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2 勝負師の末路

 あぁ、ドジっちまった。

確かに、今日はツキが無いとは感じていた。

サイコロの目は六を99回しか連続で出せなかったし、ゾロ目は44回止まり。

俺とした事が、そんな調子で外へ出る、なんてしたのがまずかった。


 目の前には、今にも俺に飛びかかろうとしている男達。

ご丁寧に、白いハンカチに包まれた物を胸元から、ちらつかせているヤツが一人。

他の3人は手にしっかりと短刀ドスが握られている。


「要件は……言わなくても分かるよな?」

「さぁてね?俺にはさっぱりわかんねぇな」


 大凡、俺を囲いたいか、仇討か。

前者だったら、まぁ、もちっと穏やかだわな。

あんま考えたくねぇけど、後者かね。


「しらばっくれやがって……! てめぇのイカサマのせいで何人破滅したと思ってやがる……!」

「あん? イカサマ? 毎回言われるがな、俺はサマなんて一度もしたことねぇよ」


 イカサマなんて邪道だ。

まぁ、磨かれすぎた技術ってのは、そう思われがちだってのは分かるがな。


「それに、だ。そっちには降りる権利だってあるんだ、それをしなかったのは、アンタ等の方だぜ?」

「うるせぇ!」


 あーあー……ついに抜いちまったか。

確かに人目の無い路地裏、時刻は25時。ま、そうそう気づかれないわな。


「ったく、めんどくせぇ奴等だ」

「へへ、覚悟しろや……死神ぃ!」


 短刀ドスを持った一人が、獲物を振りかぶり、突っ込んでくる。

いやいや、ソレの使い方はそうじゃないだろ? 人を刺したいなら、両手で腰に溜めて構えろ。


「なんだ、素人かよ」

「!?」


 引きつけて、横に避けると同時に足を払う。

景気良く前方にゴロゴロと転げたそいつを確認すること無く、近くにあったゴミ箱を前の奴等に思いっきり蹴り飛ばす。


「うわ!? 汚ねぇ!」

「はっ! それはてめぇらの根性のことか?」


 言いながら、真っ先にハンカチ持ちの男に飛びかかり、その獲物を奪い、グリップ部分で頭を強打する。

「がっ!?」なんて言いながらそいつは地面に倒れる。

バカだねぇ、持ってるなんて思われたら、狙って下さいって言ってるもんなのに。


「テメェ!」

「おっと」


 ゴミ塗れから、いち早く復帰した男が体当たりしてくる。

当然、俺は相手すること無く避け、そのまま路地裏の出口へと走る。


「逃げるのか! 死神!」

「そうだよ、付き合ってらんねぇからな!」


 後ろから聞こえる口汚い言葉に、相手する事なく走る。

やれやれ、調子悪いと思ったら出かけるのは控えたほうが良いな。

そんなことを考えながら、死地を脱することに成功する。




 昔、俺を育てた人は言っていた。


「行き過ぎた力ってのはな、時には卑怯と捉えられるんだ」


 俺の周りには、何処か、影を背負って生きている人間ばかりで。

身体を商品に金を稼ぐ人とか、家の為に人を殺す人。

そして、そんな人が大勢いる、夜の街に産み捨てられた、俺を拾い、育てた変わり者。


 その変わり者は、夜の街の有名人だった。


『ダイスの神様』


 なんて呼ばれていた、その爺さん。

夜にふらっと居なくなり、朝になって大金を抱えて帰ってくる。

時に生傷をこしらえて帰って来たりもするが、笑いながら。


「こういう日もある」


 なんて、ガハハと笑いながら、俺の頭を乱暴に撫でる。

そんな爺さんに俺は育てられた。


「振ってみろ」


 と、ある日、爺さんが俺にサイコロを振らせた。

湯呑みにサイコロを入れて、床で蓋をし、二つのサイコロが偶数か奇数か当てるゲームをする、と。

最低限のやり方だけ俺に教え、目の前にどっかりとあぐらをかき、俺の様子をじっと見る。

わけがわからないまま、振ったサイコロの目は六と六。

その出目に爺さんは、にやり、と笑うと。


「続けてみな」


 と、続きを促す。

その時、そのゲームが終わるまで俺はずっと、六と六を出し続けた。


「よし、これはお前の取り分だ」


 そう言って俺の目の前に札束が置かれる。

俺の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていたが、そんな俺の頭を、いつもの様に乱暴に笑いながら爺さんは撫で。


「お前は、俺を超える」


 と、満足気に笑った。


 その日から、爺さんは俺にサイコロを毎日振らせた。

茶碗に投げたり、湯呑みに入れたり。

時に、「そうじゃない」と何かの間違いを指摘されたり。


 そんな日々は、俺が20歳になった頃、爺さんが何処かの誰かに殺されて終わった。

それを知ったのは、爺さんと住んでいたアパートに乗り込んできた黒服連中の口からで。


「お前が、神様の後継者だな」


 と、そのまま俺を連れ出した。

 



 連れ出された後からは、ひたすらサイコロを振る毎日だった。

時に、賭博場で。

時に、大物政治家相手に。

時に、どっかの家の偉いさん相手に。


 そして、その悉くを破滅させた。

その全ての勝負に勝った。その結果、相手は破滅した。

そうして俺は『ダイスの死神』と呼ばれるようになった。




 「もう、何年になるのかねぇ……」


 街を家路へと向かいながら、今までを、軽く振り返りながら、ボヤく。

結局、爺さんが死んでから、俺がやってたことは何だったのか。

多くの破滅を見て、多くを殺して。

その結果、こうして逆恨みされてたまに殺されかける。


「爺さんも、こんな生活を送ってたのかね……」


 俺を育てた爺さん。

爺さんが死んだと聞かされた時は、そりゃまぁ、喪失感は感じた。

なんとなく、爺さんはいつ死んでもいい様にか、俺に必要以上に干渉しなかった様に思う。

爺さんから巻き上げた金で、夜遊びしようが、何しようが。

怒ったりもせず、悲しんだりもせず。

ただただ、俺にサイコロを振る技術だけを教えていた。


「だからかね……そう、心が動かなかったのは」


 結局、俺は友達だとか恋人だとか。

そう、家族だとか。

そういったモノがわからない。

だから、どう悲しめば良いのかわからない。

あの時感じた喪失感は果たして悲しみだったのか。


「俺も、どっかでガキでも仕込んでおいたら良かったか?」


 今となっては、それも、もう無理か。

ふと、ガラスに映った自分を見る。


 皺の目立ってきた顔。

白髪が8割を占める髪。


「あぁ、もう爺さんが死んでから、40年になるのか」


 ゴミ箱なんて、よく蹴飛ばせたな、と苦笑いしてしまう。

そうだった、俺はもう、一般的にはジジイの部類だった。


 クク、と笑いながら歩く。

周りを歩く人間は訝しげな、視線を投げてくるが、知ったことではない。

というか、もう良い時間だろう?お前ら何やってんだ。

いや、此処はそういう場所だったな、夜の街は、まだまだフル稼働中だ。

あぁ、何処かに俺みたいなガキは転がってたりしねぇもんか。


 そんなことを、考えながらだったからか。

戸締まりをして出かけたはずなのに、カギが掛かっていない、ドアに危険を感じなかったのは。

 

 だからだろうか、ドアを開けた瞬間に心臓の位置に走る衝撃に、痛みを感じなかったのは。


「ぐ……は……」


 目の前に映る、拳銃を構えた、何かが笑みを浮かべる。

その事を認識した時。


「む、無念……」


 なぜだろうか、無念と、感じたのは。

最後に浮かんだ無念の気持ちを疑問に思いつつ、俺の意識は闇へと沈んだ。


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