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俺、異世界に行く

 拝啓、監禁状態から開放してくださったパンチパーマオバチャン、お元気でしょうか……いや、生きておられますでしょうか。私は訳がわかりません。閃光が収まったかと思えば、いきなり森の中です。


 隣には脇腹を刺されたブレザー姿の黒髪の女子高生、多分この子が男が刺した優花さんだ。刺された場所から血が滲み、苦悶の表情を浮かべている。この場に刺した男はいないようだ。


 一体何がどうなっているんだか……。


 ……まあ、俺には何もできないんだよな。結局俺は見てるだけしかできない。どれだけ目の前の子が苦しそうにしていても、俺には何もできない。


 俺にできることは……本当にないのか?




『取得可能な技能を表示します』




 ん?今誰か何か言っ




『[鑑定]任意の対象の情報をある程度解析します。取得しますか?』




 んんん?


……ええっと、よくわからんけど、いえすで。




ピコポーン




『[鑑定]を習得しました。条件を満たしたため鑑定は[心眼(soul)]にランクアップしました。』




 ナニコレ?


 よくわからんけどとりあえず……鑑定してみよう。




------------------------------


Name:球磨川 優花


Lv.1 出血 瀕死 意識混濁


Class:なし


攻撃:E 防御:E 速度:C 体力:C 魔力:B 技術:D 幸運:C


スキル:女神ラトゥイラの加護


称号:異界からの来訪者 勇者の卵


------------------------------




 ほんとになんだこれ!?


 ちょとまって、OK落ち着け。深呼吸だ深呼吸、口も肺もなにもねぇけどまずは落ち着こう。




 すぅ……はぁ……の、つもりだ。




 要約すると、ここは異世界で、この子は死にかけていて、未来の勇者で……俺が何故かスキル的なあれを手に入れた。


 何の解決にもなってねぇよ!!鑑定してどうやって傷を塞ぐってんだよ!!アホか!!


 ……落ち着け、俺。どうしようもないじゃないか。俺はサドルで、無機物で、何もできない路傍の石ころみたいなゴミなんだ。こうして葛藤して悶絶して一人ボケ突っ込みしても誰も何もいいやしない。俺はもう人間ではないのだ。明確に、間違いなく。


 ……それでも、ヒトが死んでいく様を見てるだけっていうのは辛い。


 少し視線を変えて、自分の一部を見て、鑑定……いや、心眼?してみる。




------------------------------


安物のサドル


分類:鈍器 置物


攻撃:E


異界から流れてきた乗り物のパーツ。短く扱いにくいため棍棒にすら劣る。


スキル:心眼(soul) 瞑想


------------------------------




 武器扱いだった。


 これはつまりアレですよ。俺はこの子の武器ポジションで召喚されたってわけ?


 まさかのサドルから武器にジョブチェンジか……。……アホか。


 棍棒にすら劣るとか、早々に捨てられるだろ。どうせ序盤のお助けアイテム的なポジなんだろ俺。まあ、ゴミの再利用って考えりゃあ理にかなっているけどなー……。


 ……さらに詳しく分からないかな?ちょいと意味不明な部分が多いし……何か起死回生的な解決策が見つかるかも知れない。



------------------------------


分類

物体ごとに定められた枠組み。


攻撃

装備し、武器として活用した場合の攻撃力ボーナス。心眼取得者の前世を考慮し、解りやすくSS~Eの7段階表記。一部例外有り。


スキル

技能あるいは奇跡等の総称。末尾に(soul)表記があるものは、輪廻転生後にも引き継がれる。


心眼(soul)

魂を通じて万物を見る者が持つ、無形の眼。使用者に最もわかりやすい形で解析結果を示す。鑑定の亜種進化スキル。本来自他の能力を可視化することはできない。


瞑想

悟りの門を叩き、その道を歩み出したものが持つ。悟りの極地へと至るために不可欠。


--------------------------




 何もなかった。特にこれといって。


 応急手当とかヒールとかあからさまになんとかなると分かるものは一切なかった。


 本当になんもできないんだな。……なんかやだな。すごく嫌だ。


 わかってる、俺は無機物で、サドルで、手も足も出ないってことくらい。




 けど、なぁ。




 今になって気付いたわけよ、俺。目の前で苦しんでいるこの子を前にしてようやく。


 サドルであることを免罪符にあがくことをやめてしまえば、こうして思考する、俺に残っている人間の魂の欠片、その存在そのもの否定することになるんだと。


 そして足掻けば足掻くほどに、サドルであることを否定する。


 俺はサドルだ。それは変えられない。


 だが……




 中身は人間だ!!三大欲求がなくとも、紛う事なき人間だ!!誰がなんといおうと人間だ!!ここが異世界なら、魔法のひとつくらいあるだろ?だからよこせよ!!魂でも記憶でもなんでも持っていけ!!大事なのは生身の人間の未来だろうが!!




ピコポーン


『スキル[念力(soul)]を習得しました。MPを獲得しました。MPは瞑想で回復できます。』




 ……またどこからか声が聞こえた。……念力?


 ちょ、ちょいまて、確認だ、確認。




------------------------------


安物のサドル


分類:鈍器 置物


攻撃:E


MP:1/1


異界から流れてきた乗り物のパーツ。短く、先端部が柔らかいために棍棒にすら劣る。


スキル:心眼(soul) 念力(soul) 瞑想 



念力(soul)

消費MP量に応じて、物体を動かすことが可能。


MP

超常現象を発生させる精神エネルギーを数値化したもの。魔力とは似て異なる。


------------------------------




 お、おおお。や、やったぞ!!俺はついにものを動かせるように……って、MP1かよ!!!


 ええい!1でもいい!!傷口を押さえ込んで0になったら即瞑想、即回復、即念力でなんとか、1秒でも命を繋げ……




ザッ ザッ ザッ





!?


 足音が近づいてきている。


 数は……一人か。


 モンスター的なのだったらどうしよう……。いや、どうしようもなにも終わりだ。俺じゃなく優花さんが。間違いなくその場で食われるか持ち帰りで食われる。無論性的にではなくカニバリズム的に。


 戦うか?MP1で?自分の体を浮かせて体当りすれば、時間は稼げるか?いや、そもそも1で浮くことができるのか?


 ……それでもやるしかない。


 ピクリとも動けないわけじゃないんだ。足掻く手段は手に入れた。足掻かずに食われるのを傍観するなんざ愚の骨頂。無理だろうがなんだろうがやってやろうじゃねぇか!!


 男サドル、無理を通してみせる!!!


「はっ!?女の子!?って、ひどいケガだ!!」


 現れたのは灰色のローブ姿のイケメン男だった。……無理を通す必要はないかも知れない。


 ローブ姿のイケメン男が駆け寄る。捲れるローブの下からは修道士のような服がチラチラを見える。あまりチラリズム的には嬉しくないな。まあ、野郎のパンツが見えても嬉しくないけどな。


 しかし、修道服となると……もしやこの世界には教会のようなものがあるのでは?いや、このイケメンに心眼を使えばいいじゃないか。それで白黒はっきりする。





-------------------------


Name:ゼト=ペルニクルス


Lv.37/100


Class:ビショップ


攻撃:D 防御:C 速度:D 体力:C 魔力:A 技術:D 幸運:D


スキル:魅了耐性 


光魔法(リペアラス アンゼルス キュアリア サクリファイス)


称号:エリート 聖人


--------------------------




 ビショップ……司教か。予想通り、宗教組織があるようだ。


 いや、それよりもスキル!なんかあたりっぽいのがある!!


 傷ついた女の子を抱き寄せるイケメン、ゼト。


 絵になるなぁ……。


「しっかりしてください!リペアラス!」


 優花さんの体が淡い光に包まれた。出血が止まり、顔色も回復している。あたりっぽいどころか大当たりだった模様。


 念のためだ、見てみるか。




------------------------------


Name:球磨川 優花


Lv.1 


Class:なし


攻撃:E 防御:E 速度:D 体力:C 魔力:B 技術:E 幸運:C


スキル:女神ラトゥイラの加護


称号:異界からの来訪者 勇者の卵


------------------------------




 おお、出血・瀕死・意識混濁のトリプルコンボが綺麗さっぱりなくなった。


 つまりこれは……うん、大丈夫なんだな。ああ、よかった……。




「う、ううん……あ、れ……?ここ……私は……?」


「あなたはひどいケガをして倒れていたのです。治療しましたが、出血が多すぎました。私が村まで運びますので、そのままでいてください」


「えっ、はっ、はい……」


 ゼトは優花さんを抱き抱えて来た方向をもどっていった。


 ホント、美男美女の組み合わせは絵になるわ。あのレベルじゃもはや嫉妬も起きやしねぇ。しかも優花さんのあの顔、ホれただろうな、間違いなく。ホれない要素皆無だ。


 そして彼らの姿が完全に見えなくなった。








……あれ?








 ちょっとまてや、俺取り残された!?


 ねえ!!どーなるの俺!?ちょっと!!ねぇってば!!かむばっくー!!!お願いだから戻ってきて!!!


……(´・ω・)

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