後6時だ。
午前中は一般教養などの講義。そして午後は実技の授業が中心となる。
その授業が朝から夕方まで休みなく入っているという点はまあいい。
元々早く力をつけたかったから休む気なんてなかったしそもそも初めの1歩から他の人に比べて大きく出遅れているのだから。
だけど......
見間違いかな?
授業が本来入っていない場所に新たに枠が追加されてそこに何やら『これぞ・ザ・修行!』って感じのメニューがずらっと書かれていた。
「あのさ...リリハ......」
「何だ?」
笑顔のままでリリハはそう言った。
「この『滝行』って『あの』滝行?」
「まさか。」
そんなわけがないという言葉にホッと安心する。
だよな、魔法の特訓で滝に打たれるなんてことが...
「あんなちゃちな物と同じにしてもらっては困るな。安心しろご主人。威力はあげるからな。」
「そういう意味!?」
やっぱりするんだ!?
「まあ、ひとまずは学園に慣れることからだな。体調を崩したら元も子もない。今日は授業のみだ。その時間割は明日からだな。」
「...お気遣いどーも。」
「では行くぞ。時間が迫っている。」
「あれ?ちょっと待ってリリハ。...その格好で?」
リリハはこの学校の制服ではなくいつものワンピースタイプのドレスで頭には小さなシルクハットを乗せていた。
「ボクはこの学園の生徒じゃないからな。あくまでご主人の従者として、サポート役としているだけだ。制服を着る義務があるのは学生だけだろう?」
「まあ、それはそうだけど......」
「なにかあるのか?」
「いや、なにも....」
リリハに圧倒されて言葉が出てこなくなる。
なんだか話している途中から僕の方が何か間違っているのではないかと思ってきた。
「ご主人。良い機会だから言っておく。いずれ上に立つ人間がそんな曖昧な態度でいるのは不適切だ。1度口に出したことは自信を持って伝える義務がある。それに...」
途中で言葉を切りリリハは腕を組み直し顔を背けた。
「ボクは従者だ。ご主人の希望には必ず応える。下手に遠慮されるほうがかえって不愉快だ。それともあれか?...ご主人は...ボクのことが信用出来ないのか?」
「そんなこと...」
「まあ、いい。」
僕の言葉を途中で遮りリリハは両手を出した。
そして魔法を展開する。
「コード...衣装変換。」
そしてリリハは淡い光に包まれた。
眩しくて一瞬目を閉じる。
次に目を開けたときリリハは昨日あの名無しの少女が着ていたこの学校の制服に身を包んでいた。
「勘違いするなよっ。ご主人はこの学校の制服にえらくご執心のようだったからな。ご主人の好みに合わせるのも従者の務めだと思っただけだ。」
そう言ってくるりと体の向きを変え歩き出す。
「早く行くぞ。ご主人。安心しろ。ご主人に足りないものは全部ボクが請け負う。ご主人は今出来ることをやればいいんだ。」
やはりリリハには伝わっていたらしい。
僕が内心とても不安でいたことが。
その言葉は一見キツそうな言葉に聞こえるがその中に確かな温かさを感じる。
そして部屋を出たとき、僕の心にもう迷いはなかった。