5 勝負師の自我
さて、赤ん坊の自我と言うものはいつ目覚めるか。
俺は、まぁ自分の子供なんて居なかったし、赤ん坊の生誕を祝う、なんて周りで無かったもんで。
残念ながら赤ん坊に詳しくない。
「あらあら、どうしましたか? オムツですか?」
「おぎゃー、おぎゃー!」
俺はどうやら泣いているらしい。
目の前の女は、少し困った様子だが笑顔で俺に目を向けている。
「うーん、でも、オムツは先程変えたばかりですよ?フェイト」
「おぎゃー!おぎゃー!」
困らせているのも忍びない気持ちで、泣き止もうと努力はしているんだが……。
どうにもうまくいかない。
『それは、まだ貴方の自我が芽生えていないからですよ』
『!? ……びっくりしたじゃねぇか』
急に、頭に聞こえた言葉に驚く。
この声はさっき聞いたような……。
『はい、貴方の女神です』
『いつから俺のになった……?』
『あはは、まぁ良いじゃありませんか、ちょっとしたサービスです』
何が、サービスだ……。
んで?自我が芽生えていないからってのは何だ?
『自我……つまり、貴方がこの子にまだ宿っていないのですよ』
『はん?』
『もちろん、この子はフェイトで、貴方です。ですが、赤ん坊は生まれたときから自分ではないのですよ』
『自分じゃない?』
『ええ、聞いたことありませんか?赤ちゃんは暫く、神様の化身だって』
『……生憎、知らないな』
『あら、それは失礼しました』
ふと、自分が持ち上げられる感覚。
そして、目の前の母親と思われる女は。
「そうですか、お腹が空きましたか」
と、惜しげもなくその服から、乳を出した。
『ほほう……これはこれは』
『……じー』
『あん? いや、別にいいじゃねぇか、こいつはなかなか拝めないレベルの乳だぜ?』
『……不潔です! 授乳とはある種神聖な儀式でもあるのですよ!』
『生憎、そういった事には疎くてな』
『知りません!』
俺は、そのまま母乳を飲む。
不思議と身体が思い通りに動かないだけで、感触や味等は分かるらしい。
へぇ、こいつは……。
『なかなか、美味いな?』
『不潔……変態……こんな人だとは……』
『いや、知らねぇよ』
「たくさん飲んで下さいね、元気に、大きくなるのですよ」
そう言って、母親は子守唄の様な物を歌いだした。
む、いかん……物凄く、眠くなる……。
『仕方ありませんよ、そういうものです』
『そういう、ものか……』
『はい、今はお休み下さい、また、後ほど』
俺は、不思議と安心する、その歌声に身を委ね、意識を手放した。
意識は浮上する。
目を覚ました時、先程とは何か違う感覚がある。
その感覚を確かめようと、横を向く。
「う?」
となりには母親が眠っている姿。
どうやら、俺はこの体を自由に動かせるらしい。
要するに。
『おはようございます、お目覚めはいかがですか?』
『こりゃ……自我が芽生えたってことなのかね』
『ええ、そのようです、もう身体をある程度動かせるでしょう?』
そう言われて、んっと力を込める。
『動かねぇ……』
『はぁ……そりゃ、一歳に満たない乳飲み子が、いきなり立ち上がれるわけ無いでしょう?』
『あー……そういうもんか』
『最初は寝返りからですよ』
言われて、寝返りを打つ。
あ、やばい。
「ふにゅ!?」
「あー……」
勢いつけすぎて、母親にぶつかってしまった。
悪りぃな……。
『って、喋られないんだが?』
『一歳に満たない乳飲み子が……』
『あーはいはい、そうだわな?』
視線を母親に向けると、母親は目を擦りながら俺を見て。
「まぁ……寝返りをしたのですか? すごい……」
と、目をうるうるさせた。
あらま、感動してる。
『母親とはそういうものですよ』
『そうなのか』
何分、母親ってもんを知らないもんでね。
イマイチ勝手が分からねぇ。
「……フェイト、ありがとうございます、また一つ、貴方に愛情を頂きました」
そう言って、俺を抱きしめる。
俺の頬に唇の感触、あぁ、どうやら頬にキスされたらしい。
……なんだか無性に照れるな。
『ふふ、やはり親子の愛とは良いものですね』
『さぁ……俺にはいまいちわかんねぇよ』
『素直に受け止めれば良いんです、今の貴方は、全力で愛される立場なのですから』
『ふーん……』
とりあえず、嫌な気分じゃない。
喜ばれるってのは、悪くない。
そう、俺は思った。
「ですが、今は眠る時間……お乳を飲んだら、眠りましょうね」
そう言って、寝間着からまた、その綺麗な乳房を取り出した。
うむ、何度見ても良い乳だ。
『……変態』
『全力で愛される立場なんだろう?』
『うー……何か違う気がします……』
ともあれ、俺は乳を飲む。
そして、暫くの後、あの子守唄が聞こえ、俺は再び眠りについた。
「愛していますよ、フェイト……」
再び頬に唇の感触を感じながら。




