一難去ってまた一難
一応僕が主役ということで行われたパーティーはそれから数時間後にお開きとなった。
「ユーハ様。」
いつの間にそこにいたのか僕の後ろにはエルさんとエナさんが並んで立っていた。
やはり双子というだけあってこうして並んでいると本当にそっくりだ。
来ている服が違うからどちらがどちらかどうかが分からないというようなことはないが。
「このままお部屋に戻られますか?」
「それともご入浴になさいますか?」
エルさんとエナさんは交互にそう言う。
事前に示し合わせたかのように息ぴったりだ。
「どうしよっかな......」
色々な事がありすぎたからか身体的にも精神的にも疲れが溜まっていた。
正直もう今日はこのまま布団に倒れ込んで眠りにつきたい。
だが毎日入浴しないと気が済まないという習慣がついているので風呂には入っておきたかった。
「先に風呂にします。案内をお願い出来ませんか?」
「かしこまりました。」
「ではご案内致します。」
エルさんとエナさんはピッタリと同じタイミングでペコリと頭を下げ案内をするために方向転換した。
「いちいちそんな面倒なことをするのか?」
その行動を止めたのはリリハだ。
「ボクにはそんな面倒なことをする意味が分からないな。魔法を使えば身を清めることくらい容易い。なぜそんな時間のかかるようなことをするんだ?」
そうだった。
僕にとっては習慣だったから何も考えずに受け入れていたがこの世界には『魔法』といういわば何でもありな物があるんだった。
リリハにとっては身を清めるということは魔法で行なうことが当たり前で普通のことなんだろう。
みんながみんな同じ習慣であるわけがない。価値観なんて人と違うのは当たり前のことだ。
どう説明すればいいのか...
「リラックス?とかかな......」
上手く説明出来ず結局そんな答えしか思い浮かばない。
それを聞いてリリハはますます眉を顰めた。そりゃそうだ。自分でも分からないことを相手に伝えることなんて出来ないんだから。
「それをしてどうなる?風呂など1番危険な場所ではないか。身を守る加護のある服を脱ぎ、無防備になる。当然武器も持てない。注意力も散漫になるだろう。その状況でもし敵に奇襲を受けたらどうするつもりだ?」
おぅ...そう来たか......
その言葉だけでここがどんなに物騒な場所であるかよーく分かった。
まだまだ目標には程遠いということか。
「ま、まあ、いいじゃないか。僕は好きなんだよ。」
「ふんっ、これから世界の再建をしようと大きなことを言った奴がそんなに無防備ではいかんな。......だがご主人の望みならば仕方がない。但し条件がある。」
諦めた様子でそう言いリリハは腕を組んだ。
「条件?」
「ボクも同行しよう。」
「......は?」
同行?それって…つまり......
「一緒に入るってこと...?」
「それ以外に何がある?」
当たり前だとでも言うようにリリハはそう言った。
「いやいやいやいや!おかしいから!?」
「何がおかしいんだ?ボクを侮って貰っては困るな。例え身ぐるみを剥がされ無防備な姿になったとしても戦闘力としては申し分ないぞ?『本気』は出せないが純粋な魔法での攻撃でそこいらの雑魚に負けるつもりはないさ。心配するな、ご主人。」
いや!心配しているのはそこじゃなくって!!
「...い、一応僕、お、男なんだけど...」
まさかその事を認識されていないはずがないと思いながらも念の為言っておく。
「ああ、そうだな。それがどうした?」
だめだ!全然伝わってない!
「だ、だから!...その、は、恥ずかしいんだよ!?僕が!」
いい年にもなって異性と入浴なんて出来るはずがない!
「...?大丈夫だ。ご主人が見た目通りの細い体をしているのは承知している。今更見たってガッカリするなんてことはしないさ。もう夜も遅い。さっさと行くぞ。ご主人。安心しろ。何があってもボクが守ってやる。この創りものの命に代えても。おい、使用人。さっさと案内しろ。」
しれっと傷つくことを言われた。まあ冗談...というか軽口のようなものだから一々気にしてはいられないけど。こんな言葉に一々気にしていたら僕のHPはすぐにゼロになってしまう。
いや、それよりも問題はそれじゃなくってっ!
もう段々と引き返せない状態になってるような気がする。気のせいか?...いや、絶対気のせいなんかじゃない。
リリハの介入でしばらく放置されていたエルさんとエナさんはリリハに呼ばれるとビクッと体を震わせ「「か、かしこまりました。」」と言い案内を開始した。
「どうした。行くぞ。ご主人。」
確かに風呂に入りたいと言ったのは僕だがどうしてこんなことに......
エルさんとエナさんに付いていきながらこれから待ち受ける無理難題にどう挑もうかと僕は頭を抱えた。