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7 勝負師の外出

 一歳の誕生日を迎えてから、少しの月日が経った。

あの日、ようやく言葉らしきものを話せたことがきっかけだったのか、俺は一人で歩くことが出来るようになり、簡単な意思疎通を、言葉で出来るようになった。


 一人歩き出来るようになってすぐは、母さんもハラハラと、心配気にこちらを見ていたが、今ではもう慣れた様子で落ち着いて俺を見るようになる。

加えて、俺と簡単かつ拙いながらにも会話できることが嬉しい様で家事の合間に暇を見つけては俺と喋っていた。

そのお陰だろうか、日増しに自分の滑舌は良くなり、しっかりと喋れるようになってきた。


 そんなある日、俺は始めて外に出ることになった。

今まで大きな病気等しなかった事に加えて、どうやら予防接種を受ける事も無い世界のようで、外出の機会が無かった。

買い物等どうしていたのか尋ねると。


「宅配を頼んでいるのですよ」


 との事。

なるほど、確かにそれなら外へ出る機会がなくなるのも頷けるが。

俺の目には、あまり外へ出かけようとしたがらないように見えた。


 だが、この前、始めて魔法という物を見たこともあり、この世界という物を知りたいという好奇心が俺には芽生えていた。

だからこそ、俺はまぁ子供らしく……か、どうかはわからないが、母さんにお願いしたのだ。


「母さん、僕、外に出てみたいです」

「フェイト……」


 思えば、俺はこのキッチンがリビングと繋がっている部屋と、すぐ近くの寝室以外に出たことがない。

多分、母さんも心の何処かでそれはまずいと思っていたのか、難しい顔をしていたが。


「わかりました、フェイトがそう、望むのであれば」

「はい、ありがとうございます」


 と、そう言った運びで外出することになったのだ。


 ちなみに、俺は母さんの敬語が移ったようで、普通に喋ろうとすると何故か敬語になるという不思議な事になった。

……心の中は汚い口調ではあるのだが、どうも口に出すと変な感じだ。

 

 まぁそんな訳で、俺は母さんの足元をチョロチョロと歩きながら今、家の外に出た。


 石畳の街路。

何処にも見当たらない車。

澄み切った青い空。

コンクリート、アスファルト等何処にも見当たらない。

俺の視界に映る景色に、前の世界で見慣れた、冷たい景色は何処にも映らない。


 あぁ、この世界は、美しい。


 俺は、そう思った。


 振り返れば、自分の家。

玄関から出て、すぐに門ではなく、大きく広がっていた庭からも予想していたが。


「家、こんなに大きかったのですね、母さん」

「……そう、でしょうか、いえ、そうなのかも知れませんね」


 二人で住むには、広すぎる家だと思います。

そう、母さんは少し悲しげに笑いながら俺に言った。

俺にはまだ、母さんが悲しげに言う理由はわからないが、今は、この世界を感じよう。



 電線の繋がっていない街灯を見ては。


「母さん、あれは何ですか?」

「あれは街灯、暗くなると、魔法で灯りが灯ります」


 光り輝く、変な模様を見ては。


「母さん、あれは?」

「あれは、転送魔法陣ですよ、決まった場所に、あの魔法陣を使って行くことが出来ます」


 ひたすら母さんに聞き続けた。

聞く事、一つ一つに母さんは丁寧に答えてくれる。

多分、年相応……か、わからないが、俺の目は今輝いているんだろうな。


 だが、そうやって周りを見ているうちに気づくことが一つ。

母さんを見て、ひそひそと、俺達に聞こえないように何かを話す、町の人がたまにいる。

そんな人が居ることを、母さんももちろん気づいており、表情を少し暗くしている。


「母さん? 何処か痛いところでも?」

 

 その言葉に、はっとして、母さんは少し無理やり笑顔を作る。


「何もありませんよ、フェイト。そうだ、折角のお出かけです、公園に行きましょうか」

「はい、ですがその前に」

「フェイト……?」


 何となく、コレ、が母さんが外に出たくない理由なのかとも思ったが、本人が何もないという以上、俺に出来ることは。


「あの、母さんに何かあるのでしょうか?」

「え?」


 こちらを指差し、ひそひそ話をしていた人に。


「そんな事をされたら、誰だって、気分が悪くなります。母さんもそうです、やめて下さい」

「え……え……?」

「失礼します」


 注意するくらいしか出来ない。

注意した人間はこんな小さな子どもに言われたからか、酷く動揺していたが。


「……気味の悪い子供、コレだから淫売は……」


 と、その場を離れる俺に向けてそんな言葉を言っていた。

やれやれ、何処にでも居るんだな、ああいった輩は。


「フェイト!」

「すいません、母さん。無断で離れてしまいました」


 急ぎ、駆け寄ってくる母さんに謝る。

だが、なるほど、コレが母さんが少し迷っていた理由か。


「母さん、やっぱり、家に戻りましょう、僕、少し疲れてしまいました」

「フェイト……」

「帰りましょう、母さん」




 家路に着く俺と母さん。

少し俯いて歩く母さんに、どう言ったらいいものかと悩んでいる内に、先に母さんが口を開いた。


「すみません、フェイト、こんな母親で」

「え?」

「私は……そうですね、あまり綺麗な生き方をして来ませんでした」


 俺と目を合わさず、未だ俯き加減で母さんは話す。


「だから、こうやって外へ出ると、ああいった方は居ると思っていました、嫌な思いをさせてすいません、フェイト」

「母さん……」


 あぁ、これは俺が思っていたのとは少し違ったようだ。

自分が嫌な思いをするから出たくなかったのではない。

後ろ指を刺される母親の姿に、嫌な思いを感じさせたくなかったから出たくなかったのだ。


「母さん、そんな顔をしないで下さい」

「ですが、フェイト……」

「僕は、今日、嬉しかったです」

「嬉しい、ですか?」

「母さんと一緒に出かけることが出来て」


 その言葉に母さんは言葉を詰まらせる。


「母さん、僕は何も嫌な思いなんてしていません、僕の方こそ、我儘言ってごめんなさい」

「いえ!そんな我儘だなんて!」

「僕は、母さんの子供で嬉しいんです。嬉しいことしかありません、嫌な事なんて何も無いんです」

「……」

「だから母さん、笑って下さい。今日は、一緒に始めて出かけることが出来たんですよ」

「……そうですね、はい……その通りです……」


 そういう母さんの目には少しの涙が浮かんでいて。

それでも、母さんは笑ってくれた。

そして、その俺が好きな笑顔で。


「フェイト、抱っこさせて下さい」

「え?」

「疲れたでしょう? もう少しですが、残りはこうやって帰りましょう」


 と、俺を抱き上げた。

腕に抱かれた俺は、少し戸惑いながらも。


「ありがとう、ございます」

「いいえ、こちらこそ」


 笑いながら母さんは俺を抱きしめた。


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