俺、拾われて祀られる
そうして、うっかり瞑想しすぎて、三度太陽が沈み、三度太陽が昇った頃……
ザッ ザッ ザッ
足音が聞こえてきた。異音に気づき、瞑想から意識を引き戻す。
大地を踏みしめるかすかな音。雀の涙ほどの音が、徐々に大きくなっていく。確実にこっちに近づいてきている!!
そうだ、こっちだ、こっちにこい!!
そしてついに、足音の主はその姿を現した。
ごたーーーいめーーーーんっ!!!!
「ギチュ?」
…………ん~~~~~~???
ネズミ男だった。
妖怪ねずみ男でもなければ、夢の国の○ッ○ー○ウ○でもない、正真正銘のネズミ男だ。
全身薄汚い毛に覆われ、真っ赤な目をもち、長く細い無毛の尻尾。細い腕と足、そして粗末でミニマムなナニ。ドブネズミを二足歩行進化させたような出で立ちだ。早い話、モンスター。
そして俺、気を取り直して心眼っ。
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Name:なし
種族:リトルラットマン
Lv.4/10
攻撃:D 防御:E 速度:D 体力:E 魔力:E 技術:E 幸運:S
スキル:なし
称号:ラッキーマン
最弱の鼠モンスターの子供。基本的に群れで生活し、群れを存続するためには共食いも辞さない。
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[ラッキーマン]って……あんた……。
幸運以外クソステだが、つまりはこの個体だけが特別幸運だってことか。そうでなければ[ラッキーマン]なんて称号を持っているはずがない。
あ!!そうか!!だから俺の前にこいつが現れたんだ!!真っ先に!!第一発見者という立場で!!黄金の塊を拾えるという幸運!!つまり、この一連の流れはこのネズミがいる時点で必然な流れだったんだ。
最初に拾われずに取り残されたことも。2%を引き当てて金のサドルになったことも!!全部こいつのせいだ!!!
……んなわけあるか、すまん。どんな低確率やねん。
目の前のこいつはまんまねずみの顔だが、驚きに満ちた表情であることはわかる。
目の前に光輝く黄金の鉄の塊でできた意味不明の物体が落ちている。そりゃあ驚くだろうよ。俺だって道端に100万円が帯付きピン札で落ちていりゃあ驚く。1万円でも1000円でも、いや、五百円玉でも驚く自信はあるさ。
要は幸運に慣れていないのだろう。となると生まれて間もないか、あるいはこれが初めてのひとり遊びかもしれない。
「ギチュ!!ギチュチュ!!」
怪人リトルネズミ男は両手で俺を持ち上げると、よたよたとどこかへと向かって歩きだした。
かなり辛そうだ。金属の塊だものなぁ、そりゃ重くて当たり前か。進化前ならまだ若干軽かったんだろうが……。
しかしなんだ、なんていうか、また誘拐されるっていう流れだけど、焦りとかそういうのが全然ないわ。
行き先はコイツの巣穴だろう。具体的には宝物庫的な場所だと予測できる。モンスターの巣穴の宝物庫的場所ならば、人間の討伐隊によって滅ぼされたあとに回収されるだろう。
最終的に人間に拾われるならばそんな遠回りではない。誰にも拾われず、ずりずりと念力→大瞑想→念力→大瞑想……を繰り返して体をずり動かし、亀の歩みよりもはるかに遅いであろう、気の遠くなるような行軍をするよりはましだ。
ただ待てばいいのだから!!つまりニート状態!!
さあ、ねずみくん、重いだろうが頑張って俺を運ぶのだ、フハハハハ!!!
……いやマジで頑張って。重くてもう嫌だって投げ出すとか絶対しないで、マジで頑張って!!
そんなこんなで、俺はどことも知らぬ洞窟の奥に運ばれた。
ネズミ小僧はふたまわり大きい群れのボス格のねずみ男に俺を引き渡すと、大量のきのみやら肉を受け取って嬉々としてかじりついた。良かったな&おつかれさん。
で、俺はといえば、巣穴の奥の祭壇的な櫓の上に敷かれた毛皮の上に置かれて、お宝扱いされている。上がちょうど吹き抜けになっていて、太陽光が入り込むようになっている。なもんだからよく光るマイゴールデンサドルボディ。
常時太陽拳状態といえばいいか。黄金ボディに反射して昼は100万ワットじゃ!!
お宝というよりは、御神体とかいう方が適切だろうか?毎日毎日、朝っぱらの決まった時間に、「ギチュギチュ!!ギチュギチュ!!」とウホウホ伏せて拝みを繰り返す。そんな感じで1ヶ月が過ぎた。賑やかなのはいいことだ、ほんとそう思う。
まあ、たまには静かな朝を迎えたいって思うけどなー。
ちなみに、以下がこのラットマンの群れボスのステータスである。
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Name:なし
種族:ラットリーダー
Lv.52/70
攻撃:B 防御:D 速度:A 体力:C 魔力:D 技術:D 幸運:C
スキル:毒爪 毒牙 暗視 忍び足 気配遮断 変わり身 分身 統率
称号:森の暗殺者 群れを統べる者 同族喰い
鼠モンスターの上位種。群れを統率し、手足のように使役することができる。また、統率された鼠モンスターの全能力を一段階底上げするため、非常に危険。群れの規模によっては、国家を滅ぼすほどの危険性を孕んでいる。
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こんな感じ。紙装甲、ネトゲて言うところのSTR・AGI型アサシンというやつだ。実際称号に[森の暗殺者]ってあるし。
で、こっちが大人のラットマンのステータス。
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Name:なし
種族:ラットマン
Lv.20/35
攻撃:C 防御:E 速度:C 体力:D 魔力:E 技術:E 幸運:D
スキル:毒牙 暗視 忍び足
称号:同族喰い
生存能力が高く、生き残るためには共食いも辞さない。生き残れば高確率で上位種であるラットリーダーへと進化する。1匹見つけたなら10匹はいると思え。
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解説がゴキちゃんを連想させてしまう。能力は完全にラットリーダーの下位互換だ。……ステータスだけで見れば、なんだがね。
ここに、ラットリーダーの統率が乗ることで能力値だけで見ればラットリーダーと遜色ないレベルにまで上がるようだ。
人間の……まあ、ふたり分しかステータスを見ていないが、あの二人と比べるとおっかないことこの上ない。まず現代人が素手で勝てる相手ではないだろう。
この群れの規模はまだ小規模だ。一度表に出されて祭壇に置かれ、火を囲んでのウホウホ祭りを見た。大量の肉に大量のきのみ、踊るねずみに舞うねずみ、肉を貪るねずみ、ねずみ尽しだ。何かしらの信仰がこの群れにはあるのだろう。俺が祀られているのも、それに関係していると見ていいと思う。
……そうじゃない、規模の話だったな。
群れの総数は50ちょっと。雌の腹が大きくなっていた個体がいくつかいたため、もう数日もすればさらに増えるだろう。一度の出産で複数生まれるならば、爆発的に群れが増えるはずだ。
で、あるにもかかわらず、まだ総数が50程度ということは、この群れは比較的若いと推測するに足りる。あるいは、同族喰いを経て数が減ったためかも知れない。
兎も角、このラットマンというモンスターは、戦闘力をもつ統率されたゴキちゃんのようなものなのだ。さすがに火星で生存できそうにはないが……。
ひと月前に優花さんを助けたあのイケメン、ゼト=ペルニクルスの職業と、纏う衣類からして、間違いなく文明は存在する。蛮族が石斧片手にウホウホ言い合うんじゃあない、まともな文明。どんな形の国家であれども、こんな放置すればすべてを喰らい尽くすような驚異を何もせずに傍観するような暗君が治めているものではないと思いたい。
そんな感じでウホウホ拝まれながら特に何もせずに待つことさらに1ヶ月が過ぎた頃……異変が起きた。