今はチカラがなくたって
まあ、こういうことだろうとは思ってたけどね...
今僕はリリハと背合わせに座って風呂に入っていた。
もちろん、2人とも水着を着用した状態で、だ。
いや、ガッカリなどしていない。決して。
ただただ安心しているだけだ。
脱衣所につきいざ服を脱ごうというときにリリハはドレスに着替えたときと同じ魔法を使って鮮やかなドレス姿から赤と黒のスカートタイプのビキニへと服装をチェンジさせた。
時折自分からエロいことを言って僕をどうようさせ楽しむことはあるがあくまで冗談でだ。自分から仕掛けるのはいいがもともと恥ずかしいことが苦手なのだろう。
自分だけ着替えを済ませたリリハはボクをじっと見て目だけで『早く着替えろ』と言っているのが分かった。
だが、僕にはリリハのような便利な魔法は......
『あ、そうだ...僕の力は......』
そして現在に至る。
「ご主人は創造力が乏しいな。」
「なんだよ。いきなり。」
背中にあたる感触にドキドキしながらも平然を装いそう返す。
この体制はリリハが入浴するにあたって出した条件だ。もし360度どの位置から敵が来たとしても死角がないようにと。
「ご主人が生成した水着の事だ。」
「水着?」
別に何か変なところはない気がするが...
周りから視線を外すとリリハに怒られそうな気はしたが一瞬だけ視線を外して自分が今着ている水着に視線を落とす。
何の変哲もないトランクスタイプの黒い水着。これがどうして創造力が乏しいということになるのだろうか。
「ご主人は『熊猫』が好きなのか?」
「くまねこ?」
猫?嫌いではない...というかむしろ好きだ。
でもなんでそんな話に......
「パンダの事だよ。」
僕の勘違いに気づいたのかリリハはそう訂正する。
「なんでそんな話を?というか何で水着の話からそんな話に飛んだ?」
「...?飛ぶも何もボクは初めからずっと水着の話をしているのだが。...まあ、いいさ。後で着替えるときに水着の後ろを見れば分かることだ。」
初めは何を言っているのか全く理解出来なかったのだが頭の中で絡まった糸が徐々に解れていくように段々と話が見えてきた。
「...もしかしてこの水着...」
僕には見えていないだけで後ろに絵柄が...
「魔法は創造力なしでは使いこなせない。特にご主人の魔法はな。」
「僕の...力......」
「頭の中で強く思い浮かべるんだ。その完成図を。色や形だけじゃない。素材や質、味、匂い、手触り...思いつく情報の全てを集結させて一つの物を作りあげていくんだ。」
色、形、素材、質、味、匂い、手触り......
ふとあの日のことを思い出した。
リリハと出会う直前。
夕暮れに染まる河川敷で並んで座って食べたジェラート。
冷たくて...バナナミルク味のジェラートにキャラメルチョコレートが練り込まれていて甘いなかにもちょっと苦味が混ざっていて凄く...美味しかったな......
その瞬間、目の前が眩く光ったーーーように見えた。
そして突如目の前に現れた小さな物体を下に落ちる前に慌ててキャッチする。
「これって...あの時の...!」
そう、それは今思い浮かべていたあの日食べたジェラートだった。
「ほぉ、訓練も受けていないのにこんな魔力が分散しやすい場所で作り上げるとは...だが......」
そう言ってリリハは僕が持ったジェラートをそのままペロリと舐めた。
「やはりな。」
「やはりって...なにが?」
「ご主人もためしに食べてみろ。」
「えっ...!?」
食べるって...これを?
今まさにリリハが舐めた...
無意識のうちにゴクリと生唾を飲み込む。
リリハはその事に気づいているのか分からない...というか完全にこれは気づいてないな...
このまま僕がこれを食べると...その......間接キスってことになるんだが!?
どうしたものかとリリハの顔を見るとリリハは真剣な眼差しだった。
冗談でもからかいでもない真剣な顔だった。
気恥しさを押し殺しなるべくリリハが食べた所を避けてジェラートをひと口食べる。
「〜〜〜っ!!」
その瞬間悶絶した。そのあまりの不味さに。
あの日食べたあの美味しさとは天と地の差だ。
見た目はこんなにも同じなのに。
「なんで...?」
「イレギュラーなんだ。ご主人は。」
「イレギュラー?」
「十分に成長仕切っていない早い段階で魔法を授かり、それから何の訓練も受けていない。当然知識も皆無だ。ついでにいうと創造力も乏しい。前に魔力を暴走させたのがいい例だな。」
「でも...でも...僕はこの力をちゃんと使いこなしたいんだ!この国を...世界を帰るためにも...!リリハだけの力に頼りきるだけじゃダメだ!これからしようとしていることは...とても...とても大きなことだから......」
「だからこそいい機会かもな。」
「いい機会?」
「『王立ヴェルリード魔法学校』。」
「それって...魔王が言っていた......」
「そうだ。『王立ヴェルリード魔法学校』。この世界で最高峰の魔法を扱う学校だ。力を持つものが絶対的権力を持つ。そして参加希望の者を集い絶対的権力者を決める大会が催されているんだ。」
「絶対的権力者?」
「ああ、しかもその大会のルールがまた面白い。その大会ではな、必ずしも1人で参加しないといけないというわけじゃない。」
「どういうことだ?」
「最大5人までのチームを組むことが出来るんだ。その場合色々と制限はかかるがな。つまり1人で参加しても良し、5人で参加しても良しと言うことだ。」
「それって1人で参加したら不利じゃないのか?」
そもそも人数が違うのだから制限があるにしても5人の方が圧倒的に有利になる気がする。
「それがそうでもないんだ。まあ、いずれわかるだろう。......それで、どうする?ご主人?」
何を、というのは言われなくても分かっている。
「そんなの決まってる。」
無力なままなのは嫌なんだ。
自分に出来ることがきっとあるのに少しでもある可能性を全否定して1%でもある可能性を初めから0%にしてしまうのは絶対に嫌だ。
「行くよ。その学校に!」
自分の力を使いこなすためーーー
この世界を変えるためにーーー
「やってやるさっ!!」
月の輝く夜空にそう宣言した。